"永遠の探査者少女"にあこがれて
『藤近功、31歳。独身で現在は特定の職業に就いていないが、大学卒業から26歳までの間は家業である野菜農家を営んでいた。ここまで何か間違いは?』
『ない。まるでファンのように良く調べてくれているなあ……ああだが実家の手伝いというのは多少、過小かな? 23の時に家族が死んで、そこから農業は俺が切り盛りしていた。サークルの仲間達も手伝ってくれてな、それなりの規模と稼ぎになっていたぞ。まあ地元の人達と折り合いがつかず、結局止めちまったが』
『……そのようだな。"農園CIRCLE"としての活動が記録に載っている。だが26歳の時に廃業し、そこからは住所も引き払い無宿無職か』
まずは来歴確認から。藤近功の簡単なプロフィールを、その記載に嘘偽りがないか検めていくおまわりさんに、やはり藤近は従順かつ素直に答えた。
元々は農家さんだったのか。そして大学を卒業してからは実家で両親の仕事を引き継いでいたけど、これは家族を失ったことが関係しているみたいだ。
もちろんそれは気の毒な話だ。しかも26歳の時、つまり5年前にそんな大事な家業を畳んだってのも複雑な気持ちになる。
どうもサークルの構成員達にも手伝ってもらって農家としてそこそこに活躍していたってのに、おそらくは何かしらのトラブルがあって断念し、そこから家すら捨てて住所不定無職のまま今日まで潜伏していたそうだ。
そして……時期的に考えておそらくは、アドラメレクとの接触が明確なターニングポイントだな、これは。
代々の家業を止めて行き詰まったところに、アドラメレクによる干渉があってテロリズムへと転身したものと見るべきか。そしてその推測はモニターの向こう、当の本人が豪放磊落に笑って答え合わせするかのように肯定していた。
『おう! アドラメレク──新目玲玖の助けでそこからはサークル一辺倒だ! 死んだ家族には後を継げんですまんかったが、ま、これも大義のためだ。以後は構成員の家を転々としながら仲間達と準備を整えていたのさ』
『委員会からの出向者、新目玲玖か。なぜお前達に近づいた? そしてなぜ、お前はその世直し計画を始めた』
『新目の動機なんぞ知らん! 何やら俺達の理想理念、そして大ダンジョン時代を終わらせるべきだという意志に呼応したとかなんとか言っとったがどうせ建前だろう。本音のところはどうでもいい、大事なのはやつが俺達を支援してくれていたということだからな。最大限にノセられてやったとも。そして!』
いきなり核心を突く質問。新目玲玖こと悪魔アドラメレクが藤近に接近した理由、そして藤近本人の理由。
少しは語ることを躊躇するかと思われたそのあたりの質問についても、やはり藤近は即答するばかりだ。もっともアドラメレクの動機については彼自身も疑念を抱いているようだが、それすら呑み込んで委員会の支援を受けることにしていたようだ。
つまりサークルはそもそも、委員会に利用されているだけというのも織り込み済みで逆に利用していた部分もあるってことだ。
概念存在相手によくやる……アドラメレクもそこを承知で唆していたんだろうから、まさに割れ鍋に綴じ蓋ってところか? お互い好き放題に利用し合う、内々のことなら勝手にやっていてくれって案件ではある。
加えてそこから目をかっと開き、藤近は熱が入ったように手錠をかけられた両拳を握りしめて叫んだ。
どこか嬉しそうに高らかに、誇らしげにさえして、己自身の動機を熱く語ったのである。
『そして俺自身の動機は! 大ダンジョン時代の守護者ソフィア・チェーホワを打ち倒し新たな時代を切り拓く、先駆けの一矢となることだ! 偉大なる統括理事を倒すことで、時代を、世界を先に進めることが俺達の理想であり夢だった!』
『……確認したい。お前やサークル構成員にとって、チェーホワ統括理事とはどういった存在だ?』
『知れたことを、尊敬すべき偉大な英雄にして時代の守護者だ!! 俺自身あの女傑には強い尊敬を抱かずにはいられない、100年もの間ひたすらに探査者のための社会を築き上げてきた彼女こそはまさしく永遠の探査者少女! 後にも先にも二度と表れない唯一無二の偉人だろう!!』
「…………これだ。意味が分からない、この男は本気で心の底からソフィアさんとヴァールのことを尊敬している」
明らかに熱の入った本気のリスペクト。ソフィア・チェーホワの偉大さを語る藤近の様子に、俺は前にも感じた意味不明さを再度認識して呻いた。
世辞や誤魔化し、言い訳の類では絶対にない。そんな声色や表情言動ではないのは、俺でも分かることだしこの場にいる誰しもが悟っていることだ。だからこそその上であえて敵対を選んだこの男を、未だに俺は測りかねている。
WSOの統括理事、永遠の探査者少女。時代の守護者ソフィア・チェーホワをここまで強く敬愛しておきながら、それでどうして彼女を打ち倒して時代を拓こうとする。
以前に悪魔達から聞いた話から、少なくとも藤近にとっては彼女は"人類が乗り越えるべき壁"なのだとは推測できた。人間にとっての概念存在と同じく、藤近にとってはソフィアさんこそがいつの日にか乗り越え、巣立たなければならないモノと扱っているのではないかと、そう思ったのだ。
だが実際に藤近当人がどう思っているのか、それが今から分かるんだ。ヴァール自身も無表情ながら視線を険しいものにして、モニターを注視する。
矛盾のような理屈。藤近のある種の愛憎の、底が今から知れ渡ろうとしていた。
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