案外勢いで押すと流されがちなタイプだったりするのかな、ヴァール……
登場するだけで概念存在たるワルキューレ・レギンレイヴをも圧倒するその存在感。
WSO統括理事の"表の顔"であるソフィア・チェーホワその人は、微笑みを浮かべているだけで場の空気をも完全に掌握していた。
怖ぁ……"裏の顔"とまた違った強さなんだよなぁ、この人。培った決断力と政治力、何より精神力でもってカリスマを放つ姿は、ヴァールとは別ベクトルの頼もしさと恐ろしさを感じさせる。
まあ、あの子はあの子で武力と行動力、そしてやはり精神力で練り上げた統率力があるんだけども。そう考えると政治面のソフィアさんと武力面のヴァールで、本当に綺麗に役割分担できているんだよね。
「それではさっそくのことで恐縮なのですが、会談の現場にまでご案内くださると幸いです、イヴさん。私としましてもかねてよりそちらの織田さんとはぜひともお話したいと考えておりましたので、ついに訪れたこの機会を僥倖に感じておりますの。うふふふ」
「っ、呆けておりました、失礼しました。これよりみなさま方を我らが至高の主の下へお連れします」
「感謝に堪えませんわ。山形様、それに精霊知能のみなさま方もさあ、参りましょう」
「え、ええ。行きましょう」
すっかり場の空気とペースを握ったソフィアさんに促され、イヴさんも俺達も動き出す。
いつまでもマンションの出入り口にて話をしていても仕方ないからね。
道すがら、そのソフィアさんが俺の横を歩いて話しかけてくる。
思えばソフィアさんと面と向かって話すのも久しぶりだな、いつもヴァール相手か、もしくは電話越しだし。
「山形様、こうして直にやり取りするのもお久しぶりですね。いつもヴァールがお世話になっております。あの子、ご迷惑になっていませんか?」
「いえいえそんなまさか。ヴァールはいつも冷静で頼れる、俺達自慢の精霊知能ですよ。なあリーベ、シャーリヒッタ、ミュトス」
「はいー! できた三女ちゃんですねー」
「可愛げたっぷりの妹だぜェ」
「いやー戸籍から住まいまですっかりお世話になっちゃってます! ミュトスちゃんかんげきーっ、なんちて」
「えぇ……?」
まるで自慢の娘を誇るようなソフィアさん、相変わらずヴァールを溺愛してらっしゃるなあ。
もちろんあの子はいつでも頼りになる素晴らしい精霊知能だ。俺達にとって、大切な家族同然の子だよ。
まあ、リーベとシャーリヒッタなんかも完全に脳内設定を公式化しちゃって、すっかり三女扱いしてるしね。
そしてミュトスはミュトスですごく実用的な面で彼女を頼りにしているね。昭和感あふれる身振り手振りはスルーしておこう、うん。
ちなみに今ミュトスが言った通り、受肉した彼女の戸籍と住所についてはヴァールがWSO統括理事としての地位を使って用意してくれた形になる。
戸籍についてはリーベやシャーリヒッタもだね。ソフィアさんもそのへんの処理のために外交、政治関係で動いてくださったと思うので、そこはすでにご承知だろう。
今はまだ、山形家で居候しているミュトスだけれどもう少ししたら引っ越しして一人暮らしを始めるとのこと。
正直、精霊知能が受肉して早々に一人で暮らすのは一抹不安を覚えるんだけど……そこはソフィアさんやヴァールもちゃんと考えてくれているようだ。
微笑みのまま、ミュトスに語りかける。
「ミュトス様のお住まいについては、山形様の御実家からそう離れておらずかつ、事情を知っている方と頻繁にアクセスできる場所を選びました。つまり……御堂香苗さんと同じマンション、同じ階層の部屋ですね。そちらになります」
「たはーっ、まさかまさかの伝道師さんがご近所さん! あっこりゃもう入信待った無しっていうかもうミュトスちゃん使徒でした、てへっ!」
「い……いやまあ、たしかに香苗さんがご近所さんだったらミュトスのこれからの生活も心配ない感じだけど。ええと、香苗さんはこのことは?」
「ヴァールのほうからすでに話をしていますね。即答で快諾してくれたとのことです。例によって救世主だったり使徒だったりとアレコレ専門用語を捲し立てながら、最終的にはあの子も一緒に救世主様に万歳三唱したとか」
「何してるのWSO統括理事さん!?」
怖ぁ……案の定な香苗さんはともかくとしてヴァールが地味に流されやすい!
っていうか、これまでのいくつかの事例から察するにたぶん、自分の理解を超えた物事に際しては割と受け身になるタイプなんだよねあの子。
堅物なまでに生真面目で、そして優しいからこそ勢いで来られるとお、おう? おう……ってオットセイみたいになっちゃうんだろう。
それはもちろんヴァールの個性だ。ある種の人間性と言っても良いもので、悪いことでは全然ない。ただ、それはそれとしてやはりチョロい疑惑がまとわりつくだけだね。
「ヴァール……つくづく妹気質ですねー」
「性格の割にいろんな経験積んできてるからか懐はデケェからなァあいつ。よっぽど悪さしてるやつじゃなかったら割合、誰に対しても寛大なのがチョロさのゆえんかもなァ」
姉二人が苦笑いしつつも妹を評する。
それは大体そのとおりとうなずけるもので、つまるところヴァールという人物は大概な天然さん気質でもあるということだった。
まあ、可愛いというか愛嬌ではあるけどね。
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