一方的に利益を受け取る立場だなんて、赦せねえよなァ!?
探査者を、非能力者を護るための人身御供あるいはスケープゴートと見なす。そして大ダンジョン時代はそうした探査者達の犠牲の上に成り立っている社会なのだと、叫ぶ藤近。
その思想の強さというか主張の激しさ以上に、その思想が驚くほどに真人類優生思想と似通っていることに、俺は思わず指摘しないではいられなかった。
「"能力者が犠牲になっている"という思想そのものは、青樹さんや関口くんがかつて抱いていた鬱屈と同じだ……真人類優生思想。けれど藤近の場合は」
「能力者を真なる人類として非能力者より上位に位置付けているわけではないようだな。むしろ、逆に思っている?」
「非能力者に消費されている下位の立場に探査者はある。そう主張しているようにも思われますね、この言い方では」
サウダーデさん、シャルロットさんもぽつぽつ反応するこの主張と思想。
そうなんだよ、これまでに会った何人かが抱いていた真人類優生思想と藤近の思想は、真逆でありながら結論がほとんど同じなんだ。
どちらも主張の核は"能力者が非能力者のために使われている"ことだ。
そこから能力者を極端に持ち上げたのが優生思想のほうだけど、藤近はもう少しそのへんマイルドというか、対等なものとして扱おうとしていることも伺える。
『能力者を探査者という枠に押し込めて……まるで牢獄に閉じ込めるかのように生涯をダンジョン探査に費やさせる。信じられないほどの人権侵害だ! ステータスを得るまでの夢や理想をすべて捨てさせて遮二無二モンスターとの死闘に一生を捧げさせる、それを一般的に"生贄"と言うのだ、違うか?』
『……反探査者思想はいくつも分派しているが、お前の場合はそういったケースか。だが調べでは、お前はむしろ非能力者の権利向上を訴えていたはずだ。探査者労働法の改正案に対して反対するデモに参加していたはずだが』
『そもそも探査者だからと、別途に就労を制限する法があること自体が赦せないからな。彼らと俺達で何も変わらない。同じ人間なら、能力の有無を理由に就労制限などあってはならないという思いからデモに参加した。非能力者の権利向上については──』
大ダンジョン時代における能力者の在り方……ステータスに目覚めた以上は必ずWSOや全探組に登録し、以後探査者としてダンジョン探査に励む道を必ず歩むという、この100年ですっかり社会の基盤となった制度。
そこに藤近は納得していないようだった。たしかにステータスを得て以降は明確に進路は制限されるし、それまでに就いていた仕事や抱いていた夢については、諦めざるを得なかったという探査者さんもいるのを、俺も知っている。
そうした探査者だけの責務や義務について、この男は赦せずにこれまでデモなどにも参加してきたのだという。ステータスのあるなしで扱いが変わること、そのものを藤近は認められなくなっていったんだな。
探査者の自由と制限撤廃、それと同時に掲げていたらしい非能力者の権利向上思想についても、サークルの幹事長だった男はその内心の想いを余すことなく語ってみせた。
『──権利には責任が伴う。様々な権利を制限されている探査者は、裏腹に裕福な暮らしや社会的特権を享受しているのも事実。だからこそ非能力者と能力者の扱いを同じにしたい俺としては、権利向上を訴える以上は背負う責務も同等のものにしたいと俺は主張している。それゆえのこの戦いだ』
『…………どういうことだ』
『俺達の代わりに戦ってくれている探査者達の権利と同じだけのものを、非能力者が何も背負わずぬくぬくとただ、享受することなど断じて許さん。ここではっきり言うぞッ! 非能力者もモンスターと戦うべきなのだッ! たとえ悪魔と契約してでもッ! 他ならぬモンスターを操ってでもッ!!』
「この男、まさか……!」
能力者と同じ権利を求めるからには、能力者と同じだけの責務をも背負うべきだ。
藤近の主張は平等主義的なものだが、それゆえに危険極まりない思想にもつながっていて、その極端さに神谷さんが戦慄の声を上げた。
──つまりは非オペレータにも、武器を手に取りモンスターと戦えと言っているのだ。
そしてそのための力はどんな手段を用いてでも、それこそ悪魔に魂を売り払ってでも手に入れろとすら説いている。
苛烈、そして過激すぎる。ステータスという明確な差異があることはどうしようもない現実であり事実。
けれどこいつはその一切を許さず、ありとあらゆる老若男女すべてにモンスターと戦えと言っているんだ。そのためなら悪魔と契約してでも力を手にしろと、他ならぬ自分達が先んじて実例となってそれを主張していたんだ。
『ステータスに依らず探査者と互角に戦う力を手にし、それをもってあらゆる非能力者が探査者達と肩を並べて戦えるようにする! "俺達"だって"彼ら"とともに生きていけると、この時代を創り出してしまったソフィア・チェーホワに強く示すッ!! それがサークルの本当の理由だッ!』
『馬鹿な……! そのためにテロリズムに走ったのか!?』
『誰よりも長い間牢獄に囚われ苦しんできた、彼女にこそそれが必要だったんだ! もう永遠の探査者少女などというしがらみから解き放たれるべきだと、俺は訴えたかったんだよ!!』
その主張。その動機。そのすべてが藤近功だった。
ソフィアさんへの憧れ、思慕。探査者への畏敬と哀惜。そして非能力者への苛立ちと期待。
すべてが綯い交ぜとなって──この男は、ここまで暴走してしまったんだ!
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攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
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二巻
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三巻
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