ふるえるぞダンジョン、ぶっ飛ばすほどキック
右足を前に出し、静かに深呼吸を繰り返す。ダメージを紛らわすためなのか、はたまた次なる技への移行のためなのか。
どちらにせよリンちゃんは、まだ戦いに勝機を見出しているらしかった。
「星界拳、ここからが本領」
「末恐ろしい話だな。現時点でもすでに、ワタシの期待に大分、応えてくれているが」
語るヴァールの、声音に偽りはない。本心から、すでにリンちゃんと星界拳を認めていることが窺える。
だが、未だ余裕であることには間違いない。星界八卦脚の、ほとんどの蹴りをまともに受けてなお、ピンピンしているのだ。それどころかカウンターまで敢行している。
お互いに一進一退。まさしく、勝負はここからと言ったところか。
「シェン・カーンより積み重ねた一族のクンフー、この程度にあらず……目の前の試練、必ずや打ち破る!」
「意気は良い。だがそれだけではどうにもならんのだ……ワタシとソフィアがそうだったように」
「……邪悪なる思念との、戦い」
「何もかもの解析と準備が不足していた。何よりワタシたちでは力が足りなかった。だが今は違う」
不意に、視線がこちらを向いた。無機質に、俺を見てくる。
かつてサポートしていたソフィアさんの、直系の後進にあたる俺、山形公平。
思うところがあるのだろう、目を細めて言ってくる。
「敗戦の末路、迎えたセーフモードだが……それゆえにすべての解析と準備を行えた。それでも絶望的な反抗にすぎなかったところに、山形公平が現れた」
「俺が、アドミニストレータになったことか」
「ワールドプロセッサやかつての同胞、精霊知能にとってはな。だがワタシとソフィアにとっては少し、見解が異なる」
「……何?」
「スキルがなければただの人間に過ぎないお前が、コマンドプロンプトに直接、干渉できたこと。あまつさえ既存のアドミニストレータ用スキルを編集、改ざんし、まったく新しいスキルを作り上げたこと。それらはこの時代にあってもなお、あまりに異質だ」
その言葉に思い返すのは、アイを救った時。
《風浄祓魔/邪業断滅》を改ざんして《ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で》という、まったく新しいスキルを俺は、たしかにこの手で作り出した。
ソフィアさんやヴァールにとって、俺のその力が何かの可能性を予感させたと言うんだろうか。システムさんたちと異なる方向から、山形公平に何かを見出した、と?
「お前の持つ力は未だに謎だ。それをたしかめるためにもここに呼んだが……どうあれそれこそが、最後の一手になり得るとワタシの、心が直感している」
「最後の、一手」
「確認はこの試練が終わってからとするが……話が逸れたな。フェイリンよ、意志だけでは成せぬのだ。力が伴って初めて、意志は形となる。お前に、その力はあるのか?」
確認ってなんだよ怖ぁ……
問いかけようと思ったが、話を切り上げられてしまった。言うとおり、今はリンちゃんの試練だ。まずはそれを、見届けなければ。
ヴァールの言葉を受けて、リンちゃんもさらに闘気を高めて放つ。
「笑止。我が星界拳にて、この心を救世技法へ至らせる!」
「良いだろう。それでは我が鉄鎖、砕けるものなら砕いてみせろ。その先に、《アルファオメガ・アーマゲドン》はある」
「鉄鎖ばかりか──その身まで砕くっ! しぃぃぃぃぃ、やぁぁっ!」
言うや否や、リンちゃんは右脚を大きく、天に向ける。
そしてそのまま地面を踏み抜いた。
震脚──途端、ダンジョン内に走る激震!
「うわわわっ!?」
「わ、私よりめちゃくちゃしてませんか!? 絶対、私よりヤバいことしてますよね!」
「あなたは論外でしょう、くうっ!?」
大きく揺れる部屋内で、突然のことに体勢を崩す俺、香苗さん、ベナウィさん。
どさくさ紛れにベナウィさんが自分以下を見出そうとしているが、悪いけどあなたよりやらかしそうな人、探査者には一人もいないと思うの。
足場から揺さぶられ、身を崩したのはヴァールも同様だった。見れば、反射的に屈んで転倒しないようにしている。
姿勢の関係上、右手が地に付いている──自由なのは左腕のみ!
初めて焦りを見せる敵が、呻いた。
「し、まっ──」
「遅い!」
しまった、という間すら与えられない。今までよりずっと速い速度で、リンちゃんはヴァールに接近していた。
矢継ぎ早、大地に付いた手を左脚で踏み抜く。
「ぬぐうっ!?」
「逃さない、何もさせない。ここから見せるは星界拳、奥義!!」
「小癪な──!」
衝撃に、無表情だったこれまでとは一転しての苦悶を浮かべる。さしものヴァールも、あの豪脚で末端を踏み潰されるとそうもなるか。
それでもどうにか、浮いた左腕から一本、特大の鎖をリンちゃんめがけて放とうとする。
しかし。
「しゃぁっ!!」
「ぐふぁっ!?」
顎を真下から蹴り上げられ、それも叶わない。さらに言えば右手を固定された状態ゆえ、蹴り上げられた身体に右腕がついて行かず、人体としてあってはならないほどに伸びるのが見えた。
外れたな、骨。腱も伸びたし、場合によっては千切れたかもしれない。
一切容赦なく、リンちゃんはそのまま奥義を放った。
この話を投稿した時点で
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総合四半期12位
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