問答無用の天才がここにもまた、一人
いよいよダンジョンへと突入する。先に言った通り今回は逢坂さんパーティがメインなので先陣を切るのは彼らの前衛、駒野さんと庄田さんからだ。
土塊の階段を降りていくと見慣れた通路。いつも通りだな……周辺情報の読み取りもない。何ら変哲もない、単なるダンジョンだ。
さておきここからは仕事だ、気を引き締めていかないといけないのは誰もが同じ。
一気に張り詰める空気のなか、そして逢坂さんがスキルを発動した。
「《消音》《気配遮断》《ステルス迷彩》──これで問題なし。行きましょう、みなさん」
「相変わらずすさまじいサポートぶりだなあ……」
「こればかりは逢坂さんならではですね。上の級でも彼女ほど、サポーターに極振りしたような探査者もなかなかいません」
自らの出す特定の音を消す《消音》、気配を殺す《気配遮断》、そして自分達の姿を周囲の地形の色合いに溶け込ませて身を隠す《ステルス迷彩》。
それらが発動し、俺達の姿は気配ごと、完全に周囲に溶け込み見えなくなった。とはいえ互いに互いは薄っすら把握できるんだけどね。
支援系スキルとしては単体ならまあ、見かけなくもないものだがそれを同一個人が複数保持しており、かつ一人で一息にすべて発動するってのはなかなかレアな話だ。
S級として、数多くの探査者の例を見てきたはずの香苗さんですら逢坂さんについては類例を見ないケースだと太鼓判を押していた。
戦闘系のスキルもなく、自身も極度の運動音痴ながら身につけた支援系スキルの量と質をもって仲間達のサポートを一手に引き受ける極端なサポーター。
それが逢坂美晴というオペレータの実像だった。そんな彼女が俺達に向け、話しかけてくる。
「あの、公平さんと御堂さん、宥さん……実はこの間、新しいスキルを習得したのですが」
「うん? ええと、何か問題のあるタイプのスキルだったりしたの?」
「あ、いえ。ただその、スキルを獲得した途端にそれまで持っていたスキルも反応したといいますか……こんなこと初めてなので、機会があれば詳しい方にお伺いしておきたかったんです。あの、こちら私の探査者証明書です」
「逢坂……?」
何やら気になることを言いながら、自身の証明書を渡してくる逢坂さん。
楚々とした見かけとは裏腹に、結構竹を割ったように言いたいことはきっちり言う彼女にしてはどこか困惑した、言い淀むような雰囲気だ。駒野さん達もなんだなんだと目を丸くしている、仲間にも打ち明けてなかったのか。
ただごとではなさそうだ。俺と香苗さんと宥さんは証明書を覗き込む。
そこには、ある意味驚くべき情報が記載されていた。
名前 逢坂美晴 レベル88 D級
称号 隠者
スキル
名称 サバイバルマスタリー
称号 隠者
効果 自身の身を隠すスキルを使った際、効果に補正
スキル
名称 サバイバルマスタリー
効果 このスキルを獲得する以前に得ていた支援系、サバイバル系スキルをすべて効果、範囲、持続時間を3倍にした上で使用できる
「──マスタリースキル! 逢坂さん、ドラゴン退治からもう一つ支援系スキルを獲得したのか!?」
「は、はい! 《生存術》というサバイバル技術の習熟速度に補正をかけるものでした。ですが、それを獲得した途端に脳内にアナウンスが。ええと"特定条件を満たしたため、スキルが統合されます"とかなんとか」
「それは……公平様、いわゆるこれは、統合スキルというものですね?」
これにはさしもの俺達も驚かないではいられない。特に宥さんが一筋汗を垂らしながら問いかけてくるのを、俺もまた深く静かにうなずいた。
マスタリースキル。世間的には統合スキルとも称されるカテゴリのスキルで、ある特定の方向のスキルを極端な数、保持した時点でそれらがまとめて統合されることなる、特殊カテゴリだ。
身近なところではやはりサウダーデさんだろう。彼は《格闘術マスタリー》を保持している。
空手、柔道、ボクシング、柔術、ムエタイ、カポエラ、テコンドーなどなど……様々な武術を修め、かつそれらに対応したスキルを手にしたことで統合したスキルだね。
つまり逢坂さんは今、S級探査者の最上位に位置する方と同じタイプのスキルを保持しているんだ。
こうしたマスタリースキルの効果は、入手難度の高さに見合うだけのとてつもないものがある。
元になったスキルをそれ以前と変わらず使用できるだけでなく、それらの出力を3倍にまで引き上げるのだ。逢坂さんの場合は範囲や効果に加えて持続時間も飛躍的に伸びているみたいだね。
支援系スキルの、これは間違いなく頂点だ。
それを手にした逢坂さんもまた、サポーターの頂点に至り得る素質がある……と。そう見積もるには十分すぎるものだ。
ドラゴン戦の時点でマリーさんも彼女を見出していたけど、まさかここまで早く頭角を現すとは!
「マスタリースキル……統合スキルは、誰にでも手に入れられるタイプのものじゃ決してない。弛まぬ努力と研鑽の果てか、あるいは持って生まれた天賦の才か。サウダーデさんは後者に加えて前者もあるだろうけど、逢坂さんの場合は」
「はっきり言って天賦そのものでしょうね。逢坂さんを低く見たり下に見たりするわけではありませんが、S級探査者トップ層であるサウダーデさんに並ぶほどの鍛錬を毎日しているとも……すみません、見えないのが本音のところです」
「い、いえそんな! さ、サウダーデ・風間さんほどの方と並べられてもこ、困ると言いますか! 正直その、探査者として別段、変わったこともしてませんし」
「だったら紛れもなくそれは逢坂さんの、逢坂さんだけの才覚だ。それを活かせるかどうか、そこにこそ今後の君の努力が求められるだろうけど……驚いたな。今その段階でマスタリーを手にできた君は、紛れもなく天才だよ」
掛け値無しの賞賛。いやこればかりは諸手を挙げて褒める外ない。
努力というか、普通に探査者としての生活を送っていたのにマスタリーを手にする。そこにあるのはまぎれもない、常軌を逸したレベルの才覚だ。
無論、それを今後有効活用できるかどうかは逢坂さん自身の問題だ。どんなスキルを得ても使い切れないのであれば、言い方は悪いけど宝の持ち腐れになりかねないからね。
ただ、可能性は無限に近いものを感じる。極端なほどのサポーターが、高じてその道の頂点へと駆け上がる切符を手にした……
今の逢坂さんは、まさしくそんな状態なのだった。
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