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もどれソフィア!いけヴァール!!

「ふう、本当に美味しい料理の数々……」

 

 食事に雑談にと楽しいひとときを過ごすなか、不意にソフィアさんが一息を吐いた。瑞々しいサラダボウルの、レタスの葉を丁寧に咀嚼してからのことだ。

 ずいぶん満足したような面持ちだけど、それなりに飲み食いしている俺達はともかく彼女は少食だ。元よりお肉を食べないというのもあるけれど、それを差し引いても明らかに食事量が少ない。

 

 織田とその従者さん達が用意してくれた料理に瑕疵はなく、それは彼女の顔と言葉からも明白だ。それゆえにこれは単純に彼女が食欲旺盛な気質でないことを表しているということ。

 とはいえ心持ちとしてはそれでも構わないけれど、肉体のほうはそうはいかない。現状だと普通に摂取カロリーが不足しているからね。どうあれもっと食べなきゃ、統括理事の激務なんてとてもできないだろう。

 

 それはもちろん彼女自身も理解している。

 ゆえに俺達を見回し、微笑みとともにバトンタッチを告げたのだから。

 

「それでは名残惜しいですがみなさま、私はそろそろお暇いたします……後のことはもう一人の私、ヴァールにどうかよしなにお願いいたします」

「ふむ? ひとまずご満足いただけたようで何よりですが、なるほど。あなたはあまり食を嗜まないにしろ、ヴァールのほうは普通に食べるのですね」

「ええ、お恥ずかしながら。そのへん、複雑なのです……私の菜食主義というか肉食忌避は信条的なものでなく、精神由来のものですから。肉体は同じでも精神が切り替われば、肉でも魚でも彼女はなんでも食べますよ」

「それは結構。人様の食事情にとやかく言うつもりは毛頭ありませんが、それでもサラダのみとドリンクもミネラルウォーターばかりというのでは見ているこちらも心配になるというもの。ソフィア・チェーホワ、今日はお会いしてお話できて良かった」

「うふふ、私もです、織田さん……北欧大神オーディンさん」

 

 事情をすっかり把握している織田はもちろんソフィアさんとヴァールの関係を理解しており、穏やかににこやかに彼女との挨拶を済ませている。

 そう、切り替わるのだ……精神的な理由から肉食を好まないソフィアさんから、そのへんなんら問題ない精霊知能ヴァールへと。

 そして栄養補給はあらためてあの子が行うのだ。きっとこれまでもずっとそうやってきた、一つの役割分担だね。

 

 ソフィアさんがそっと目を閉じた。俺も精霊知能達も、織田もただじっと見守る。オノスケリスも興味津々だ。

 数秒とてかけず、次に彼女は目を開いた──変わる雰囲気、表情、居住まい。微笑み絶やさぬ智謀の淑女から、冷淡に無表情な武勇の英雄へ。

 マンションに入る直前ぶりの、精霊知能ヴァールの登場だな。目覚めた途端、周囲を見回しクールに問いかけてくる。

 

「────ここは。山形公平、後釜、シャーリヒッタにミュトス。薄っすら状況は理解するが一応の説明を頼みたい」

「ん、ああ。かくかくしかじかおやさいおいしい。てなわけでこちら、北欧大神オーディンさんこと織田さんだ」

 

 ソフィアさんとヴァールは身体こそ同じだが人格、魂はまったく別の存在ゆえ、記憶を共有したりはできない。それゆえにどちらも切り替わる度にまずは現状把握に努めるのだ。

 普段はお互い、メモ書きを残して共有するみたいだけど今回は俺達に投げたみたいだ。なので彼女にはきっちり説明する。

 

 まあ今回はヴァールも道中一緒だったしな。

 あからさまに食事の最中での表舞台ってことでなんとなし察しているみたいだったけど、経緯を話せばやはりかと納得した様子でうなずき、織田に向き直っていた。

 こっちはこっちで彼とは初対面だしな。挨拶するのか。

 

「このようなタイミングで失礼する。お初にお目にかかるな、北欧大神オーディン……いや、先日の決戦の折に本体は見かけたが。あらためてWSO統括理事ソフィア・チェーホワの裏人格、ヴァールだ。よろしく頼む」

「これはご丁寧に、どうも。ご紹介に預かりました北欧神話圏は最高神、戦争と嵐を司り智慧を求める大神オーディンです。あなたについての仔細は……そこに事情を知らぬ小悪魔がいる以上、深く言及するのは控えますが粗方聞き及んでおりますよ。お会いできて光栄です」

「仲間はずれなんですけどー!? ……でも、へえ? WSO統括理事の裏の顔、そもそも魂から違うんだ。元からなのか、それともどっちかが後付なのか……そこが気になるんですけどー」

 

 お互いにどこか探り合うような目つきで、けれど概ね穏便に名乗り合うヴァールと織田。

 システム領域について何も知らないオノスケリスがこの場にいるため、織田は精霊知能などといったワードを避けてくれる方針みたいでありがたい。それを受けて仲間はずれとか騒ぎ出してる当の小悪魔だけどさすがに無視だ、そもそも仲間にした覚えもないし。

 

 ……とはいえオノスケリスもさすがに悪魔か。すぐに騒がしい面白悪魔から鋭い目つきに変わり、静かにつぶやいている。

 ソフィアさんとヴァールの魂の違いを即座に理解し、それが後付け、つまりどちらかが本来の人格とは別に身体に取り憑いている状況なのではないかと疑問を抱いているな。

 

 これについてもオノスケリスに答えは言えないが、実際のところ取り憑いているのはソフィアさんのほうだ。今の彼女の肉体は受肉したヴァールのもので、後から死後のソフィアさんの魂が乗り移った形になる。

 さすがにそういった背景までは読めないにしろ、意外に理知的なんだな、この悪魔。やはり油断は禁物だと、俺は内心で警戒度をこっそりと引き上げていた。

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― 新着の感想 ―
ふと、恐ろしい事考えてしまいました。 もし、宿ってる魂がソフィアさんでなく遠野さんだったら·····。 給仕してる周りの方々もシステム側の事知らないはずだから仲間外れじゃない?(そもそも仲間じゃない…
少食だし野菜しか食べないし人の身体に魂だけが入ってる状態かもしれないしで、オノスケリスの中でソフィア・チェーホワに虫疑惑が……?(ただでさえオノスケリスは上司がアレだし……)
2025/06/15 09:10 こ◯平でーす
織田(オーディーン)は、公平との守秘義務契約があるから、そもそも話せないし。 公平がオノスケリスに守秘義務契約をかければ、話してもいいのだけど、秘密を抱え込んだオノスケリスが精神を保っていられるのかわ…
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