暗い過去を、ものともせずに明るく陽気な人達
乾杯してすぐのねぎらい合いもそこそこに、さあていよいよお食事といくか。さっそくお箸を手に取り、いただきますと手を合わせる。
テーブルの上、眼前にはまずどどん! と大きなお鍋がコンロの上に置かれている。自前で火加減を調節しながら食べるみたいだね。
中身は……うっひょーう! 色合いからして味噌炊きだろう、濃い味噌色にお野菜マシマシお肉もたっぷり、きりたんぽまであるよ!
もはやもうじき11月だ、この頃になると暑さも和らぎそろそろ涼しくなって、俺ちゃんとしてはちょっとずつお鍋の季節もそろそろかなーって思っていたところにこれだ。サイコーだね。
「しかもお肉もしっかりと牛さんと鶏さんだ。こりゃー堪んないなあ。そんでもって他にはサラダに……」
「唐揚げ、出汁巻き、あとは刺身の盛り合わせに漬物も数点か。葵曰くだが、鍋はもちろんのことこうした一品メニューも追加注文できるらしい。ドリンクもな」
「そりゃ至れり尽くせりだぜ! へっへっへ、オレもさすがに目移りしちまうなァこいつは!」
「メニューこちらにありますよどーぞどーぞ! あ、店員さんこの日本酒? っていうの一番大きいサイズでくだせー!」
ヴァールやシャーリヒッタも場の雰囲気もありテンション高めだ、ミュトスに至ってはさっそくビールジョッキを二杯片付けて日本酒なんて頼んでる。しかも一番大きいやつ、たぶん一升瓶ときた。
飲み過ぎとまではまだ行ってないけどペースはかなり早めなように思う。リーベ的にはラッパ飲みとかしだしたら止めに入るくらいのラインは引いてるみたいだけれど、俺としては本格的に今以上のペースになりだしたらちょっと注意くらいはするかもしれない。
何しろ向こうの席じゃすでに、ガッツリ呑みだしてる人達がいるからね……飲兵衛組。
マリーさん、サウダーデさん、ベナウィさんにロナルドさん。そして何を隠そううちの父ちゃんも結構な勢いで騒ぎ出していたのだ。
「ファファファ! 公平ちゃんのご家族さんもそうら食いな、さあさ呑みなァ! いつもあの子にゃ世話ンなってっからねえ! ファファファー!」
「御母堂も妹君も、善く日々を過ごしていらっしゃるのが分かる。御尊父含めこの家族ならばなるほど、公平どのがああまでまっすぐに、誠実に育たれるはずだと納得するよ……さあ正彦殿、どうぞ一献」
「いやー私的には理想のファミリーって感じですねえ。いかんせん母子家庭で母も18の頃に亡くなったものでして、こうした家族像には憧れがありますよ、はははは!」
「えぇ……?」
ここに来るまでの間にもう一杯、引っ掛けているらしいもんでマリーさんのテンションは正直、そりゃこうなるよねって感じでしかない。
ないんだけど、酒を飲みつつもなお常と変わらないサウダーデさんがあまりにいつも通りすぎて、そのギャップから余計に昂って見えるよね。
そんな酒飲み三師弟さん達ってば、揃ってうちの家族をべた褒めなんだけど、ベナウィさんだけは洒落にならないレベルで重い過去を、軽妙に笑い飛ばしながら語る。
未成年のうちに天涯孤独って……あまりの来歴に父ちゃんも母ちゃんも、優子ちゃんまで絶句して何も言えないでいるよ。
なんならすかさず同期の星らしいロナルドさんがフォローに入ったんだけど、どうもこの人はお酒が強くないようで遠目からでも顔が赤く、若干ふらついた様子だ。
だからだろうか? 彼も彼で、フォローになってないとてつもなく重い過去をなんでもないように口走っていた。
「重い……! 重いよベナウィ、それは重い……! いやまー、俺も12だか13だかで天涯孤独になって、家族の記憶もないからお相子だけど」
「た、大変なんですね……」
「お、お疲れ様です……」
「あっ、いえいえ! むしろ半端に覚えが無いほうが後腐れがなくって身軽なんですよ、わははは! それに今はほら、嫁さんもいて子供も3人いますし! もーチョーハッピーって感じ!」
「怖ぁ……」
明るく振る舞うその姿に翳りはなく、本心から言ってるのは分かるんだけど。どうしても気にしちゃうに決まってるんですよねそんなめちゃくちゃ壮絶な話……!
しかもロナルドさんの場合は、委員会の傘下組織によってモンスターの因子を肉体に埋め込まれた"改造兵器人間"でもある。記憶がないってのはおそらくそのへんの絡みもあるんだろう。
事情を知らずとも反応しづらく、知っているとなおのこと反応しづらい。
そんなロナルドさんと先だってのベナウィさんの二人に、神妙にするしかないうちの家族はとことんまで普通なんだ、そのへんでどうか勘弁してあげてほしい。
と、思っていたらとうとうS級のお二人に叱咤が飛んだ。まさかのサン・スーンさんが、眉をひそめて彼らに告げたのである。
「止めんか、いい加減にせい二人とも。こんな場でそんな湿気た話をするではないわ、若造どもめ。なあ我が友正彦よ」
「そーそー、過ぎたことはともかく今は飯食って酒飲もうぜお二人さーん! ヒック」
「ファファファ! 公平ちゃんの親父さんの言うとおりだよベナウィ、ロナ坊! こんなところでする話じゃないのさ、良いから呑んで食って楽しみなって言ってるんさね!」
「いやーははは、すみません……」
「は、反省しますです、ハイ」
マリーさんも重ねて今を楽しもうと呼びかける。
ベテランをも超える大御所達と、あとついでにもう酔いが回りだしてる父ちゃんの言葉。
これには堪らずベナウィさんもロナルドさんも声を揃えて頭を掻き、苦笑いして謝罪するのだった。
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