りーべ光ルくん
豹変したソフィアさんに一同、面食らっていたものの、名乗りを受けてどうにか事態を飲み込めたみたいだった。
すなわち、目の前の女性はWSO統括理事ソフィア・チェーホワでないことを。
精霊知能ヴァールなるモノである、ということを。
「待ち侘びた……と、言うにはいささか想定より早すぎたが。それでも150年近くは永かった。ワタシより先に、ソフィアが参ってしまいかねないほどに」
「ソフィアさんはどうなった? 意識はあるのか」
「ない。切り替わるタイミングでもなければソフィアとワタシが重なることはない。肉体一つに魂二つ。有り得べからざる状態となったがゆえの、これは弊害だな」
冷徹な声が、説明してくる。やはりこのヴァールとかいうのは、ソフィアさんと身体を共有しているらしい。それも、どちらかの人格が表に出ている時にはどちらかが意識をなくしている状態だという。
なるほど、と思う。今しがたまで二つだった気配が、今や一つになっている。ソフィアさんとは全く違う感覚に、まさに別人だということを否応なしに思い知る。
ベナウィさんが一歩踏み出した。しげしげとヴァールを見、眺めてから、おもむろに話し始めた。
「ふむ……どうやら二重人格のような状態の様ですね、ミス・チェーホワは。今現在、表出している人格は自称、ヴァールと。ちなみにミスター? オア、ミス?」
「いわゆる性自認の話をするならば、一応メスだ。とはいえそのような確認に、何ら意味などありはしないが」
「形式上のことですよ、悪しからず。それではミス・ヴァール? あなたが決戦スキル保持者ということでよろしいので?」
その問いかけに、ヴァールはうむと頷いた。
何ていうか、見た目自体はソフィアさんなのに、まるでソフィアさんには見えない。顔付きや仕草でこうまで人が変わるのを認識できるのかと、驚きを隠せない。
腕組みをして──これもソフィアさんには似つかわしくないが、ヴァールにはどこか似合う──答えてくる。
「そうだ。私は決戦スキル《アルファオメガ・アーマゲドン》を保持している。はるか100年ほど前、シェン・カーンに興させた里の中から、これを引き継ぐに足る者が現れるのを、こうして待ち続けてきた」
「シェン・カーン……始祖様! あなたが、始祖様に星界拳を!?」
「体系化させるように仕向けた。すべては今、この時のために。待っていたぞカーンの末裔、シェンの集大成」
わずかにだけ、目を細めるヴァール。どこか懐かしむような感じに、一応、感情らしきものはあるみたいだなと安心する。
それにしても、同じ精霊知能でもこうまで違うか。足して二で割ったらそれぞれ、丁度いい塩梅のコミュ力になりそうだ。
『誰がお喋りですか! というかあんな無愛想なのとこの、かわいいかわいいリーベちゃんを足して二で割るなんて、なんて恐ろしい発想をするんですか怖ぁー!』
「……ワタシの不甲斐なきゆえに据えられた、後釜に向けて失礼とは思うが。そのようなゆるキャラもどきと一緒くたは御免被る。いや、悪意はないが。御免被る」
『ゆるキャラって何ですかコノヤロー! おめーちょっとばかし受肉して独立したからってチョーシくれてんじゃねーですよー!?』
ぎゃーぎゃー喚くリーベちゃん。君さあ、そういうところよ?
っていうか、ヴァールも案外ノッてきたな……ゆるキャラご存知なんだ。まあ、ソフィアさん共々150年以上は生きているみたいだし、世の中のこともそれ相応に詳しいものなのかな。
と、リンちゃんが一歩踏み出した。決意漲る足取りだ。
まっすぐにヴァールを見つめ、言い放つ。
「偉大なる始祖カーンの末裔、流派・星界拳正統後継者、シェン・フェイリン。私こそシェンの一族が積み上げてきたクンフーの結晶。96年、歳月の果て、ついに到達した極点」
「決戦スキル《アルファオメガ・アーマゲドン》を会得するためにお前たち一族は存在してきた。すべては新たなる時代のアドミニストレータを、不甲斐なきワタシに代わり補佐するために」
「承知。弐式・救世技法の体得は我らが悲願。始祖カーンより連綿と繋がりし我らの使命、今ここに成し遂げる時!」
そのまま、いくつか演舞の型を披露して構えるリンちゃん。臨戦態勢だ──今にも飛びかかり、その豪脚を放ちかねないほどに!
応えてヴァールも腕組みを解いた。素手のまま、右手をすっ、と挙げる。途端、その腕に鎖が数多、巻き付かれて現出する。
恐らくは武器だろう。証明するかのように、彼女から放たれる圧も高まっていく。
「よくぞ言った、シェン・フェイリン。在りし日、カーンが描いた星界拳の理想。貴様が体現できているかどうか、見定めさせてもらう」
「ならば、とくとその身にて見定めるが良い……星界拳の、豪脚!」
言葉を交わすのもこれが最後。
あとは力と力を交わすのみ、とばかりに、リンちゃんはヴァールめがけて飛びかかった。
この話を投稿した時点で
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総合四半期12位
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