望まずと得た力と、向き合い続ける偉大な人
「さっき、向こうでマリーさんのお孫さんがみんなで探査しようとかって話してたけど……山形くんも参加するのかい?」
「あ、はい。話が来たらですけど、そのつもりですね。みなさんとは探査をご一緒したいと、そこは前から思ってましたので」
改めての乾杯もそこそこに、ロナルドさんから質問される。先ほど向こうの席でアンジェさんが主導になって話していた、ここにいるメンバーの何人かでダンジョン探査に行こうって提案についてだ。
アンジェさん、ランレイさん、愛知さん、香苗さん、葵さん。この5人は確定として、俺や神奈川さん、セーデルグレンさんなんかにもお声がかかるだろう。
反面、ロナルドさんやサウダーデさん、ベナウィさんといった大御所からベテランの探査者さんにまでお呼びかけするかは定かじゃない。
ただ、ロナルドさんもその話を耳にしていたようで結構、興味津々の様子でいる。ワクワクというかソワソワしながらも、俺にこうして話をしてきているのがいい証拠だろう。
「そ、そっか……じゃあ俺も参加させてもらうように後で、お孫さんにお話ししてみようかな。今をときめく御堂さんはじめ、今の若手のトップ層をこの目で見てみたいし」
「それは良いですね。ご指導ご鞭撻なんかもいただけると、僕らにとって大きなプラスにもなりますし」
「いやいや! そんな大層な指導だのってする気はないよ。ってか、特に山形くんには俺から言えることなんてなさそうだし。話はいろいろ聞いてるけど、とにかく桁違いだなって印象しかないから」
「桁違いって……」
怖ぁ……S級探査者から若干匙を投げられてる感じがある。ぜんぜんアドバイスとかほしいんですけど。戦闘力とかでないところでも、まだまだ俺には経験不足なところも多いんだからさ。
コマンドプロンプトとして、アドミニストレータとしてそりゃまあ、戦闘力自体はさすがに図抜けている自覚はある。じゃなかったら邪悪なる思念との最終決戦になんて臨んでないし。
だけどそれとは別口に、やはりダンジョンを探査する探査者としての経験はまだまだひよっ子なのが俺ちゃんなのだ。
だからこそ、先輩のみなさんから教えてもらえる機会があるならぜひともご指導いただきたいって気持ちは間違いなくあった。
「ダンジョン探査の経験値が絶対的に不足している自覚はありますから。ありがたいことに多少、他の同世代の方々に比べてスキル面で恵まれたところはありますけど……まだまだ、先輩の探査者さん達を見て学ばせてもらいたい段階ですよ、ロナルドさん」
「そ、そうかなあ? 君を見てるとこう、そんなわけ無いじゃん! 的な感覚に陥るというか……俺の中に仕込まれたなんかよくわかんないモンスターの因子が全力でツッコミを入れている感覚というかなんというか」
「えぇ……? もしかしてあの、その因子とやらは意志があったりします?」
「いやいや! それはないよ間違いなく。ただ、なんだろう。妙に君に反応して疼いてるんだよなあ。こう、全身の奥深いところが戦慄と恐怖と、その裏腹の安堵と期待に」
「……………………」
しきりに不思議がるロナルドさんに、俺としては微妙な反応を返す外ない。彼の身体から感じられる気配、その深層にある異形のソレからは……たしかに、仰っている通りのものを感じ取れるからだ。
単なるモンスターの因子といえど。意思などない細胞だけのものだとしても、アドミニストレータとしての俺をたしかに察知していて、自らを浄化されかねないという警戒と解放されるかもしれないという期待とを同時に感じているのかもしれない。
相反する本能とでも言うべきか。
正直なところ、現状のロナルドさんに対して俺から何か行動を起こすことはない。
彼は己に仕込まれた因子をしっかりコントロールしているし、そもそも因子自体もモンスターそのものってわけじゃない。還すべき魂もそこにない以上、保因者に害が及ばないうちには俺が何かをするべきって話でもないからね。
もちろん、ロナルドさんがそれを望まれるのなら話は別だけど。
それとなく、さり気なさを意識して彼に尋ねる。
「モンスターの因子。体内にある感覚っていうのがごめんなさい、ちょっと想像がつきにくくて恐縮なんですけど。仮の話として、もしそれを取り除けたりするなら除去したいと思ったりしますか?」
「へ? いや、んんー微妙だなあ。家族に比べて老けない身体は良いやら悪いやらだし、モンスターへの変身能力は探査者として大きな武器だし。若い頃は時折、取り除けたら良いかもなあと思いはしたけど、今は別に。これもっていうか、これが今の俺だからそれを否定したくもないかなーって」
「なるほど……ロナルドさんは、偶然でも望まなくても、手にした力と正しく向き合っているんですね」
「まあ、記憶喪失もあって実質物心ついた時からこうだったからね。これが当たり前っていうか。これのお陰で第七次だって乗り越えられたから、腐れ縁なりに相方みたいな? 感じだよ、あっははは!」
陽気に笑うロナルドさんの、芯の強さと器の大きさをたしかに感じ取る。
手にした力を、望まずとも受け止めて受け入れる。そしてその上で前に進み、人生を謳歌する。それは紛れもなく、人間としての強さに他ならない。
これが、アイオーン。かつてモンスターハザードに立ち向かい時代を切り開いた英雄、ロナルド・エミール。
あっけらかんと笑うその姿に、俺は偉大な勇者への敬意を抱き、深くうなずくばかりだった。
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