聖剣使いと能力者犯罪捜査官と
迎えに来てくれたヴァール達の案内をうけていざ、鍋料理がメインという居酒屋さんへ。いかにも不慣れというか、都会の空気と喧騒に強張って若干、ギクシャクしている家族を先導するように俺も前のほうを歩く。
一緒に並んで歩くのは神奈川さんとステラだ。今はステラは透明化してるけどたしかにそこにいて、近くを行くリーベやシャーリヒッタ、ミュトスとお喋りしているよ。
「それでどうなんですかー、ステラちゃーん? 神奈川さんと合体しちゃった今のお気持ちはー?」
『そう、ですね……何をおいてもいつも一緒だというのが、一心同体というのが魂から理解できる感覚が最高です。私の千尋がいつもいつでもどこでも傍にいて、そして千尋の私は同じように彼の傍にいる。お互い、誰よりも近くに……うふ、うふふふふ』
こないだ神奈川さんと融合というか、存在を合一化させたばかりの新生精霊知能となったステラ。その所感をリーベが尋ねれば、いかにもうっとりとした様子で語っている。
愛した人とひとつになる感覚なんてのは、さすがに俺にはピンと来ない世界だ。ましてや神奈川さんとステラの場合はいわゆる大人の世界的な物理的合一でない、魂そのものが交わった形になるからね。そんな経験、彼と彼女以外の精霊知能には今のところあり得ないんじゃないかな。
とはいえ声だけでも伝わる極楽を堪能してます感。今、顔が見えてたら神奈川さん以外にはお見せしてはいけない表情になってそうなので透明化してて良かったって他人事ながら思う。
そんなステラに、ほぼ同時期に精霊知能として完成したミュトスが恐れ慄きを露に呻いた。
「どしぇー……これアレですよね先輩方、いわゆるひとつのヤングがデリシャス」
「ンだそりゃ? まあミュトスよう、これもステラの個性ってやつだぜェ。これで他人に害をなしてたらとっくに公平サンが締めてるし、案外危険度は低いぜ」
『と、当然ですっ。私は、今は千尋も立派な精霊知能ですし! 私の千尋に近づく女は死んでも赦さない気持ちでジッと見つめますけどそれ以上はしません!!』
「怖ぁ……」
結局神奈川さんに近寄る女性に対しては割とアレなんじゃねーか! ヤンとまではいかないけどヤバいのは据え置きなんだね……
まあ、シャーリヒッタの言うようにあまり度が過ぎるようなら悪いけど俺のほうからもストップかけるし。
そこについて、偉そうに何様なんだって声もあるかもだけど。システム領域とそこに生きる精霊知能すべてを統べるシステム・コマンドプロンプトとしては半ば義務みたいなものだからね。勘弁してほしい。
勘弁してね、神奈川さん! と、理解を求める心地でステラの片割れさんを見やると、彼は優しい目を愛する人に向けながらもしかし俺を見て申しわけなさげに苦笑いしてきた。
「ステラがすみません、山形さん……どうも俺とこういう形で一緒になれたことを、相当嬉しく思ってくれているみたいで。ここ数日ずっとはしゃいでるんですよ」
「ホントよ公平、ステラってば口を開けば千尋との惚気ばかりだもの、さしもの私とランレイでも恋ってそんなに良いのかしら? なんて語り合っちゃったわよ。オペラじゃあるまいし」
「そ、そうなんですか。それはその……ご迷惑をおかけしちゃってますかね」
「別にそんなこともないわよ。頑張った二人が一緒になれたんだし、だったらあのしょーもないワルどもをしばき上げた値打ちは十分あったわねーってさ。なんか、この仕事のやりがいみたいなのを改めて実感した気分だわ」
ステラに比べても明らかに冷静な態度の神奈川さん。むしろ彼のほうこそステラと一緒になれたことを喜ばしく思っているとは思うけど、表面的にはいつも通りなのは大人の余裕ってやつだろう。
恋人というか、半ば保護者感すら出ている彼に続いてアンジェさんもクスクス笑いながらステラのここ数日についてを語る。なんなら、能力者犯罪捜査官としての在り方とかやり甲斐にさえ言及してきているね。
思うに、アンジェさんもランレイさんも神奈川さんとステラのカップルをずいぶん、応援してくれていた。
大切な友人達だと明言したり、そんな彼と彼女だからこそ瀬川との一騎打ちに勝利すべきだと、あの最終決戦ではやたら背中を押してフォローしたりと、とにかく二人に肩入れしてくれていたんだ。
そんなだから、二人がこうした形で想い遂げた今現在は彼女達にとっても本望だとしてくれているんだろう。そして同時に、犯罪能力者を相手取り人々の安心安全を護る己の使命への自覚をも深めた、と。
こういうとこ、なんだかんだアンジェさんってすごく立派で正義感の強い人だなって尊敬するよ。同じ能力者犯罪捜査官である葵さんやエリスさん、ランレイさんもそうだけど……俺達探査者とはまた異なる形で人々を護り抜く仕事、か。
「ステラも千尋も今後は普通の探査者として活動していくだろうし、その際にはある程度状況をわかってる公平の周辺で動いたほうが良いとは思うけど……なんかあったらすぐに私とランレイに連絡しなさいよ! アンタらは私らの素敵で大切な友人なんだから、どこにいたってすぐに駆けつけるわよ」
「ありがとう、アンジェ。俺達も何かあればすぐに助けに行くから連絡してくれよな? 力足らずかもしれなくても、友達の力になりたいのは同じなんだ」
道を歩きながらコツン、と互いの拳を軽く合わせるアンジェさんと神奈川さん。
まさしく戦友同士らしいそんな仕草は、大人の仕事人同士の所作でもありなんだかとても遠くてカッコいい光景に見えるのだった。
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