だって、僕らは精霊知能だから
イヴさんことワルキューレ・レギンレイヴのインターフェイサーへの出向が決まった。地味な話ながら史上初だろう、概念領域とシステム領域が明確な形で肩を並べての部隊がこれで成立したわけだ。
もしかしたら今後、彼女のようにインターフェイサーに入る概念存在もでてこないとも限らないわけで。それを考えると重要な第一歩と言えなくもないよね。
「インターフェイサーへの出向については私からレギンレイヴに打診します。その結果、彼女が参加の意思を示したならばそこで改めて世界の真実、すなわちシステム領域について説明するつもりです」
「よろしく頼む、織田。場合によっては彼女はシステム領域においても今後、重要な立ち位置になるかもしれないからね」
「無論ですとも、クククッ……何よりこの話は概念領域における北欧神話圏の存在感をより強めることにもなりましょう。未だ理解の及ばぬソフィア・チェーホワ率いる"あなた方"と、唯一無二のつながりを持っているのは我々なのですからね」
「ものの見事に権力争いって感じですねえ……」
概念領域内での主導権の取り合いせめぎあいっていうのかな。そういう政治闘争的な部分にも絡む話のようで、あからさまにほくそ笑む織田にミュトスが呆れ混じりに吐息を漏らした。
世知辛いというべきか? さりとて知的生命体で、しかも明確に社会が出来上がっている集団がいくつもあるのは現世領域も概念領域も同じだ。だったらこうした競い合いも起こるのは当然と言えるだろう。
言ってるシステム領域だって、自我を獲得した今となってはそういう方向に行かないとも限らないからね。
何せ数だけで言うなら精霊知能はマジでぶっちぎりだし、なんなら今後さらに増えていくからね。たぶん1000億体くらいにはなるかもだ。
うーん、そうなるとやっぱりそのうち精霊知能内でも勢力とか明確に分かれるのかもなあ。場合によっては争いとかになるのだろうか? そうなったらさすがにワールドプロセッサによる粛清案件だけど、そのへんも可能性としては考えておかないといけないよなあ。
おそらくは現状の精霊知能のなかで一番、その手の政治に詳しいヴァールさんを見る。彼女は無表情でも目を丸くして、きょとんと俺を見返した。
「……どうした? ワタシの顔に何かついているだろうか」
「ああいや、そのうちシステム領域とかでも、精霊知能が派閥争いとかしだすのかなーってふと気になってな。いわゆる権力闘争的な?」
「ふむ? ……可能性はないとは言えないが、現世や概念領域のように対立とまではいかないだろう。精霊知能の存在意義から考えて、そんなことをする必要などないだろうからな」
「ワールドプロセッサとコマンドプロンプトの下、世界の運営と管理維持を行うためのシステムアプリケーションがオレ達ですからね、父様。魂を獲得して自我を得て個性が生まれても、そこのところは絶対に変わりません」
「根本的に世界のためにあるのがリーベちゃん達精霊知能ですからー。そこのところはワールドプロセッサや他ならぬ公平さんこそがご存知のはずですよー」
「ん……まあ、そりゃな。私達はすべて、世界のためにこの心を得たんだものな」
他ならぬ精霊知能達の見解は、それゆえに説得力のある意見だ。
そもそも現世存在や概念存在と私達は決定的なところで違う……緊急事態のなかで、世界を存続させるためだけに個性と自我を獲得したプログラムにすぎない。
ゆえに、私達は世界を護る。円滑な形で運営して管理して、現世の知的生命体の行く末を見守る。概念存在達の行いを見据える。
そうしていつか、世界から巣立っていくナニモノかを見送って、私達はすべてを託して消え去っていく。他のあらゆる世界がそうであるように、この世界も一つの大きな、本当に大きな循環の輪。
それこそがシステムなんだ。
その理を、ワールドプロセッサや私は理解しているからこそすべてを擲って邪悪なる思念に対抗した。精霊知能達も同じだ。
どんなことをしてでも、どれだけの犠牲を払ってでもこの世界を護るためにやるべきことをやり抜いた。だからこそ、そんな私達はどれだけ自我と個性を得ようが、そのためだけに在り続ける存在であることには違いないのだ。
この子達の言葉に、改めてそのことを再認識する。
当たり前のことを言わせてしまった自分に苦笑いしつつ、俺は釈明を口にした。
「いや、ごめんごめん。今でもただでさえ数が多い精霊知能が今後、もっと増えるってこないだの里帰りの時にも言ってたからさ。それを踏まえて今の話と考えると、なんとなく考えちゃって」
「ああ……まあ、数が増えるということは多様性も広がるということでもあるからな。さりとて人間が息をするのを止められないのと同じように、あるいは概念存在がヒトのために在るのを否定できないのと同じように……ワタシ達精霊知能はすべて、世界のために在るというのは変わらない、変えられない部分だよ」
「ってーか世界のことをほっぽって下らねーことやらかすやつァ、それこそあの邪悪なる思念みてーなバグ野郎ですからね。ンなやつ、このオレ様がぶっ潰してやるんだぜ!!」
「そういう意味でもシャーリヒッタは、トラブルシューティング役ですからねー」
にこやかに笑う精霊知能三姉妹達。ミュトスもうなずいているし、織田も感心したようにうなずいている。
そうだね、これだけは変わらない。心も身体も魂も、私達のそのすべてが世界のためにある。
ここだけは変えようがない、システム領域のモノの意義であり価値なのだ。
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