夏場の終業式に限って話の長い校長先生いるよね
「こほんこほん。それではみなさまお疲れ様でーす! カンパーイはっはっはー!」
「早っ!? もうちょいなんかこうないの葵、幹事としての挨拶とか!」
立ち上がって開口一番、即断即決で乾杯を呼びかけた葵さんにすかさずアンジェさんがツッコミを入れた。
こういうのにありがちな前置きを一切、省いての超ざっくり加減。長くならないってのは正味ありがたくはあるけども、アンジェさんの主張は割合普通のものだから否定し難いのも事実だ。
この場のメンツも、年長さんは愉快げに笑っているけど若手組の方はむしろ、あわわはわわとどうしたらいいか周囲を見回している。
どうあれ葵さんはジョッキを掲げて乾杯を叫んだわけで、そうなるとこちらもカンパーイと応えないわけにもいくまい。
「か、カンパーイ! ……えっ、良いのこれ?」
「まあミス・葵が幹事ですから。幹事が言ったからには良いんですよ呑みましょうほら、カンパーイ!」
「ホホホ! さあ我が友正彦よ、御家族とともに乾杯しよう!」
「あ、そう? じゃあカンパーイ! ほら母ちゃんも優子も!」
「え、ええ。か、かんぱい……」
「かんぱーい」
うちの家族なんかもう借りてきた猫みたいなもんだけど、そこはさすがの父ちゃんが盛り上げて率先して乾杯している。
ていうか飲兵衛組にはこの挨拶、最高だったろうね。酒を前に長話されても焦れったいだけだろうし、いやそもそも誰からしてもこのタイミングでの前置きって短いほうが良いんだけれども。
というわけでみんなそれぞれのテンションで乾杯しつつも、困惑しているみなさんを代表するかのようなアンジェさん。
それに対して葵さんは、一切動じずにむしろ胸を張っていつもの笑い方で応えた。
「はっはっはー! 校長先生じゃないんですからそんなのいらないでしょうってのが私のポリシーですとも! みなさん待ちきれなくてウズウズしてるのに、なにゆえダラダラ話す必要があるでしょうか!」
「えぇ……?」
「ちなみに葵のこういうところはエリスさんの指導ではなくてむしろ、お祖父さんの光太郎くん譲りの気質だね、ハッハッハー。ヴァールさんやマリー、ロナルドくんに神谷くんも懐かしいんじゃないかい?」
「……む? 言われてみればたしかに、葵の直情ぶりは祖父にも通じるものがあるとは、普段から思うところではあるが」
師匠のエリスさんが滲むような微笑みで弟子兼親友を語る。祖父……噂に聞く早瀬光太郎さんも、こういう竹を割った豪快さがあったみたいだ。
日本は中部地方の名探査者で、早瀬会ってクランを率いていた探査者さんとして有名な方だ。同時に第三次モンスターハザード解決の立役者だったらしく、つまりはこの場にいるベテラン達の何人かとも親交が深い仲だったとのこと。
生前の光太郎さんと付き合いがあったんだろう人達が次々、名指しされてそう言えばそうだな、みたいな反応を返していく。
宴を前に過去を懐かしみながら、亡き友人の孫の姿に重ねながらの懐古ってところか。
「ファファファ! いかにも早瀬の大将そっくりじゃないですかい懐かしい! ああ、ああそうだったこんなだったねえあのオッチャンと来たら、この手の話はいつでもとことん短い質だった!」
「組長のお孫さんかあ! 去年、エリスさんから話は聞いてましたが、たしかに組長の面影があるなー。豪快な性格なんかも早瀬の血ですか」
「私はそこまでかの大探査者とは面識があるわけでもありませんが……ですが葵さんからは、人をまとめる風格のようなものを感じます。印象としてはむしろ三代目の聖女マルティナに近いですね」
「はっはっはー! お祖父ちゃんを知る人がこーんなに! さすがはお祖父ちゃん、人脈チートですね! はっはっはー!」
それぞれ早瀬家と縁のあるモンスターハザードの英雄達のコメント。彼ら彼女らから見ても、葵さんからはたしかな器の大きさを感じ取れるみたいだね。
エリスさんがちょくちょく弟子自慢してるんだけど、葵さんは探査者としての実力はもちろんのこと、こうした場面で人を引っ張っていける求心力みたいなのもあるように思う。
そういうところは中部地方一帯を傘下に収めていた日本最大クランのボスの血を継いでいるってことかな。
豪快に笑う彼女にたしかな大器を感じていると、隣のシャーリヒッタが俺にグラスを向けてきた。乾杯の仕草だ。
「へへへ公平サン、オレらも乾杯しましょう! 乾杯、かんぱーい!」
「ああ、乾杯ー。シャーリヒッタ、お疲れ様」
「あ、良いな良いなー! リーベちゃんもリーベちゃんも、かんぱーい!!」
「ワタシも交えてもらおうか、乾杯。今回もみんな、よくやってくれたよ」
「乾杯ー! にょほほほ待ちに待ってた命の水だー!」
続けてリーベ、ヴァール、ミュトスもグラスを向けてくる。酒はヴァールとミュトス、俺とリーベとシャーリヒッタはジュースだね。
あ、もちろんアイもだ。シャーリヒッタの隣にちょこんと座って、専用の皿に注がれたジュースを舐めてはきゅうきゅう鳴いている。かわいい。
「きゅきゅきゅーう!」
「ん、乾杯……かな? アイも俺の留守中、良い子にしてて偉かったぞ」
「きゅうきゅうー!」
そんなアイも俺に何やら乾杯っぽく前足を向けてきたので、グラスを軽く当てて頭を撫でる。
目を細めて嬉しそうに笑うミニチュア・ドラゴン。かくして宴は始まったのだ。
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