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攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─  作者: てんたくろー
本編

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ちょっとだけ大人になった日

「しぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 蹴り上げられたことでがら空きになった上半身に、次々と必殺級の蹴りが叩き込まれる。その間も右手を左脚で踏み抜き、それを軸としているため、必然的に右足による連撃になる。

 マシンガンを彷彿とさせる勢いに、ヴァールの顔と言わず首と言わず胸と言わず、吹き飛びそうなほどに蹴り続けられていた。

 

「がっ!? ぐ、が、げぇあっ!?」

「え、エグぅ……」

 

 思わず口にすると、余計に目の前の光景が凄惨に思えてくる。相手はモンスターでなく人体──受肉した精霊知能を人間同様に扱うとすればだが──ゆえ、当然血も出れば骨も折れる。

 つまりはヴァールの上半身は、あっという間に血塗れになっていっているわけだ。しかも右手は押さえつけられているわけなので、必然的に蹴られれば蹴られるほど右腕が千切れたみたいに不自然に伸びていく。

 

 程度の差はあれ、絶対にこういう感じになるから、探査者が人間に向けてその力を振るうのは御法度なのだ。

 まず間違いなく死ぬ。相手が非能力者であればなおさらだ。

 

 ヴァールも死ぬんじゃないかと、一瞬止めようかとも思ったが……次々浴びせられる蹴りに肉体を損なっていく中、それでも瞳は冷静さを持ち、リンちゃんを見定めるように見つめている。

 まだ、試練をしているのか。死ぬかもしれない、この状況で。

 

「ぃぃぃやぁぁぁぁっ!!」

「が、はぁっ!」

 

 浴びせ蹴りの直後、リンちゃんは体勢を変えた。ようやく左脚を、踏み抜いていた右手から放し、ひらりと舞って──

 うわ、顔面に足刀。うわぁ。

 

「ぐば、が──」

「星界拳奥義──!」

 

 反動で後方に吹き飛ぶヴァールに、星界拳の最後の追撃が行われようとしていた。

 左脚を挙げ、片足で立つ鶴のように構える。闘気が可視化されるほどに色濃く高まり、敵へと道筋のように走っていく。

 だが、ヴァールも黙ってやられるがままではなかった。

 

「次が、最後か……! ソフィア、150年のすべて、ここに、込めるぞ!」

 

 右手はすでに使い物になっていない。何なら上半身だってズタボロ、顔も、美貌を完全に損ねてしまっている。

 それでも。

 ヴァールは、残る左腕からまっすぐに、すべてを託すかのようにリンちゃんへ向け、特大の鎖を放った。

 

「《鎖法》──ギルティ・チェイン!」

「星界! 盤古けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 放たれたお互いの、最後の技。

 ヴァールのギルティ・チェイン──特大サイズの鎖の先に、鋭い刃が付けられている。凄まじい勢いのそれが、空気をも裂きつつ星界拳士へと向かう。

 

 それと同時にリンちゃんも、奥義、星界盤古拳を繰り出していた。盤古──なんだっけ?

 

「中国神話における創世神ですね。生まれ育つと共に、天地を分けた開闢の使者です。道教における、元始天尊とも同一視されます」

「ミス・御堂は物知りですねえ」

「伝道師ですから」

 

 タイムリーな解説どうも。伝道師が何に関連するんだか知りたくもないけど。

 さておき、その創世神とやらの名前を与えられたその奥義。凄まじい闘気を左脚の足先に一点集中させ、一直線にヴァールへと飛び蹴りの形で放たれる。

 

 おそらくだが、先の右脚による連撃から左脚での蹴り飛ばし、そこから今の追撃という、一連の形を以て星界拳奥義とするのだろう。

 本来であれば反撃さえさせないまま、最後の一撃まで極めていたはずだが……ギルティ・チェインを発動したのはヴァールの力量ゆえだろう。見事と言う他ない。

 

 互いに向けて放たれた鎖と蹴り。それらは当たり前のように真正面からぶつかりあった。

 通常であれば足が切断されるだろうが、星界拳士の渾身の奥義だ。そうなるはずがない。

 むしろ、足先が刃を砕き始めていた。リンちゃんの、いや96年に亘る星界拳の積み重ねそのものが、結実しつつあるのだ。

 

「しぃぃぃぃぃぃ────!!」

「……ここまでか。フェイリン、いやシェン一族。よくぞここまで辿り着いた」

 

 刃どころか、鎖さえ粉々に粉砕しつつなお、跳び蹴りの勢いは止まらない。

 ふと、ヴァールは血塗れの顔で微笑んだ。どこか清々しい、やり遂げたような笑顔だった。

 

「そして──見事だ、カーンの末裔。決戦スキル、お前になら託せる」

「────ぃぃぃぃぃぃやぁっ!!」

 

 そして、鎖がすべて砕かれきって。

 ヴァールのギルティ・チェインは打ち破られて、シェン・フェイリンの星界盤古拳がその胸元に叩き込まれた。

 

「ぐっ……あああああぁっ!」

 

 もはや吹き飛ぶことさえない。すべての衝撃が、一切逃れることなくヴァールのダメージとして変換されたようだ。

 その場で両膝を突く。倒れそうになった彼女の身体を、リンちゃんがすぐさま抱き止めた。

 血塗れの顔を、汚れることも厭わずハンカチで拭い、少女は目に涙を浮かべて言った。

 

「謝謝……ありがとうございました。始祖カーンと、私に至るまでに生まれ育ったすべての血族に代わり、御礼申し上げます」

「ふ…………ふふ。ふふふ。良い、決着だ、フェイリン」

「永きに亘り護ってこられた、弐式・救世技法 《アルファオメガ・アーマゲドン》は、このシェン・フェイリンがたしかに引き継ぎます。どうか、後のことはお任せください」

 

 使命感と決意。それらを含めた宣誓を行うリンちゃんは、試練の前よりずっとずっと、大人びて見える。

 決着だ。決戦スキルは今、ここに継承された。

この話を投稿した時点で

ローファンタジー日間6位、週間6位、月間2位、四半期1位、年間7位

総合四半期13位

それぞれ頂戴しております

本当にありがとうございます

引き続きブックマーク登録と評価の方、よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[良い点] 盤古拳(けり) [一言] まぁ戦場剣術に蹴り技があるくらいだし、そういうもんだろうさ。 え、あんまり殴ってないって?(_’ 拳法(むてじゅつ)と読めばいいのさ。
[一言] なんかリンちゃんのことちょっと嫌いになったわ
[気になる点] < それと同時にリンちゃんも、奥義、星界盤古拳を繰り出していた。盤古──なんだっけ? 急にボケた?
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