表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1735/1827

一言で表すならそう、"迷惑"

 未来にも残る大きな禍根というべきか、あるいは見方を変えれば遺産というべきか? それは立場によって変わるのだろう。

 けれど、少なくとも今、ここにある秩序を護ろうと戦った俺達からすれば。藤近率いるサークルの行いとその結果、裏社会にもたらされた"非能力者でも能力者に届き得る力の存在"については認めるわけにはいかないのが実情だった。

 

「勝手にソフィアさんを哀れんで、慕って、それでやることがアレかえ……どうにも極端さね。どうあれテロによって大勢の人々が不安と恐怖に晒された、その時点でこいつらになんの正当性もないだろうに」

「質が悪いのはこの男自身、そのことを承知の上で開き直ってるってところよね。自分達のやったことは単なる犯罪で、だから捕まって裁きを受けるのも当然だと考えてるのがなんていうか、気持ち悪い情念を感じさせるわ」

「そ、それに裏社会に悪魔憑きやスレイブモンスターの情報が出回ったのを、未来への宿題とか、遺産とか言ってるの……な、なんだろう。自己陶酔? みたいな。自分のこと、今は誰からも理解されないけど後世に評価される存在だって、思ってるのかも?」

「瀬川も海方の野郎もそうだったが、どうも自分に酔っ払った手合いが多いんだな、サークルはよ……」

 

 マリーさんとアンジェさん、ランレイさんに神奈川さんが口々に語る。藤近ひいてはサークルの異質さというか、言動のすべてからうっすら漂う自己陶酔感についてだ。

 認定式の時の瀬川からずっとそうだったけど、こと連中の幹部格はおしなべて全員、どこか自分達の掲げるものや大義、あるいは感情に酔い痴れている感じが強いんだよな。

 

 例えば悪魔セーレへの恋慕に狂う瀬川であったり。あるいは、芝居がかった口調で藤近の意志を継ぐとか言っていた海方だったり。

 そして極めつけは今のモニターの向こう側、藤近だ……非能力者と能力者の格差をなくさせる、その大義のためだけにテロを起こして裏社会に危険な情報を流し広めてなお、悪びれることなく呵々大笑している。

 自身の罪について理解しているのに、未来のためにやったことだと言って憚らないのだ。

 

『後を継ぐ者は必ずや現れる! 俺はそう信じている! 今でなくとも遠い未来に、悪魔憑きやスレイブモンスターの存在を皮切りに人類はステータスに頼らずモンスターと戦える力をきっと、探り当てていけるだろう! その時こそサークルの真の勝利だ!』

『……能力者と非能力者の差が埋まることをもって大ダンジョン時代の打倒とし、その実現を未来の裏社会に託す、と?』

『そうだ! そしてその時にようやく、あの永遠の探査者少女もしがらみから解放されるはずだ。あんな小さな身体で、どれだけの辛苦を背負っているのか。哀れな英雄……無間地獄にも似たこの時代を打破するきっかけを、俺達サークルは与えたのだ!!』

「迷惑だ」

 

 興奮してか声を大きくし、自分とサークルの成し遂げたことの重要性を主張するモニターの男に……ヴァールは冷たく、短い一言で切って捨てた。

 迷惑。そう言うしかないだろう、この子からすれば。思慕や敬意を向けることはその人の自由であり尊重されるべきだが、そこから勝手に想い昂らせ、都合の良い解釈で騒動を巻き起こすなんてのは迷惑としか言いようがない。

 

 ソフィアさんへの想いは本物なんだろう。彼女を独裁者と呼び、乗り越えなければならない壁であるとした主張も、彼女ばかりに永遠に時代を牽引させることのグロテスクさを感じ取ったことによるものだとするなら個人的には理解できる。

 けれどそれでテロを引き起こして、あまつさえ後世にも引きずるような厄介の種をばら撒いてたら世話ないんだよね。これについては仲間達も同感のようで、異口同音に呆れた様子で反応していた。

 

「どうしてこう、極端なことばかりするんだろうねワルってのは。しかも方向性が微妙に火野を思い出させて他人事じゃないから嫌だよ、ハッハッハー」

「あくまでソフィアさんのため、世界のためって言いたげなのは虫唾が走るな……25年前の第七次モンスターハザードの時もそうだった。多くの人間を実験の犠牲にしておいて、ノインノア・ジェネシスの連中はそれを世のため人のためとかなんとか……」

「いつの世も、悪事はそれを正当化する大義をもって誤魔化されるということでしょうか? 嘆かわしい話ですが、こればかりは人の業というものなのかもしれませんね」

「とにかく身勝手な男ですねえ。結果がどうあれ、過程が罪に問われるものである時点で決して善行ではないでしょうに」

 

 エリスさん、ロナルドさん。香苗さん、セーデルグレンさん。今現在の大ダンジョン時代を代表すると言っていいくらいの実力あるオペレータ達も、口々にサークルを否定する。

 探査者としての純度と練度が高いほど、今の藤近のような主張は認め難いだろう。人々を守るために戦っているのが自分達でありソフィアさんでもあるのに、それをダシにするかのような言説でこんなことしでかしたんだから。

 

 やってることは責任転嫁と変わりない。今まさに、藤近はソフィアさんばかりか能力者、非能力者問わずすべての人に自分達の行いの理由を押し付けたんだ。

 そしてなまじカリスマがあったばかりに、この男に多くの人が集ったのが犯罪組織サークルだと……そういうことでしかなかった。

「大ダンジョン時代クロニクル」第一次モンスターハザード編完結!

https://ncode.syosetu.com/n5478jx/

第二次モンスターハザード前編は8/1スタート!

よろしくお願いしますー


「大ダンジョン時代ヒストリア」100年史完結しました!

https://ncode.syosetu.com/n5895io/

よろしくお願いいたしますー


 【ご報告】

 攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど

 書籍版、コミカライズ版併せて発売されております!


書籍

 一巻

 amzn.asia/d/iNGRWCT

 二巻

 amzn.asia/d/aL6qh6P


 コミック

 一巻

 amzn.to/3Qeh2tq

 二巻

 amzn.to/4cn6h17

 三巻

 amzn.asia/d/cCfQin2


 Webサイト

 PASH!コミック

 https://comicpash.jp/series/d2669e2447a32

 ニコニコ漫画

 https://sp.seiga.nicovideo.jp/comic/63393

 pixivコミック

 https://comic.pixiv.net/works/9446


 電子版、書籍版、コミカライズともに好評発売中!

 よろしくお願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
サークルの幹部たちは「失敗前提」で活動していたみたいだけど、もし運よく(運悪く?)今回の計画が成功してしまったらどうするつもりだったんだろう? 特に藤近は「その後のビジョン」とかは一応考えて…いたよね…
ソフィア/ヴァールを地獄から解放すると言いつつ、やってることがテロって、馬鹿なのかな? 正義依存症の英雄症候群って最悪。 テロリストのいう正義に依存して喝采願望で暴れて英雄気取りとか馬鹿じゃないですか…
もう全部ぶちまけちゃおうぜ。大ダンジョン時代は真の意味で終わっていて数百年かけてあるべき形に戻る。お前のしたことに意味はない、って。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ