ぶっちゃけ作中で一番腹を括ってるのがソフィアなんだよね
オノスケリスもやっぱり悪魔だなあ、と思わせられながらも会食の間、と名付けられたマンションの一室へ向かう。
今更ながらだけど、普通だったら一部屋につき一つの家族がお住まいだろう物件を、それぞれ用途別に分けて用いているのってものすごい贅沢だよね。
イヴさんが出入り口のドアを開けて俺達に入室を促す。謁見の間と変わらない間取り、内装がやや異なるくらいかな。
リビングへと向かえば、こないだよろしく大きなテーブルと周りに豪奢な装飾の椅子が人数分置かれており、言われるがままに着席する。
もうこの時点で大概豪華だ。ソフィアさんがポツリとこぼした。
「さすがと言いますか、話に聞いていましたが贅沢ですね……マンションの最上階ニ層分を丸ごと買い取って、そこを現世での拠点にしているとはヴァールから報告を受けていましたが、実際に見てみるとあらためてスケールの大きさに驚きます」
「うん? 何を仰るやら、WSO統括理事が。今現状、大ダンジョン時代を担っているとさえ言える権威たるあなたであらばこの程度、別荘にもならない規模でしょう?」
「私について著しく誤解されているようですね……」
織田以下、北欧組のみなさんの暮らしぶりに感心というか、若干ドン引きの気配を見せているけど。織田の言うようにこの人こそWSO統括理事としてこのくらいの暮らしぶりをしていてもおかしくない立場なんだよね。
何しろ事実上は世界一の権力者だもの。持ってるお金や資産、財産はそれこそぶっ飛んだものであってもおかしくはない。というかそのくらいじゃないと逆に夢がないっていうか、ねえ?
一般庶民山形くんとしては織田にしろソフィアさんにしろ、暮らしぶりやQOLの観点から言えばまさに別世界ってくらいの天上人にしか見えない。
なんだけどもソフィアさんはそうした言にも困惑とともに反論し、自身の生活スタイルを軽くだが語ってくれた。
「私もヴァールも、社会的立場に対して求められる範囲のクオリティしか私生活での散財はしていませんよ。スイスに屋敷を構え、いくらか現地で活動する際に用いる別荘を世界各地に持ってもいますが……それも過ぎた贅沢にしか思えていませんし。そんなふうに贅沢を楽しむ資格も、私にはありませんから」
「……ソフィアさん、さすがにそんなことはないですよ。あなたに資格がなければ、この世界の誰も資格がないことになります」
「お言葉はありがたいですが、山形様、こればかりは……すみません。かつて大いなる役目を背負っていたにも関わらず、それを果たせず贖罪をするしかなかったのは事実ですから。それこそがヴァールともども、ここに至るまで頑張ってきた原動力ですらあります」
淡々と、微笑みながらも痛ましい笑みを浮かべる。ソフィアさんもヴァール同様、かつて邪悪なる思念に敗れ去ったことを心底から悔やみ、これまで生きてきたのだ。
俺の先代にして、本来の役割を考えれば最後の代のアドミニストレータ。迫りくる脅威を前に、三界機構相手にも一歩とて退くことなくヴァールを逃がし切り、代償に惨たらしい最期を迎えた悲劇の人。
そしてその後にも100年も現世の時代を牽引し、邪悪なる思念との絶望的な戦いに逆転の目を作ってくれた。彼女こそこの世界の誰よりも讃えられるべき功労者だ。
そんな彼女に何も楽しむ資格がないなどと、それこそ言う資格は誰にもない。けれど彼女自身だけは、そう思っていないのがどうにも悲しくてやるせないよ。
『……他はともかくソフィア・チェーホワだけは、さすがの僕も貶す気にはなれない。コマンドプロンプト、君の心を動かしたのと同じように、たしかに僕もあの最期には感銘を受けたからね。やることは変わらずとも、けれどたしかに彼女は僕に影響を与えたんだ。ま、彼女からしてみれば嬉しくもなんともないだろうけど』
脳内のアルマですら、ソフィアさんに対しては悪辣な口を利くことはない。
彼女に惨たらしい最期を叩きつけた張本人こそがこいつなんだけど、死ぬ瞬間までヴァールを逃がすため、世界を護るために食らいつき続けた彼女へ、たしかな敬意を抱いているようだ。
……そこまで他人を敬する心を持っておきながら、それでもどうしても止められずにこうなったこのワールドプロセッサはやはり愚かで哀れな、どうあっても否定されなければならなかったモノだ。
静かにそう考えれば、邪悪なる思念は一言だけ、うるさいよと憎まれ口を返す。どこか疲れの滲む声色だった。
「それに、特段際立って自罰的な暮らしをしていたわけでもありませんよ? 大ダンジョン時代を運営するという一大事業を前に、そんな無駄なことをして健康を損ねたりしては本末転倒ですから。しっかり毎日よく寝てよく食べて、よく運動してよく働いています」
「いやはや、事情を知った上で聞けばすさまじい覚悟ですね。言ってはなんですが我々概念存在とは根本からの腹の括り方が違う。これは……これでは、概念領域が置いていかれるわけだ。今更ながら、今の現世の強さの根源を垣間見た気分ですよ」
織田も感嘆と敬意、畏怖の混じった声でソフィアさんを称賛する。彼の言うように、やろうと思えば自分の領域に引きこもっているだけでいい概念存在達とは覚悟の質が違うからな。
ソフィア・チェーホワの強さ、その本質的な部分に直接触れて、かの大神でさえも圧倒されているようだった。
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