しれっと初登場時のサウダーデからも技を盗んでいた男
「────!!」
「さて……と」
三体のアイアンアーマーが斬り掛かってくるのを、余裕を持って観察しながら俺はゆっくりと一歩踏み出した。
いつもなら即座に距離を詰めて何かしら殴るなりして終わりだ。範囲攻撃から山形くんビームから何から何まで縛ったところで、いかんせん俺のレベルはもう四桁だからね。
なんならデコピンでも勝ててしまうほどの力の差はある。
でもそんな暴虐の嵐を見せつけたところで、そうですかレベル四桁すごいですねとしかならない。それではあまり、参考にはならないだろう。
香苗さんも同じ考えのようで、手に持ち構えた猛毒ナイフは鞘をつけたまま、つまりは異様な威力の毒を封印したままだ。
単純な格闘術でこの場を制圧すると、そういうことだね。
なればと俺も構える。足を軽く開き、両手をそれぞれやんわりと開き敵を待ち構える迎撃の姿勢だ。
攻めなら一瞬、けれど受けに徹すれば少しはそれらしい動きを分かりやすく示せるかもしれない。
すなわち敵の勢いを逆手に取って返す──合気めいた技だ!
「よいしょっと」
「!! ────!?」
「うおっ!? あ、アイアンアーマーが」
「あ、あっさりと宙を舞ってる!?」
俺めがけて突き出された剣の刀身、その側面に軽く手を添える。それだけで十分だ。相手の力の流れ、動きを知覚してコントロールできる。
勢いを完全に掌握して、アイアンアーマーを持ち上げる──一切力を込めていないよ。羽を持ち上げるように軽々と、お手玉でもするみたいに俺は敵を天地逆さまにひっくり返した。
これは一応、合気道をベースにした技法だけどやってることはかなりめちゃくちゃだ。
手を添えただけで相手の動きを操れるなんてのはさすがに超能力か何か? って話だからね。
だけど実際にこの技を見たことがあるから、俺も本家本元には遠く及ばないながらもコピーできるのだ。
格闘術のプロフェッショナル、近接戦闘において世界最強クラスのS級探査者……サウダーデ・風間さんが使っていた技だからね、これは。
以前に一度だけ、ベナウィさんを立ち上がらせるのに使用していた技がこれだ。
あの人の場合、向かってくる相手どころかただ座っているだけの人の力さえ利用して俺やエリスさんを絶句させていたけど、原理としてはほぼ同じ技術のはずだね。
「よいやっさー」
「!?」
容易く持ち上げた、というか力の流れに乗せたアイアンアーマーを、そのままの勢いで頭から地面に叩きつけさせる。ここにも俺の力は加わっていない。
いやはや、これを使う度にサウダーデさんの異次元の技術を体感する形になるから、どうにも畏敬の念が強いよ。
あの人は多種多様な武術や格闘技を修めた《格闘術マスタリー》を会得しているけど、そうなるまで鍛えるとどういうことができるのか……その一端を垣間見る心地になるんだ。
彼が俺と同じことをした場合、おそらくより滑らかでかつ、効率的でスマートなやり方をされるだろう。
俺は付け焼き刃をそれらしく仕上げることにかけては称号効果もあってピカ一だけど、より丹念に磨き上げた本家さんにはやはり、完成度の面で敵わないからね。
人の、永年の積み重ね。武術に限らずあらゆる分野における切磋琢磨と鍛錬に対して、常に敬意と憧憬を忘れてはいけないと思うよ。単なる模倣にすぎない俺では、至ることのできない境地だろう。
「す、すげー滑らか……あ、あれって合気道とかだよな? やってること」
「その場から一歩も動かず、ほとんど姿勢も変えずにアイアンアーマーを制圧しやがった……た、たしか本来は殴ったりプロレス技を使うって言ってなかったか、逢坂」
「そう、ですね。宥さんや御堂さんのお話からも、今の公平さんは本来の戦法を採っていないと思います。たぶん、私達にこういう戦い方もあるって示すために」
「あと、いつもの調子でやったら瞬殺しちゃうからじゃないかな。探査動画とか見てると分かるけど、毎回ほぼ一発で仕留めてるから。なんでも一戦あたりの平均時間、1分切ってるらしいよ」
「えぇ……?」
何それ初耳。聞こえてきた逢坂さんパーティの思わぬ情報につい、呻く。
こちらの意図は伝わっているようで何よりだけど、一戦あたりの平均時間とかデータ化されてんの怖ぁ……なんですけど。いやまあ、言われてみれば毎度毎回ほぼ一発だし、そんな時間をかけてるつもりもないけど記録として挙げられるとエグい速さだな、割と。
一応、探査者がモンスターとの戦いに際してどのくらい時間をかけるのか、みたいなデータは結構統計取られてたりはする。
興味本位で覗いてみたことがあったけど、条件にもよるけど敵味方同数での戦いだと大体、平均10分くらいはかかってるみたいだ。
これを短いと取るか長いと取るかは人による。ダンジョン探査は一戦やったらおしまいってわけじゃなく基本的に連戦だから、それを踏まえるとまあこんなもんかなって俺は思うけど。
で、それに比べると俺ちゃんは大体10倍のスピードで一戦こなせるってことになる。
なんの因果か、10倍とは。ソロバフスキルと言い、つくづく10倍に縁があるよね。
「とはいえ、早いに越したこともないから、ねーっと!」
「!!」
つぶやきながら、制圧し倒れ伏すアイアンアーマーの胴体に貫手を放つ。言うまでもなく致命傷で、内部の暗黒気体ごと鎧が光の粒子となって散っていく。
ふう、とりあえず一体。さすがにトドメを刺せる状態で刺さないのも変だからこうしたけど、逢坂さん達にとって何か参考になったら良いんだけれど。
さてさて、香苗さんはっと。
振り向けば彼女も彼女で、二体のアイアンアーマーを相手に同時に戦っているようだった。
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