二つの継承。そして……
試練が終わってすぐ、その場でヴァールとリンちゃんの怪我の応急処置が行われた。
この手のことに俺は、未だ不慣れだ。それゆえベテランかつ同性の香苗さんが主導で行い、俺はベナウィさんと共に補助をしている感じだ。
「出血は止まりましたし、多少の傷ならすぐに塞がるでしょうが……ヴァールさんの右腕は深刻ですね。場合によっては、手術さえ必要かもしれません」
「そ、そんなに」
「キャットファイトどころではないですね。レディ・シェンの方も、これ肋骨が結構折れてるでしょう。下手をすると、内臓までおかしくなっているかもしれません」
怖ぁ……二人とも満身創痍じゃん。
ヴァールの方はもう、見ただけで病院だよ〜! って感じのヤバさなんだけど、リンちゃんも大概だ。
ていうか肋骨何本かやっちゃって内臓まで大変って状況で、この子はあれだけの戦いをしてみせたのか。良くも悪くもすごい。
「へ、へーき……へーき。このくらい、すぐ治る……今すぐは、ちょっとむり」
「試練のための、これは必要なものだ。だが……痛いものだな、これは、さすがに」
「そらそうだよ。帰ったら二人とも病院だね。ていうかヴァール、ソフィアさんに怒られない? あっちからしたら、交代した途端に虫の息なわけでしょ」
「う」
強がりつつ本音を吐露する、リンちゃんとヴァール。なんていうかこの二人、微妙に思考回路がマッスルな感じが共通している気がする。
そしてソフィアさんはどうするのかと問えば、ヴァールは小さく短く、しかしたしかに呻いた。事前に分かってて話とか、してたわけでもないな、この様子だと。
どこかバツの悪そうな顔で、彼女は言った。
「……150年、温存してきた力をすべて使い果たすことは予想していたが。さすがにここまで身体を損傷するのは予想外だ。カーンの末裔は、容赦がないな」
「ぶい。ぴーすぴーす、えへへ、いたい」
「褒めてはいないな……だが、どこか150年、積もった心の澱を吹き飛ばされた感じもする。不思議だ、これが爽快感か」
感慨深く、ヴァールは長く息を吐いた。
あるいは150年分の何かを吐き出したのかもしれない。無表情だった顔付きも、どこか、穏やかなものに変わっていく。
そして吐き出しきった後、彼女は俺を見る。
「……山形公平。シェン・フェイリンに決戦スキルは譲渡された。それに伴い称号も変化しているだろう、確認してみると良い」
『あーっ!? 良いタイミングを見計らってリーベちゃんがお知らせしようと思ってたのに! 何してやがんですか前任者ー!!』
「うるさいぞ、後釜。ワタシは不甲斐ないがお前は騒がしいな」
『なな何をー!? おめー受肉したら覚えとけですよ!』
うるさいよリーベ、本当に騒がしい!
ギャイギャイ喚く脳内を叱りつつ、俺はステータスを開いた。
……本当だ、変わってる。ベナウィさんに反応したのが、今度はリンちゃんとも同じことが起きたんだな。
名前 山形公平 レベル359
称号 地砕く者と絆する人
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
称号 地砕く者と絆する人
解説 断獄割震、光脚唸り。三界機構が地を砕く。これぞ弐式・救世技法なり
効果 決戦スキル保持者の得た経験値と同じ分だけ、経験値を得る。効果はこの称号を得た戦いから適用される。
《称号『地砕く者と絆する人』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……継承は成りました。さあ、知るのです。かつて何が起きたか。今、何が起きようとしているのかを》
「れ、レベル359……!?」
「称号効果による、決戦スキル保持者と同様の経験値取得。ふ……継承するのはシェンだけではない、ということだ」
何か、知らない間にレベルが跳ね上がっている。称号効果を見るに、今の戦いにてリンちゃんが倒したヴァールの分、経験値を得たっていうのか?
ヴァールを見る。無機質な無表情とは打って変わって、ソフィアさんともちょっと違う、大人びた笑みで俺を見ていた。
「ヴァール、お前はこれを」
「知っている。それにソフィアもだ。これはな、山形公平。不甲斐なきワタシたちができる、新たな時代のアドミニストレータ、つまりお前へのせめてもの引き継ぎだ。我らの150年、どうか、受け取ってくれ」
その言葉は、色んな想いが込められているように俺には思えた。
負けてしまったこととか、そこから150年、何があったか不明にせよ待ち続けたこと。その間、様々なことをしてきたんだろう。
リンちゃんの一族に星界拳を興させたこともそうだ。
すべては今、この時のために。
リンちゃんに決戦スキルを渡し、俺には称号効果を通して、自分たちの経験値を渡すためにしてきたことなんだと心から理解できた。
それがどれだけ重みのあることなのか、俺には計り知れない。
だが、最新のアドミニストレータとして、これは受け止めなきゃいけない想いだ。
俺は、ヴァールに強く頷いた。
「任せてくれ、ヴァール。あんたとソフィアさんの想いも背負って、俺は必ず──」
「────僕を倒すって? はは、それは無理だよ」
響く、聞こえるはずのない声。あるはずのない、気配。
いるはずのない、姿。
「やあ、アドミニストレータ。なんだか懐かしい顔もいるね。100、うーん、何年かぶりかな? ふふふ」
振り向くと、部屋の入口に。
邪悪なる思念、その端末が立っていた。
この話を投稿した時点で
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総合四半期13位
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