青樹も青樹でお前……天才だったのか……ってなるやつ
二体のアイアンアーマーを相手にする香苗さんもまた、一方的な戦闘にならないよう細心の注意を払っているみたいだった。
やろうと思えば一瞬でケリがつくんだけど、なるべく相手の動きに合わせて少しずつ、体捌きや足運びと牽制、フェイントを駆使して追い詰めているね。
「お見事でした、公平くん。私もそろそろやってみましょうか、いつまでも時間をかけていても仕方ありませんしね」
「一応聞きますけど、加勢しましょうか?」
「ありがたい申し出ですがお気持ちだけを。この程度の敵、あなたの手をこれ以上煩わせるほどでもありませんから」
余裕を持って俺と会話する彼女は、けれど着実にアイアンアーマー二体の動きを自然とコントロールしている。
斬撃に対して軽くステップを踏んで側面に回り、手にした鞘に収まったままのナイフで軽く一突き。次いで別方向からの刺突も難なく避け、翻って敵の身体を軽く袈裟懸け。
いずれもなぞる程度の、殺傷力などありえない単なる接触だ。けれどそれを食らってのアイアンアーマーは、毒を警戒して当然ながら回避行動に出る。
突かれたほうは横に飛び跳ね、袈裟懸けされたほうは後方に引き下がったのだ。いずれも攻撃そのものは避けたけど、それさえ香苗さんの予定通りだ。
だって、そうするとほら──二体が同時に同じ地点に収まろうとしてぶつかり、脚を絡ませて転んでしまった。
相手の回避行動をも念頭に入れてのコントロール、そして一網打尽。E級モンスター相手であっても見事と言うしかない鮮やかさに、俺はもちろん宥さんも、逢坂さん達も揃って目を見張るしかない。
「シャイニングさんもすごかったけど御堂さんもす、すげえ! っていうかモンスターって、あんな間抜けな転び方もするんだな……」
「私達に見せるためにあえてゆっくりやってくれてるんだろうね。たぶんA級モンスターとかが相手なら、同じことをするにしても視認できないくらいの速度で今みたいな動きや駆け引きを仕掛けてると思う……桁が、違うね」
「実際、今のはA級探査者クラスなら標準的にできる動きよ、みんな。私の師匠も以前、同じことをしてみせたもの。もちろん伝道師香苗の練度とは、比べるべくもなかったけれど」
感心するしかできないほどの流れるような今の戦い方は、けれど一流どころの探査者であるならば割と普通のことみたいだ。
宥さんの師匠についてはよく知らないけど、その人もおそらくA級だというならなるほど、こうした動きもできるんだろう。
そもそも戦闘中に、咄嗟の判断の連続のなかでこうして相手の次の動きをも予測して動くというのが相当レベルが高いからね。
俺もやろうと思えばできるだろうけど、正直普通にスキル使ってたら終わることが大半だからしないところではある。香苗さん自身も普段の《光魔導》スタイルだったら同様だ。
近接戦闘ならではの、至近距離でのやりとり。いわばバトルIQを働かせるような動き。
これからA級さえ目指すような新人さん達にはなるほど、高みを見せるという意味では大きな値打ちのある戦い方だった。
「思えば。私にこうした格闘戦技術を教えてくれた青樹さんは、やはり近接戦闘においては天才なのでしょう。今になってあの人のすさまじさを感じています」
「青樹さん……あなたの、近接戦闘と《暗殺術》スタイルにおける師匠ですね」
「ええ。あの異様な技術、無想無念法を編み出した時点で常軌を逸したものがありますが。それ以前にこうした戦闘における動き方、流れの組み立て方があの人は抜群に上手かった。まるですべてを見通すかのように敵を誘導し、攻めさせて流し、気づいた時には勝ち確定の状況に追い込む──今のように、です」
「────!」
自身の師匠を懐かしみつつも、香苗さんはついにナイフの鞘を取り外した。猛毒であることを踏まえてもあまりに美しいアメジスト色の刀身が剥き出しになる。
S級モンスター、たしかサンドアリジゴクだったか。その素材を用いたそのナイフを、彼女は重なって倒れもがくアイアンアーマー達に投擲した。
ドスン、と鈍い音を立ててナイフは折り重なる二体を同時に貫いた。投擲技術も当然あるか、本人の鍛錬もさることながら、師匠の青樹さんの仕込みの良さも伺わせる練度だ。
静かに粒子に変じていくアイアンアーマーを見送りながら、俺もまた、今は逮捕され裁判を待つ身である香苗さんの師匠に想いを馳せた。
倶楽部幹部になるまではB級探査者として活動していたあの人は、スキルも用いずに気配から姿からすべてを周囲に溶け込ませて忍び寄る異次元の技法・無想無念法を編み出した。
そのことからも伺えるけど、あの人はこと暗殺分野においては超人的な天才だったんだよね、マジで。
普通に意味分からんし、あの技術。一種の超能力にすら達していたとさえ思うよ。
それほどまでに極まった異能を持つ人だったから、暗殺や奇襲を軸にした近接戦闘については級以上の実力を備える方だったのだろう。
そんな人が、けれど人造能力者として地獄を過ごした幼少期のトラウマを衝かれて闇に堕ちた。あの恐るべき怪人物、火野源一によって精神を破壊されて悪に染まったんだ。
もしも今も正道を歩んでくれていたならと、今しがたの香苗さんの戦いぶりとお言葉を聞けば思わずにはいられないよ。
戦闘終了を静かに迎えながらも、俺は探査者としての青樹さんの実力を悼まずにはいられなかった。
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