油断一秒怪我一生、ヨシ!
青春なんだがどうも勘違い、すれ違い感漂うパーティ内の人間模様はさておき、いよいよ部屋に辿り着いたので戦闘開始だ。
部屋には剣を握るゴブリン、ゴブリンナイトが3体ほどいて、内部を徘徊しているものの未だこちらには気づいていない。
逢坂さんのステルスは今のところきっちり仕事してるか、当たり前だな。
《消音》で物音を消し、《気配遮断》で気配を殺し、そして《ステルス迷彩》で姿をも誤魔化している。それも《サバイバルマスタリー》の効果で威力も範囲も持続時間も3倍の特盛バフだ。
今の逢坂さんのレベルから言ってC級くらいまでのモンスターなら完全に欺けるだろう。場合によってはB級までもいけるかもしれない。
モンスター相手だと、自分より極端に強かったりすると気づかれかねないリスクはあるからね。ただそれを差し引いても現状、パーティの補佐や支援という分野において逢坂さんの実力はすさまじいものがある。
その恩恵をフルに受けた、駒野さん達前衛が動く。
「よし、気づいてないな──突撃だ! 行くぞ庄田、気合入れろよ!」
「誰に向かって言ってんだ? 任せろ!」
「先手牽制は私から入れる。《弓術》、足止め射法」
「────ぐげげげっ!?」
刀を持った駒野さんと盾を構えた庄田さんが駆け出せば、後方の三木さんが牽制のためにと矢を番えた。複数本まとめてだ。
狙いはゴブリンナイトのそれぞれ足下、障害物を作って足止めするんだな。
即座に放たれた矢は的確に徘徊するそれぞれの付近に刺さり、気を引くばかりか動きをある程度阻害までしてみせた。
敵からするとどこからともなくいきなり足下に突き刺さってきた矢だからね。そりゃ気も引かれるよ。
うーんお上手。モンスターの動きをコントロールしきった三木さんの弓は華麗だ。
宥さんが満足そうにうなずきながら、俺に彼女のスタイルについて教えてくれる。
「弓は遠距離攻撃という性質上、単純に相手に傷を負わせるだけでなく牽制や足止めにも使えます。そして三木ちゃんの性格的には、むしろそちらのほうが性に合っているみたいで」
「足止めして、注意を逸らしたらこちらのものです。後は直接急所を狙う、それが私のスタイル──《弓術》、目潰し射法」
「っ、ぐぎぎゃあああっ!?」
どんな武器を使った場合でも、それは基本に忠実なスタイルだと言えるだろう。牽制して動きを制限し、身動きを止めた後に本命を放つ戦法。
それをきっちりと示してみせるのは、言うは易し行うは難しの典型だろう。実際、目潰し射法という技名? のごとくゴブリンナイト一体の目を狙い撃った一射はしかし、牽制が甘く敵が動き出したことで僅かに狙いが逸れて眉間に深々と突き刺さった。
いずれの場合でも致命傷だ、ゴブリンナイトの一体が光の粒子に変じていく。しかし結果は同じでも過程は意図しないものだったため、三木さんは小さくため息を吐いた。
たまたま上手いこと眉間に刺さっただけで、動かれ方次第では普通に避けられていた可能性もあるからね。
自らの技量不足を省みるように、つぶやく。
「牽制から攻撃までの動きにラグがありすぎる……宥さんやシャイニングさんと話をしていたのを差し引いても、タイミング的に目潰し射法は今、成立しなかった」
「ふむ。本来想定していた動きを成すには、牽制をより深く強いものにして足止め時間を長くするか、牽制からの攻撃に移る速度をより早くするかのどちらかですね」
「はい、御堂さん。けれど牽制のための射法はまだ開発中だったり練度が低かったりするので、ひとまずは連射速度を高める方向で考えています。最終的にはどちらも極めたいですが、取り急ぎモンスターに通用するやり方を編み出すのは急務ですから」
淡々と、クールながら闘志を秘めた言葉。弓を扱うだけあって冷静沈着な感じの三木さんだけど、己の分析に対する解決策に貪欲な姿勢はむしろホットでバーニングって感じだ。
今、彼女が考えている方向性は悪くないものだと俺にも思える。そりゃ理想は牽制も連射も、なんなら威力や精度も含めてパーフェクトなのが一番だけど一息に全部やる、なんてのはできっこないからね。
場当たり対応に近い形になるけれど、今すぐ応急的に取れる対策を講じる。それもまた戦士として必要な実力だろう。
ともあれ三木さんはゴブリンナイト一体を仕留め、残る二体についても多少の足止めを果たした。自分の仕事、役割を果たしたんだ。
だったらこれはこれで及第点だろうね。それぞれ駆ける駒野さんと庄田さんに対して、しっかりと道は開いた!
「助かるぜ三木! 庄田そっちは任す! 俺はこっちのを!!」
「ぐぎぎぎっ!? ぐぎぎゃあああああっ!?」
「見えてないなら暴れても仕方ないんだぜ! 《剣術》、春一番!!」
ゴブリンナイトは一体ずつ相手するみたいだ。まずは駒野さんが先制する。手にした刀を一気に横手に構え、胴薙ぎに振るったのだ。
それは技術というよりは力任せだが、一応刃物を扱う基本はできている──すなわち引き斬る動作。ただ押し潰すのでなく、刃先をスライドさせてこその刃の動きだ。
こちらも相変わらず逢坂さんのステルスが発動しているから、モンスター達からすると完全に不可視の一撃だ。
それでも何かしらの奇襲を感じ取って闇雲に剣を振るっていたんだけれど、明後日の方向を向いてたからなあ。駒野さんからすれば実に狙いやすい、やりやすい相手だったと思うよ。
「ぐぎ、げ、がはあっ!?」
「《剣術》、立春! ──粒子になるまで気は抜かないぞ、前にそれで大怪我してんだ、こっちは」
「以前駒野くんは、とどめを刺したと油断したところを突かれて大怪我をしたことがありますからね。それ以来、残心はしっかりしているようです」
「なるほど……」
胴薙ぎが直撃したとて、未だ粒子化は始まっていなかったことから体力は残っていたんだろうゴブリンナイト。
けれどそれをも警戒した駒野さんの、喉めがけての一突きをもって完全に勝敗は決した。付随して俺と香苗さんに昔あった話を語る宥さんから、俺は納得し彼を見る。
過去に痛い目を見た、それを受けてのこの慎重な警戒振りってわけだね。
オーソドックスな動き方ではあるものの、やっぱり探査業やモンスター退治に慣れてくると忘れがちな基本部分ではある。そこをちゃんと意識しているのは、地味ながら大切なことだと思うよ。
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