ポテトを一本ずつ食べる人と複数本まとめて食べる人の溝は深い……
楽しかった打ち上げからも一日が経ち、今は月曜の放課後。東クォーツ高校1年13組は相変わらず、差し迫った文化祭に向けての準備をしたりしている。
と言って今日は俺ちゃん、そちらには参加せずにクラスメイトのいつもの友人達と街に繰り出してるんですけどね。どうも山形公平です。
「準備も粗方終わったし、俺らもあんまやることねーもんなー」
「だねー」
駅前のファストフード店でハンバーガーセットを食べながら雑談する、俺を含めたいつもの六人。
梨沙さん、松田くん、片岡くんに木下さんに遠野さん。入学して早々に仲良しになった彼ら彼女らとこうして過ごすのも、探査業方面でのあれこれが片付いてからだとなんだかウキウキしちゃうね。
さておき松田くんが言うように、今日っていうか今週以降俺達ってば文化祭の準備についてはそこそこに終えて、割合通常の放課後に戻り始めていたりする。
演劇用の小道具やらもシナリオも作り終えたし、梨沙さんや関口くんはじめとした役者陣の仕上がりも上々。となると、もう根を詰める必要もないから後は安らかに当日を待とうって感じになったのだ。
「にしても梨沙、演技めっちゃ良いよねー。関口くんは元からガチ芸能人みたいなもんだし役者だって似合ってたけど、こっちもさすがだわ」
「え? そんなことないって、普通普通。ってか関口くんがうまいこと演ってたから釣られて上手に見えてたかもじゃない?」
「関口くんはたしかにすごいよな……だけど佐山さんの魔法使いも良いと思うぞ俺。何より詠唱が良い、アレをきっちり読み上げるのはすごいことだ」
「そ、そうなんだ……?」
フライドポテトをみんなでシェアしながらも、木下さんが楽しげに梨沙さんを見て笑った。
演劇"勇者関口物語"における魔法使い役である彼女の演技が、演劇部さながらの見事なものだったことを受けてのものだ。
たしかに、小道具を作りながら横目に見てる限りでも彼女の演技はかなり上手なもののように思えた。
関口くんは言うに及ばず、多芸多才ぶりを発揮して俳優か何か? ってくらい迫真の演技だったんだけど梨沙さんも相当良い演技をしていたよ。
なんなら片岡くんも同意しているけど、若干ピントがズレているというか、演劇内でスキルを使う際になぜか前口上としてある詠唱的な何かをきっちり口にしている姿勢を評価しているみたいだね。
梨沙さんにはピンときてないみたいだけど正直、俺には分かるよ……詠唱という中二イズム全開の文脈に全力で、衒いもなくぶつかりに行ける梨沙さんはかつて中二だった者からすると眩しく見える。
アレを野郎がやれって言われたら、大概の人が過去の古傷に悶えるか苦笑いするかだと思う。もしくは現在進行系でやらかすか。
そもそも現実の魔法系スキルに前口上なんて必要ないんだけど、そこはそれ演劇ゆえの見栄とかなんだろう……そんな見栄を全力で演じ切ろうという梨沙さんは、経験の有無など問わずにこと"勇者関口物語"に限っては立派な役者さんなんじゃないかなと俺は思うわけだ。
「梨沙、すごく魔法使いって感じだったよ! 実際の探査者さんかどうかはともかく、魔王と戦う勇者の仲間って感じはしたから自信持って!」
「あ、ありがと……なんか照れるじゃん、もうー。こ、公平くん的にはどうだった? たまに指導してくれてるけど、変じゃないかな私の魔法使い」
「指導って。たまに聞かれて一言二言答えてるだけだよ? まあそれはそれとして俺も、梨沙さんは素敵な女優さんだなって思うけど」
「そ、そう!? そうなんだ、へへ、えへへ」
遠野さんに続いて俺も彼女を讃えれば、梨沙さんは照れて笑って、それを隠すようにポテトを食べ始めている。俺も貰おう、塩気がうまい!
……二学期が始まってからこっち、俺は俺で首都圏の事件のことで忙しかったけど。梨沙さんや関口くんはじめクラスのみんなも文化祭の用意でしっかり忙しくて大変だったんだよね。
それを乗り越えて今、きっちり準備万端に仕上げたクラスのみんなは本当に立派だ。梨沙さんだけじゃなくこの場にいるみんなも、教室のみんなも全員が一丸となって頑張った結果だね。
文化祭まであと10日ほど。その間も細かい調整とかはあるだろうけど、後は野となれ山となれだ。特に役者さん達には、悔いのない演技をしてもらえるように祈るばかりだよ。
「よーし! じゃあよう、今日はしっかり食って文化祭に向けての英気ってやつを養おうぜ! 俺さ腹減ってんだ、ハンバーガー追加で頼んじゃうぜ!」
「あ、じゃあ私も! えーっとチーズバーガー2つにテリヤキバーガー2つ、期間限定のバーガーは3つとあとチキンナゲット一番多いやつ!」
「真知子!?」
「あんた本当に体壊すよ!?」
「えぇ……?」
グループの仕切り役、松田くんが締めくくって立ち上がり、カウンターで追加注文しようとしているところに便乗して遠野さんまで立ち上がった。
追加でしていい量っていうか、そもそも一食分で頼んでいい量じゃないボリュームでアレコレ言い出して、堪らず梨沙さんと木下さんが止めに入った。時刻は16時頃、今このタイミングでそんな量食ったら俺ならまず夕飯食えなくなるやつだコレ!
『さすがだ! さすがだよ遠野真知子、君は期待を裏切ることはない! 公平、お前も彼女を見習え! 何をハムスターみたいにもそもそとポテト一本ずつ食ってるんだ、良いから貪れ追加で各バーガー全種注文しろ!!』
するか馬鹿野郎! 誰がジャンガリアン山形くんだはっ倒すぞ!!
脳内のアルマがすっかり"推し"になった遠野さんに感銘を受けてはしゃぎだすのを一喝。こいつホント、遠野さんリスペクトしすぎじゃなかろうか?
怖ぁ……
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