宴の終わり、平穏の始まり
店を出てビルの外、首都圏の夜空を眺めながら涼しい風を存分に楽しむ。食後ってこともあり満腹感に満たされた身体にこの涼やかさが心地よく沁みるね。
この後は俺とか優子ちゃんとかはもう帰るだけっていうか、未成年としてはそろそろ寝ましょうねって時間だ。なんなら明日月曜だもんで学校あるしね普通に。実はあまりのんびりもしていられないのだ。
ちょっと歩いたところにある広場にみんな集まって、いくつかのグループに分かれて軽く雑談なんかする夜。
俺もなんとなし集まった香苗さんやベナウィさんと三人、あれこれお話している。
「──ちなみに香苗さんはいつ頃、関西にお戻りになる感じなんです? こないだ、そろそろ日常業務に戻るみたいにお話されてたと思うんですけど」
「ミス・香苗は認定式の主役だったこともあり、今回の事件ではどうしても最前線に長くいましたからねえ。S級としての仕事もいろいろあるでしょうから、いつまでも首都にいるわけでもないのでしょう?」
「ええ、それはもちろん。私としても、本格的に首都圏に拠点を移すつもりは毛頭ありませんから」
もっぱら気になってるのがずばり、香苗さんがいつ頃うちの県に戻ってくるかってところかなー。
何しろこの人、認定式以来結構な日々を首都圏のいつものホテルにて過ごしているはずだし。アンジェさんチームやエリスさん葵さんコンビにサポートとして入りつつ、時折関西に戻っては通常探査業とかその他雑務をこなしていたんだよね。
その間も俺とは直で会って話したり、チャットであれこれやり取りしたりもしていたけれど……最終決戦前くらいにはぼちぼち帰りたいなー的なことを言い出していたりもする。
だもんで、すべてが終わった今となっては彼女がいつ頃、彼女の本来の日常に戻れるかってのも個人的に気になるところではあるのだった。
「いつもいつでも伝道師、救世の光をあまねく世に広めるべく日々信仰を募らせるこの御堂香苗の活動拠点は言うまでもなく関西と言いますかあなたのお側です」
「怖ぁ……」
「ですから一刻も早く帰りたいというのが本音のところですが、今日はお酒も入っていますし諸々準備もありますのでゆっくり休んで明日、朝から夕方にかけて帰るつもりです。明後日には自宅に着いているかと」
「なるほど……もしよければ俺の空間転移でお送りしますけど、どうします?」
一切ブレない香苗さんの、まさかの活動拠点に若干怖いものを感じるものの、それはそれとしてタクシー山形くんを提案してみる。
こうして話を聞いたからには一応ね。車で来てるんなら車ごと転移させても良いし、それは他の、関西に戻るつもりのある仲間達も同様だ。
後でみんなにもアナウンスして仔細を詰めようとは思っていたんだけど、先んじて香苗さんに提案した形になる。
話を聞いて彼女は目を丸くして、すぐに淡く、微笑みを返してくれた。
「お心遣いありがとうございます、ですが今回の帰りは私の車で、エリスさんと葵さんを連れてのものになります。道中にいくつか寄りたいところもあるとのことなので、ここは申しわけありませんが車で帰りたく思うのです」
「そうでしたか、分かりました……寄るところっていうのは、今回の事件に絡む話ですか?」
「いえ、高速道路にあるサービスエリアをはしごしながら帰りたいとのことでして。通常半日程度で済む道程を一日かける予定なのは、そのあたりの事情もありますね」
「えぇ……?」
まさかの楽しそうなドライブ旅。
香苗さんとエリスさんと葵さんで道中寄り道しまくりとか何それ羨ましいぞなんか!
しかもサービスエリアってのが良い。うちの母ちゃんの実家が四国のほうにあって、毎年の正月には帰省するもんだから高速使っての移動になるわけなんだけど、道中にあるサービスエリアがマジで楽しいのなんのって。
土産物屋から食事処から屋台からいろいろあって、俺と優子ちゃんは毎回それも道行きの楽しみとしているほどだ。非日常なんだけどどこかホッとするんだよねえ。
一日かけてそんなサービスエリアを制覇しようって企画はすごく楽しそうだ。俺も車を運転できるようになったらやってみたいなー。
まだ見ぬ未来への楽しみがまた一つ増えたと内心で期待する。と、そんな折にヴァールが俺達みんなに号令をかけた。
いよいよ締めの挨拶みたいだね。
ぞろぞろと、他の人の邪魔にならない空き地に集合する。
全員が揃ったところで彼女はコホン、と咳払いして言った。
「よし。一応だがこれにて身内というか、特に親しい寄り合いでの打ち上げを終わりとする。この後は自由だ、二次会なり帰るなりしてくれ。お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたー!」
「ちなみに半月後の11月上旬には、事件解決に関わったすべての人間を集めて改めて打ち上げを行うのでそのつもりで。詳細な連絡はまた後日にする……以上、解散! 気をつけて帰ってくれよ、みんな」
「ありがとうございましたー!!」
無難ながらも立派な挨拶で、俺達は最後に礼を言って打ち上げを終えた。
まあ全体打ち上げが半月くらいあとにあるけどそれはそれ、これでやっとこ日常に戻れるわけだ。
軽く背筋を伸ばす。肩の荷が下りたって感じかな、心が軽い。
何はともあれみなさんに軽く挨拶してから、家族みんなで帰って明日の学校に備えようか。
まさしくそう、当たり前の日々に戻るようにね。
次話から新エピソードですー
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