好き嫌いは抜きにして普通にチェーホワだけは無理(真顔)
WSOを率いる世界的権力者としての、ソフィアさんの覚悟と責任感、使命感にあらためて敬意を抱きつつも会食は始まる。
テーブルに次々並べられていく料理。前回のようなフルコース形式でなくどちらかというと満漢全席的な、最初からズラリとアレコレ並べる形式で皿が置かれていく様は壮観の一言だ。
前の時は俺と織田のサシでの会食だったからね。それゆえフレンチフルコースみたいな感じだったんだろうけど、今回は人数が人数だ。
内容もどちらかというとパーティー感強めな、フライドチキンとかフライドポテトとかピザとか、はたまたお寿司とかサラダとかステーキとかごちそうが選り取り見取り。
こりゃまた、豪勢だねー。
「事前に山形公平から聞いていますよ。ソフィア・チェーホワ、あなたは菜食主義のようですね。それに合わせた形で料理を用意していますので、よければどうぞ」
「畏れ入ります、織田さん。お言葉に甘えてお野菜はいただきましょう。他のお肉などについては、どこかのタイミングでヴァールと切り替わりますよ」
ソフィアさんの前には生野菜サラダとかポテトサラダとかが多めに置かれている。これは事前に俺のほうから織田に向け、会食の際には気をつけてほしいと注意しておいたことだね。
彼女は菜食主義だ。いや、より厳密に言うなら肉が食べられない食事情を抱えている。要はお肉が苦手なんだね。
以前の、邪悪なる思念との決戦前の食事時なんかでは肉を前にするとヴァールに切り替わりそれを彼女に食べてもらっていた。つまり身体的反応から食べられないというわけでなく、精神的な感覚から食べられない、受け付けないみたいだ。
なので織田には彼女に対して、どちらかというと野菜中心のメニューを考えてあげてもらえると助かる、とは言っていたんだ。結果としてしっかり対応してもらえたので、さすがお気遣いの大神って感じで彼を褒め称えたい気分である。
もっとも、ソフィアさんはどうあれヴァールにも食事を楽しんでほしいようで途中で入れ替わるつもりでいるみたいだけれど。
それはそれでもちろん良いことだし、織田としても興味深いことだろう。もう一人のWSO統括理事とも対談できるのだから。
従者の方々が俺達各々のコップにドリンクを注ぐのをありがたく頂戴しつつも彼を見れば、顎に手をやり、面白そうに微笑んでいる。
「ふむ。あなたの裏側、ヴァールという名のもう一人のソフィア・チェーホワ──もう一人のWSO統括理事。あなたとお会いしたならば必然的にそちらともお話することになるとは思っていました。ぜひとも機会をいただければと思います」
「うわ、チェーホワ二重人格説ってマジだったんだ……ネットの都市伝説かと思ってたんですけど。ところでオノスケリスちゃんもこの席にいて良いのかちょっと不安なんですけど。むしろお前が席になるんやとか言ってシャイニング山形の椅子にされるんじゃないかと戦々恐々なんですけど」
「怖ぁ……するかそんなこと! 一応、お前もさっきいろいろ答えてくれたんだから、別にここで一緒に飯食うのも良いんじゃないか? みんなが良ければだけど」
「オノスケリスも雑事を任せてはいますが、立ち位置的には引き続き山形公平から身柄を預かっている、賓客扱いではあります。普段からその扱いをしているというわけでもありませんが、まあ今回くらいは良いでしょう。山形公平に感謝することだな、悪魔」
「へへーっ! なんですけど!!」
ヴァールの存在──ソフィアさんの二重人格についてはかねてから世間でもまことしやかに囁かれる都市伝説ではあった。そこに触れてちゃっかり俺の二つ隣、シャーリヒッタとミュトスに挟まれて座るオノスケリスも反応した。
ていうかそんな席にどっかり座っといて戦々恐々とかよく言うよなこいつ。誰が人間椅子ならぬ悪魔椅子なんかするか、それこそ風評被害なんですけど!
今現在の保護者である織田からの許しを得つつ俺に冗談めかして頭を下げる悪魔オノスケリスの、こういう調子の良さは武器だよなあ。
誰に対してもこんなだし、だからこそ人の懐に潜り込めるんだろう。そして潜り込んだら最後、悪魔としてやることをきっちりやるのがお仕事、と。
そう考えると悪魔らしい才覚にはしっかり、恵まれていると言えるのかもなあ。
「おう、オノスケリス……せっかく許しが出たんだ、悪魔っつってもオメーは協力的だからな、ちゃんと食えよな。サークルに与してたところで大減点だが、そこそこ話の分かる悪魔でオレとしちゃ助かるぜェ」
「へ、へへーっ! シャーリヒッタさんに絶対服従なんですけど! もちろんリーベさんとミュトスさんにもなんですけどー! あっ、でもソフィア・チェーホワだけはちょっと無理なんですけど、概念存在的に考えて」
「あらあら、うふふ。嫌われちゃいましたかね、私」
「うーん、話してて悪い気はしないよ? でもやっぱり現世から"私達"を遠ざけた張本人だしさあ。得体の知れなさと怖さも含めて、概念存在は大概あんたのこと個人の好き嫌いとか以前に苦手だと思うんですけど」
さっきシャーリヒッタに締め上げられた結果、すっかり精霊知能に絶対服従の構えを見せるオノスケリスだけど。
やはりソフィアさんにだけは個人的好き嫌いを超えた部分での、概念存在の本質的な意義を脅かされたことへの苦手意識があるようだ。困ったように彼女に言うあたり、本当に個人としてはそこまで嫌いじゃないのだろう。
この分だと言うように、ほとんどすべての概念存在は等しくソフィアさんに苦手意識とか持ってるんだろうな。
それこそが大ダンジョン時代が正しく機能している証拠と言えなくもないんだけれど……つくづく彼女には貧乏籤を引かせてしまっているなと、申しわけなくなる気分だよ。
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