やっぱりフルオープンアタック老人じゃないか(困惑)
ある意味で藤近はまだ、未来を見据えて行動していたと言えるのだろう。
根本的な思想面、スタンスからくる極端さはともかくとして、自身の目指すゴールに向けて道筋を考えて動いていたように思う。
今、モニターの向こうで激怒する復讐鬼に比べればの話だ。翻って見てしまえば海方陸という男の正体は、驚くほどに単純明快な復讐者でしかなかった。
己の信じた藤近功というカリスマ、総大将を認めることなく排斥した者達、ひいては社会そのものへの復讐。
この男は、藤近を誰よりも盲信しながら……その実、誰よりも藤近と遠い立ち位置で動いていたんだ。
ある程度冷静になったのか、脱力した様子の海方がそれでもなお、取り押さえられながらも話す。
『……アドラメレクの誘いがあった時、俺は胡散臭さと詐欺の匂いと、それをも上回る期待と希望を感じた』
『復讐を成し遂げられるだけの力を渇望していたのか』
『それもある。だが一番はやはり功さんだ。世間の誰からも認められなかったあの人を立派にしてやれる、それだけの武力を構成員の多くが手に入れられれば、やりようによっちゃ世界をひっくり返せるかもしれないと感じた』
悪魔の囁き、悪事への誘い。
その対価としてちらつかされた権能による強化に、藤近は理想の達成を夢見たようだが海方もまた、野望に火を灯すこととなった。
おそらくは昔からずっと変わらないもの。藤近功という男を世間に認められる大人物にしてみせるという自分の夢に向け、大きな武器になると判断したのだ。
結果としてはご覧の通り、サークルは潰滅して二人ともお縄についた。スレイブモンスターや悪魔憑きについての情報を裏社会に流された以上、藤近の理想については保留だが……海方が思い描いた、藤近功の英雄化は完全に失敗したと言うしかないだろう。
それを弱々しく笑いながらこの男もまた、語った。
『フッ……見事に負けたがな。悪魔憑きもスレイブモンスターも、もちろん共闘した倶楽部やダンジョン聖教過激派も並大抵のもんじゃなかったってのに。やはり探査者は強かったし、うちの末端構成員どもは弱かったってことだろうさ』
『調べの結果、サークル構成員も一枚岩ではないことが確認されている。藤近の理想についても、懐疑的だが他に道もないからついていった程度の者も少なくなかった。それをお前は把握していたのか?』
『組織のことだぞ、当然だろう。元々が社会に居場所の少ない弾かれ者どもの憩いの場だし、アドラメレクとの接触以後はやはり大勢抜けていったがその上でサークルに残った連中だぜ。頭のネジがどっか外れた、イカれたバカばかりなのは承知の上だよ』
元々のサークルの性質──カレチャ出身の社会人が、世の中に疲れ、あの頃に戻りたいと集うようになった逃げ場としての集団。
だからこそアドラメレクに唆された以降は、やはり少なからずの構成員が脱退したようだ。そしてそれは、裏を返せば残ることを選んだ者達は方向性がどうあれ相応にヤバい人が多かったのだと海方自身が吐露している。
たしかに、とこれまで見てきた構成員達を思い返す。
大体みんなふざけたやべーやつばっかりだったな。テロの真っ最中なのに酒飲んで騒いでたり、アジトで遊んでたと思えば武装してたり、果てはフルオープンアタック老人だったり。
はっきり言うけどろくなもんじゃなかった。こればかりは海方の歯に衣着せぬ物言いにもうなずくことを禁じ得ないよ。
『……そんな連中に力を与え、テロリズムの尖兵としたのか』
『遊ばせとくのも仕方ないしな。悪魔が気に入ったやつには契約させたし、やる気の特に強いやつには武器も与えた。年のいった、それこそ俺や功さんが参加する前のサークルからのメンバーほど暴れる気満々だったのは俺としても意外だったぜ。ほれ、いただろ軍隊みたいな装備着込んだジジイやババア。あれにはさすがに俺も功さんもドン引きさせてもらったぜ、血の気の多い老人どもだってよ』
「えぇ……?」
「い、いましたねーたしかにー……」
俺とリーベ、その他アンジェさんやランレイさんなどが揃って呻く。件の"軍隊みたいな装備を着込んだご老人方"を直に視認した者であるなら、誰もが同じ反応をしている。
あの人達、たしかにめちゃくちゃ武闘派だったけども。藤近や海方ですらドン引きさせたレベルなのかよ怖ぁ……
今のサークルに所属していた時点で何かしら、大ダンジョン時代社会への怒りや憎しみがあったんだろうことは伺える。戦闘のなかでもなんかそんなこと言ってたように思うし。
おそらく構成員達は大なり小なり同じような思いを抱いていて、年季のいった方々はなおのことそれが強く深く、重いということなんだろう。
その結果がフルオープンアタックかあ。エリスさんが呆れつつコメントする。
「長年思うところがありつつも、力もないので黙っていた。そこに力や武器を渡されて、積年の恨みとやらが爆発した……ってところかな? いやまあ、それにしたって無茶苦茶だけどねハッハッハー」
「見た目は普通の、なんなら大人しめのおじいさんおばあさんだったんですけどね。私らと相対するなりおもむろにミニガンやらマシンガンを担ぎ上げた姿は、正直今思い返しても言葉を失いました」
「ま、ま、町中の古民家でのことだったから余計に怖かったね……こ、公平さんがビームで無力化してくれてなかったら、あたり一帯大惨事だったかも……」
それに応えるアンジェさんとランレイさんにとっても、いつぞやのご老人方の抵抗は記憶に強いようだ。
あったねーそんなこと。アジト捜査のなかで古民家に行ったら、そのままフル武装のご老人方と戦う羽目になったんだよ。そしたら秒で機関銃持ち出してきたから、さすがにそれはあかんやろ! って山形くんビームで無効化したのだ。
あれは怖かった。いきなりのインパクトで俺でも戦慄したものなあ。
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