時の流れを感じさせる光景
「エリスとフェイリン、そして葵か……エリスは本人だが、かつての仲間の末裔がこうして会することになるのを見る。なんとも不思議な感覚だな、まったく」
かつてのエリスさんの仲間にしてリンちゃんやランレイさんの先達、ラウエンさんについての話が向こうで行われ始める頃。
不意にシャーリヒッタの隣りに座るヴァールがそんなことを言い漏らして、静かにウイスキーのグラスを傾けるのを見て聞いた。
どこかしみじみとしたものを、深く複雑な色を思わせる声色と表情の加減だ。唐揚げにぱくつくのもそこそこに、俺は彼女に軽くだけど声をかけた。
「ヴァール? 気になるのか、向こうが」
「気にならないと言えば嘘になる、かな……彼女達だけでなく、この場には過去、仲間だった者の縁者が多い。ランレイにフェイリンはもちろん、葵もそうだしアンジェリーナも。ロナルドもそうだ」
「ロナルドさんも?」
「あの兄ちゃんはそりゃ、第七次で一緒に戦ってたんだから仲間そのものじゃねェのか?」
やはりというべきか、昔日を思い返して懐古に浸っていたみたいだ。大ダンジョン時代100年のヒストリア、その中を常にひた走ってきた彼女を思えばそれは、当然のことだろう。
でもおや? となったのは、かつての仲間の縁者という括りにロナルドさんまで含めたことだ。彼については縁者というよりは仲間そのものだろう。何しろ第七次解決の立役者なんだから。
シャーリヒッタも同様の疑問を抱いたようですかさず質問している。
それに対してヴァールはん、と喉を小さく鳴らし、軽く逡巡してから……気持ち密やかに、小声で話してくれたのだ。
「いや、それがな……彼の祖母がかつて第二次の折、ワタシやエリスと共に戦ったシモーネ・エミールという女性探査者なのだ。マリアベールの前の特別理事だったレベッカ・ウェインの弟子でもあった。当時はまだまだ、若手の子だったよ」
「え。でもロナルドさん、家族の記憶がないってさっき」
「記憶こそないが知識としてはあるのだ。第七次の後にな、WSOが彼のルーツを調査した結果判明した。そうでなくともエミールという姓だ、ワタシもエリスもレベッカも、まさかという思いで調べていたがまさしく真実だったのは……複雑な気分だったよ。シモーネは第二次後、我々と袂を分かった後にダンジョン内で早逝していたからな」
「そいつァ……」
思いがけず壮絶な話だ。ロナルドさんはつまり実感こそないものの己のルーツは把握しており、しかもそこに第二次の頃のヴァールやエリスさんの仲間だった方がいたっていうんだ。
しかもどうやら喧嘩別れに近い形で関係性を断絶させていたような人の、子孫の存在を何十年後にもなって知るというのは……どんな気持ちなんだろうな。
因果な話だ、というのはこういう時にこそ用いるべきなんだろうかね。あまりにも数奇なロナルドさんの来歴に、思いを馳せずにはいられないよ。
シャーリヒッタと顔を見合わせ、なんとも言えない俺。周囲で話を聞いていたリーベやミュトスもどう反応しても気まずいことになりそうで、さすがに静かにご飯を食べている。
そうした空気を払拭するように、ヴァールは軽く微笑んで言うのだった。
「ワタシが言うことでもないだろうが、本人なりの心の整理はとっくについている。そもそもこれは単なる想い出話だよ……100年続いたこの時代。良いことも悪いことも引っくるめての歩みなのだから」
「…………そっか。強いな、ヴァールもロナルドさんも」
「あなたが受け入れてくれたからこその時代だよ。悲喜交交すべてがあの最終スキル《攻略! 大ダンジョン時代》につながったのだと考えれば……ああ、これはワタシ個人の感傷だが。すべてが報われてくれた、そんな気がするのだ」
心からの賛辞を、お返しするように彼女は俺の選択を……あの時の、邪悪なる思念との最終決戦の時の決断を讃えてくれる。
《攻略! 大ダンジョン時代》──邪悪なる思念によって作られたこの時代を、本来有り得なかったはずの世界を、けれど丸ごと受け入れて先に進もうとするためのスキル。
それは畢竟、ソフィアさんやヴァールはじめ大ダンジョン時代の100年を受け入れ、受け止め、寄り添いともに歩むということにほかならない。
そんな決断を下した俺/私へ、ヴァールなりに感謝するところがある、ということなんだろう。
照れるー。頬をポリポリかき、俺はシャーリヒッタとともに笑いかけた。
「ま、まあそれはアレだけどさ。御本人のなかで蟠るところがないって言うならそれが一番だよ。もちろん、今聞いた話は俺達だって吹聴したりはしないけどね」
「おうよ! にしても妹よ、オメーマジで頑張ってくれたんだなァ、この100年をよォ!!」
「やめろ、頭を撫でるな妹と呼ぶな! キサマの奇怪極まる脳内関係図を持ち出すな、話がややこしくなるのだ! あとどちらかと言えばワタシは姉だ! 間違えるなシャーリヒッタ!!」
努めて明るい空気にしようとする俺達を察してか、いつもより気持ち高めのテンションでシャーリヒッタの脳内関係図に抗議するヴァール。
店内はあちらこちらで仲間達が飲めや歌えの騒ぎを繰り広げていて、その中に溶け込むように俺達も騒いでいく。
これでいい。これが良いんだな、きっと。
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