指導者にもなり得た、かもしれない煽動者
取り調べの一番手からの、いきなりサークルトップの藤近功。豪胆な笑い声をあげて爽やかに笑う姿は快男児に見えなくもないが、やったことはシンプルにテロリズムだから始末に負えない。
つまるところこいつ、自分達のやったことになんの罪悪感もなければ反省もしていないのだ。完全にまだ、自分達の行いが正しいものなのだと信じ切っている。
そんな、ある種の狂信めいた言動だった。
『チェーホワ統括理事がここを見ているのだとするなら、なんとも面映ゆい話だな! ぜひとも直接対面して語り合いたいところだが、残念ながら俺ごときを相手になどすまいか!』
『無駄口を叩くなと言っている……いいから聴取を始めるぞ、サークル幹事長・藤近功』
『応ともよ、なんでも聞くが良い! 俺は逃げも隠れもせんぞ、己の道を駆け抜けたのだ、何一つとて恥じることはないっ!!』
おまわりさんの言葉にも素直に応じつつ、やはり言動がどこか大物然というか威厳を放っている。己の道を駆け抜けたと豪語する姿から、たしかな自信と誇りを感じる。
この男、やはり質が悪いな。湖畔での初対面時、抱いた印象に確信を抱く。
人を率いるに足るカリスマを持ちつつ、しかも自己陶酔にまで達した信念を持っている。
一つ一つの言葉にどうしようもなく自信と、そこから来る根拠不明な説得力を込めている。言霊というかな、声の力による扇動を自然と行っているのだ。
これでは、こいつに付き従う者達が多数いてもおかしくない。まして元々のサークルはモラトリアムを望む、疲れ切った社会人達の集まりだったそうだし。
心の空隙に沁み入るように、さぞやこの自信満々な威容は構成員達の道を照らす光となったろうさ。それこそ目を焼き潰し、道ならぬ道さえ歩ませてしまうほどにはな。
「藤近功……なるほど、曲がりなりにも人を率いるだけの男ではあるようだ。その立ち居振る舞いや声の張り、力。そのすべての所作に指導者としての素養を感じる」
「ですが同時に、それしかないような感じも受けますねえ私には。カリスマのある政治家タイプでしょうが、中身は空虚さを感じさせますねえ。そのへん、サン・スーン先生的にはどう見えます?」
「コーデリア、まったく君の眼力には昔から驚かされるな。ホホホホ……たしかに、威厳こそある。カリスマと言えよう雰囲気だが、しかしそれだけだろうな」
サウダーデさん、ベナウィさん、サン・スーンさんが率直に藤近を評しているのを聞く。
揃ってカリスマある者、大人物となり得る人材だったことを認めはするものの……けれどそれだけの男という見立ても、いくらかあるみたいだ。
それは俺も感じるところで、たしかに人を従わせる、人が慕いたくなるような魅力を放つ男だと思う。顔つきも常に自信満々で不敵な笑みを浮かべているし、こういう人の背中は大きく見えるものだからね。
ただ、同時にハリボテ感というか。どこか薄っぺらさを感じ取れてしまうのは、これまで敵対してきた相手だから批判的に見えてしまうとかって話でもないだろう。
サン・スーンさんが、続けて藤近についての印象を語る。
「中身の伴わないのはこれまでの行動からも分かりきっている。外面だけは大したもの、と褒めるくらいはしようかな。もっとも本物のカリスマの前ではやはり、小人物の域は出まいが」
「要はそこそこ人を誑かせる、口八丁手八丁の輩ってかい。得てして人をノセるカリスマなんざァ、末は指導者か扇動者のどちらかでしかないってことさね。ねぇヴァールさん、世界的指導者から見てあの若いの、どう見ますかい?」
「それをワタシに聞くのか? ……言うまでもないだろう。悪魔の甘言に乗って、元あった組織の形を歪めてまでテロリズムに走った程度のカリスマなど、詐欺師も同然だ」
カリスマ。それをもって人を導く者は、その実態の様相によっては指導者ともなるし扇動者ともなり得る。たしかな信念の下に正しく人を導くならば前者だが、薄っぺらなままいたずらに人を煽るだけならば後者と呼ばれるのも仕方がない。
そういう意味でマリーさんは今、指導者としてのヴァールの意見を求めたんだけど返ってきた答えがすべてだろう。
藤近功は詐欺師だ。
多くの仲間を騙し、暴力と悪魔による革命思想に酔わせ、染め上げ、そしてテロリズムへと走らせた。
使い方によっては、考え方次第では指導者として正しく人を導けるだけのカリスマを持ちながらそれを腐らせた扇動者──そう考えてモニターの向こうを見ると、どうにも豪胆に笑う男が途端に胡散臭い、ハリボテの虚勢に見えてくるよね。
『────それでは取り調べを開始する。問われたことに嘘偽りなく答えろ、虚偽はお前の罪を重くするだけだと知れ』
『言われるまでもないさ! 俺の知る限りのすべてを詳らかにしてやろう、そしてそれこそが我らサークルの、時代を切り拓く先駆けの一矢たらんとした熱き戦士達の生き様なのだとお前達こそが知るがいいっ!!』
威勢良く吠える。素直になんでも答えるつもりなのは良いけど、これまた身勝手な理屈を聞かされそうな気がプンプンする物言いだ。
少し身構えながらもいよいよ、藤近の口から一つの真実が打ち明けられるのを俺達は耳を澄ませて聞き取ろうとしていた。
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