不思議なダンジョン
ダンジョン内部は至ってオーソドックスな造りで、土塊の床と壁が長く続き、その先には小広い部屋がある、そんな構造だ。
ただ、バー内部にできたからだろうか……時折、床や壁に酒瓶が半分埋まっている。ためしに蹴っ飛ばすと割れてしまい、中身の液体をぶちまけ、異臭が漂う有様になってしまった。
お酒に詳しいベナウィさんが、鼻を鳴らして言った。
「ウイスキー……それもスコッチですね。どことなく芳醇な樽の薫りがするのは、中々の心地です」
「焼酎、日本酒、ビール瓶まで。すべて中身入りですか。酒好きにはたまらないでしょうね、このダンジョン」
「未成年には堪ったもんじゃないですけどね……」
「お酒、きらい! くさい! 変な気分、いやー!」
感心するというか、ちょっと唆られてそうな大人二人。香苗さんまで、喉を鳴らさないでくださいよ……
一方でリンちゃんはめっちゃ嫌がっている。そりゃそうだ、土塊の匂いに酒の匂いが混じってまあ、慣れない俺らからしたらもう、暴力だよこんなもの。
鼻を摘んでいーってしてるリンちゃんの背中を擦り、俺は頭を振った。さっさと最深部にいかないと、匂いだけで酔いかねない。
まさか、こんなダンジョンがあるなんてなあ。
『ダンジョンの性質によるものですねー。確率は低いですが、たまに、発生した周囲の情報を読み取って構造に取り入れる性質があるんですよー』
と、リーベが脳内にて解説する。
以前にも香苗さんから聞いた覚えのある話だけど、そういう性質があるんだ? 周囲の情報を読み取って取り込むなんて、生命みたいだな。どういう理屈なんだか。
『さあ……ダンジョンという概念には謎が多いですから。システムさんとしても、未だに仕組みを解析しきれてませんしねー』
……………………えぇ? なにそれ、怖ぁ。
ダンジョンを作ったの、システムさんじゃないのかよもしかして。そしたらダンジョンって、一体どこから来たんだ?
『ん……もう少し詳しく話すとですね。邪悪なる思念がそのー、取り込んでいたというか、持っている概念なんですよ、元々は。それをこちらで流用して、逆にやつの力を削ぐための一助にしてるんですねー』
「なんだって!?」
「!? な、なに?」
思わず声を上げた俺に、並んで歩くリンちゃんがビクッと驚いて震えた。悪いとは咄嗟に思ったけど、いや、正直それどころじゃないわ。
ダンジョンが、元々は邪悪なる思念のもたらしたものだった? それを、システムさん側が逆手に取ってやつへの対抗手段にしている?
いや、いやいやいやいや。何それ嘘ぉ……
「ど、どうしたんですか公平くん、急に」
「あ、え……と、その。ちょっと脳内電波がビビビと毒を受信しまして。ははは」
「……もしかして、システムさんですか? もしくは代理人とかいう、昨日話していた方とか」
ずずい、と真正面から覗き込んでくる香苗さん。近い、美人だかわいい! いや、そんなこと思ってる場合じゃないよ。
心配ももちろんだが、若干の期待もしている感じなのがらしいな、と他人事的に考える。不思議そうに俺たちを見ているリンちゃんやベナウィさんの方に違和感を覚えているくらいだから、俺も重症だなあ、と思うよ。
「だ、代理人の方です……その、かなーりショッキングなことを聞かされまして」
「大丈夫ですか? 何か、理不尽な物言いでもされましたか? もし差し支えなければ、私達で良ければ話を聞きますよ」
「い、いえ大丈夫」
さておき、今度は誤魔化さずに答える。と言っても、衝撃的なダンジョンの由来なんて、とてもじゃないけど言えないが。
ちくしょう、藪を突いたら蛇どころか龍が出てきた気分だ。迂闊な質問をするんじゃなかった……大ダンジョン時代にまつわる話なんて、どれも厄ばっかり纏わるもんだってこと、いい加減に俺も学ぶべきだと自省する。
リーベが、しょんぼりしていそうな声で謝ってきた。
『ご、ごめんなさいー……もうすぐリーベちゃんが降臨できそうですから、ちょっとくらいは良いかなーって思っちゃいましたー……ミッチーたちに教えてあげても、良いですよ?』
言えるかこんなこと、俺の口から! 何考えてんだ!
思わず鋭く脳内で叫ぶと、余計にリーベが落ち込んだみたいだった。悪いけどこれくらいは言ってもバチ当たんないと思うよ、俺。
とにかく、これは俺の手には余る。香苗さんに向け、しどろもどろに釈明した。
「あの、えーと。その代理人ってのが、俺がレベル300になると姿を見せるって話なんですよ。何か、邪悪なる思念との決戦に至る段階の一つらしいんです、それが」
「レベル、300……午前中、統括理事ともそんな話をされていましたね。たしか、精霊知能リーベでしたか?」
「そう、それそれ! そのリーベちゃんがぜひ、自分の口から何もかも、洗い浚い白状したいとのことなのでー。俺としても、それに従いたいかなってー、思うんですよー」
どさくさ紛れにリーベについても知らせておく。これでもうリーベに逃げ場はないな。
説明責任の押しつけ確認、ヨシ!
「そ、そうなんですね……分かりました。それでしたら、その時が来るまで私は待ちましょう。何かあったらすぐ、お声がけくださいね」
「よく分かんないー……けどー、分かったー。元気だしてー」
「アドミニストレータ関連の話ということですね。いやはや、ミスター山形も中々に板挟みになっていそうですね」
色々と察して、案じてくれる三人。
ありがたいやら申し訳ないやら、複雑な心境の俺である。
この話を投稿した時点で
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