もしかしたらいるかもね、モンスターの赤ちゃんってのも
アイの動画を見終えて、それに関しての議論や意見のやり取りに少なからずの手応えというか、多少は明るい展望を見いだせた俺。
その夜はそのまま、ぐっすり眠るアイを軽く擦りながら眠りに落ちた────そして翌日。
いつも通りの東クォーツ高校でも、公開されたアイの動画は衝撃的だったようだ。それ一色ではもちろんないけれど、クラスの中でもそれなりに感想が話されたりしていた。
朝のニュースとかでも取り上げられていたもんね、可愛すぎるモンスターのあかちゃん!? とかって。
「いやもう、かわいすぎでしょこんなの……見てるだけで母性本能的なのがドバドバ分泌液を垂れ流すわ」
「見た目は翼が生えて尻尾の太い子犬か子猫を彷彿とさせるけど、明らかに人間の言葉を理解、してるよなこれ? チェーホワさんの言葉に合わせて前足振ってるし」
「賢いんだなあ。うちで飼ってる猫にも見習ってほしいぜー」
昼飯時、例によって松田くんや梨沙さん達と集まってのご飯中にも例の動画については語られている。
すっかりメロメロなのが意外にも木下さんで、どうも彼女はこういうかわいい系のぬいぐるみとか動物に目がないみたいだ。本人は結構サバサバ系なので、ちょっとしたギャップを感じるよね。
それに対して片岡くんも、スマホで動画を見ながらコメントしている。アイの賢さにまず言及するのは、理知的な彼ならではの着眼点と言えるだろう。
隣で大人三人分くらいの弁当を当然のごとく食べているフードファイター遠野さんと、身を寄せ合って画面を覗き込んでいる。なんかこう、関係性に進展が見られますね……微笑ましい。
そして自分の飼ってるペットを引き合いに出す松田くんと、俺に向かって梨沙さんも話しかけてきた。
木下さんほど首ったけの様子ではないけれど、それでも興味津々といった感じだね。
「モンスターの赤ちゃん……なんて前代未聞らしいけどさ。他にもダンジョンにはこういう子がいたりするのかな? 見たことあったりするの、公平くん」
「いやー、さすがにないなあ。これまでの100年で見つからなかったのを考えると、このアイちゃんはよっぽど珍しいんだと思うよ。毎日世界中でとんでもない数のダンジョンが踏破されてるんだからさ」
「そっかあ。でもホントにかわいいねー、涼子がメロメロなのも分かるかも」
「短い手足と翼と尻尾をパタパタさせてるのがこう、愛らしいよなあ」
他にもアイみたいな子がいるのか、そこが梨沙さん的には気になっているようだけど……そもそもアイは例外中の例外だからねえ。
元は邪悪なる思念の端末の腕一本。そこから生成された、赤ちゃんながらに巨大なドラゴンだったのを、俺がスキルで再構成しなおしたのが今のアイなわけで。
つまりは自然発生的なモンスターとは言えないんだよね。
とはいえ、世の中は広いしモンスターも多種多様だ。これまで未発見だったけど実はこんな感じの赤ちゃんモンスターがいないとも限らない。
モンスターの種類については、システム領域由来でなく邪悪なる思念の作り上げたモンスター生成プログラム由来で、あまりに複雑すぎて未だブラックボックス同然なのが悔やまれる。
まあ、どうも三界機構のいずれかの世界に生息していたモンスター的な存在を元にしているっぽいのはたしかだ。
なので他にもいるのかいないのか、という問いに対しては分からない、いるかもしれないしいないかもしれない。としか答えられないのだ、コマンドプロンプトとしてもね。
おーい、そのへんどうなんだアルマさんや。
そのうちミュトスを介して三界機構にも聞いてみたいところだけど、お前もこれまで食ってきた世界のことなんだし多少は知ってるんじゃないのか?
そもそもお前だろ、モンスターを生み出すプログラムを作ったのは。
『ふん? まあ、たしかにモンスターの大半は断獄とか災海世界からのモノだ。で、そうなると元のそいつらの世界のモンスターにはきっちりした生態系があるわけだからね。赤子なんてのもそりゃいたよ』
『やっぱりいたのか。いるよなーそりゃ』
『もっとも、今あるモンスターはそれに似せたモノを生成するよう僕が仕込んだプログラムの産物にすぎない。つまり生態系もへったくれもないから、赤子の状態で発生する可能性は低いと思うけどね。まったくないとは言い切れないけども──』
──赤子なんて未完成極まりない状態、僕が認めるわけ無いだろ。
そう言って話を打ち切るアルマ。アイの動画が、いやさアイの存在が賛否あれど概ね好評なのが気に入らないみたいで、朝起きたあたりからずっとムスッとした気配を出している。
こいつはそもそも、たとえ赤ちゃんでもモンスターだから絶対に受け入れられることはないと考えていたからね。
正直俺にもそんな思いはあって、だからこそ否定一色からでもどうにか、たとえ一生をかけてでもあの子の居場所を作らないといけないと意気込んでいたんだけど……実際の反応はあの通り。まったくの否定がなかったわけではないけれど、思っていた以上に好意的な反応も見られたんだ。
それは俺にとっては我がことのように嬉しいものだけれど、アルマにとっては面白くないことなんだろう。
ま、俺達もワールドプロセッサやらコマンドプロンプトっても他者の心まで理解しきれるわけじゃないってことだ。お互い、これに関しては人々が俺達の予想を超えていたってだけの話さ。
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