ソフィア・チェーホワ─すべてを贖罪に捧げた人─
「この時を、この機会を待っていました──それこそずっと、100年ほど前から」
謁見の間、テーブルを囲む形で会談の席に着く俺達。
織田に向かい合うソフィアさんとミュトス。その左右の側面を俺、リーベとシャーリヒッタが座ることとなった。
事実上、今回の会談のメインはソフィアさんだ。付随してミュトスも多少は関連づけられるけれど、織田というか概念存在の総意としてやはり注目されているのはWSO統括理事たる彼女だろう。
大ダンジョン時代が始まって100年。その大半を世界的指導者として君臨し牽引してきた"永遠の探査者少女"との会談は、各カテゴリそれぞれの思惑の差異は別にして共通する悲願だったようだからね。
万感の思いすら感じさせる勢いで、織田が続けて言う。
「神も、悪魔も、妖怪も。妖精、精霊もその他の細かなモノ達も──ある意味ではこの100年、あなたという存在に想いを馳せない日は一日とてなかった。ええ、本当にただの一日たりとも。なぜだかおわかりですか?」
「私が、大ダンジョン時代を牽引する形であなた方と現世を引き離したからですね? あなた方がどういった思いでいるのか、人の身に過ぎない私にも想像はつきます。さぞかし憎たらしい、けれど得体の知れないナニモノかなのでしょうね私は。うふふ」
「ククク、それはもちろん。唐突に降って湧いた現世人間達の覚醒、それから間もなく起こされた世界大戦……そこまでは良かった。未だ我々も悠長に構えていられる余地はあった。それを横から出てきてすべてを掻っ攫ったのがあなたですソフィア・チェーホワ。概念存在の中にはね、あなたのことが憎くて憎くて仕方ないモノも相当数いますよ」
「怖ぁ……」
のっけから物騒なこと言いまくるじゃん、この大神。
そして辛辣な言葉を受けてさえ、たおやかに微笑み泰然と構えるソフィアさんもソフィアさんだよ、器がでかいというかなんというか。
織田自身は以前にも語っていたけどソフィアさんに対しては好意的な感じではあるようだけど、他の面々についてはそりゃまあ、ソフィアさんを恨んだり憎んだりするモノもいたっておかしくはないわな。
少なくとも彼女の台頭以降、主だった概念存在はほぼすべてが大ダンジョン時代と化した現世への干渉を止めたって話だし。ヴァールの存在まで含め、あまりに得体の知れないソフィア・チェーホワを極度に警戒していたのは間違いない。
その結果、概念領域そのものが現世領域から手を引かざるを得ない事態が一世紀も続いたんだ。
ソフィアさんもそのことは承知の上でのことだったようで、やはり微笑みを湛えたまま、けれど強い光の篭った眼差しで凛とした言葉で織田に反論する。
「山形様から事情を聞かされているあなただからこそ言いますが、そのあたりについてはすべて意図的な動きです。私とヴァールというあからさまに不自然な存在が世界を牽引する、そのことをもってあなた方概念存在を現世から遮断しました」
「やはりですか。現世に君臨するだけならば、WSO統括理事というあなたがここまで権威権力を持つ必要もない」
「私に強権を集約させたのは、基本的にはやはりオペレータ計画を恙無く進行させるため……ひいてはその先にある対邪悪なる思念用決戦プランであるアドミニストレータ計画を発動するに十分な条件を、可及的速やかに整えるためのものではありました。ですがその都合上、概念領域からの余計な干渉に対して強い牽制を行う必要もあったのです」
「なるほど、なるほど! たしかに事情を知る由もない我々ならば、隙があれば即座に半端な介入をすることも十分あり得ますね。システム領域からすれば概念存在というのは、少なくともこの100年間にあっては何があっても邪魔立てさせるべきでない存在だったということですね」
──アドミニストレータ計画の前提となる大ダンジョン時代の社会秩序構築プラン、すなわちオペレータ計画の進行。
それを行うにあたり、ソフィアさんとヴァールから見て概念存在というのは極度に大きな、そして邪魔でしかないノイズだった。
何しろ当然ながらシステム領域のことや邪悪なる思念のこと、100年前の時点でこの世界がどういう状況に置かれていたのかなど一切知らないのだ。その上で彼らは現世に対する上位存在という枠組みを与えられて存在している。
当然、普通に行けば大ダンジョン時代に対していくつもの干渉や介入とて考えていただろう。それを彼女ら二人は厭うたのだ。キッパリと邪魔だからしゃしゃり出てくるなと、その存在の不可解さと神秘性、そして手にした権威権力でもって特大の牽制をしていたんだな。
すべては邪悪なる思念を打ち倒すためだけに。彼女達は現世の時代を作り変え、ヒトとカミとを切り離し、そして自らの存在さえもいつか来たるアドミニストレータのために費やしたんだ。
それがかつて、先代アドミニストレータだった者としての責務だと信じて。歴代アドミニストレータ達のサポート役だった精霊知能の贖罪だと信じて。
つくづく、頭が下がる。本当の意味で大ダンジョン時代の象徴であり英雄だ、この人達は。
リーベやシャーリヒッタ、ミュトスさえも神妙な面持ちでいる中。納得と感心でしきりにうなずく織田は、ふと笑みを収めて真剣な、真摯な眼差しでソフィアさんを見据えた。
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