望月が受けて逸らして!山形が組んで極める!
──その後も俺と宥さんは、団地を模した構造のダンジョンを順調に突破していった。
出てくるモンスターに対して概ねさきほどと同じ戦法、つまり宥さんが前に出て攻撃を受け、受け流しつつ俺にパスして攻撃を行うというシステムでもって攻略を進めていったんだね。
「ぶるるるるるぁぁぁっ!?」
「受け流し──公平様へと、勢いを殺さず! シールドパリィ・クレセントムーン!」
「その勢いを利用して、と。はい、おみごと!」
「ぶるぁっ!?」
惚れ惚れするような力の受け流しで、敵モンスターであるイノシシ系の突撃猪を俺のほうまでパリィする宥さん。勢いを削ぎつつ持ってくることもできたけど、今回はあえてそのまま流してもらった。
そっちのほうがこの技にはもってこいだからね──突っ込んでくる突撃猪の、巨大な牙を軽く掴んでそこからすべてを操作する。
これは合気道から発展させた技術だ。触れたモノの力の流れをたちどころに掌握して、それらを己のものとして扱う。
まっすぐ貫くような力はまさしくおあつらえ向きだ。牙を起点にやつの突進力を活かしてベクトルに手を加え、自然とコンパスのように円を描く動きに持っていって──終いには遠心力として俺がやつを持ち上げる力とする!
まったく負担なく、腕力を一切使っていないやり方だ。
「ブレン……バスターッ!!」
「ぶるぁっ!? ぶる────」
そして持ち上げた突撃猪を宙吊りにするようにして、天地逆さまにホールド。杭打ちめいた姿勢で脳天というか、鼻先から地面に叩きつける。いわゆるブレンバスターだな。
これについてはさすがに俺自身の腕力とか技術で、つまりはモンスター特効もきっちり乗っている。確殺の威力だ。突撃猪は一撃で粉砕され、光の粒子となって浄化された。
戦闘終了だ。残心もそこそこに宥さんがこちらにやって来る。
今回のバトルでも良いコンビネーションができたことに大きな満足感を覚えつつも俺は彼女とハイタッチした。相変わらず公園って感じの部屋に、高らかに手と手がぶつかる音が響く。
「お疲れ様です公平様! とても素晴らしい技でした、合気道ですよね?」
「基本はそうですね。動画や教本を基盤に、サウダーデさんが以前見せてくださった技術を参考にしての動きです。まあ、敵を倒すためだけの技なので本職の方にはとてもお見せできるものじゃありませんよ」
「だとしてもおみごとでした! ……やっぱり私も欲しいですね、受けるだけでなく、そこから切り返せるだけの火力を持った技が」
今しがたの戦闘について軽く振り返り。こうすることでお互いの良いところ悪いところを少しでも洗い出しできれば、それだけでも探査の意義は大きい。
ただ、今回の探査全般に言えることだけどやはり、反省点というか今後の課題という点で取り上げられるのは宥さんの技、火力についてのお話である。
こういうコンビネーションをメインにした、竹を割ったようにきっちり役割を分けて動くやり方は分かりやすい。でも反面、どちらかが機能しなくなったら途端に瓦解するというリスクも常に孕んでいる。
やろうと思えば盾役もこなせる俺はともかく、現状際立ってタンクに寄っている宥さんにとってはそこがネックだろう。こうなるとやはり、せめて最低限の火力を賄うことは望まれた。
思い悩む、宥さんが顎に手を当ててつぶやく。
「仲間達との話し合いでも、あるいは伝道師香苗からのアドバイスでも概ね同じことを言われています。私のディフェンステクニックは問題ないけど、そこからの反撃手段がそろそろ厳しい、と。実際、D級までならともかくC級になってからは私一人の場合、どんなモンスター相手にも長期戦になる傾向がありまして」
「防御に全振りして攻撃面が不足していると陥りがちなやつですね。安定面ではピカ一でしょうけど、どうしても膠着しがちっていう」
「私の師匠にも相談しまして、今《剣術》の習得条件を満たすための訓練を行っています。そこから技を編み出すことで、どこまで補えるか、ですね……」
「なるほど」
話を聞く限り、宥さんも自身の弱点については自覚的だ。そしてそれを克服しようといろいろ試行錯誤を繰り返している。
お師匠さんからの指導もあるようだし、方向性としては特に問題ないだろう。これまで攻撃面を指導してこなかった意図は不明だけど、まずは強みを伸ばす方面で一芸特化にしようというものならばみごとに成功しているから特に異論もない。
つまりこのへんについて俺からは、あれこれ差出口を挟むべきじゃないってことだね。下手に横槍入れて師匠さんの指導方針と衝突することになったら大変だし。
やはり彼女のためにできることはと言えば、できる限りともに戦闘するなかで気づいたことを述べつつ、少しでも戦闘経験を積むことだろう。今まで通りってことだね。
「攻撃面については今後のことですから俺からはなんとも。ですけど防御面については、今俺が見せた技法も多少取り入れられるかもしれません。受け流しの時に宥さんも使っている技術の、延長みたいなものですし」
「分かります。後方に逃がすのでなく、徐々に方向を切り返すことで事実上、敵を操作する──高等技術です。とても勉強になります!」
「フォローはしますんで、次のバトルからはちょっと取り入れてやってみましょうか。単純な受け流しからの派生として、いずれ会得する攻撃技を想定しての技を編み出すのも良いですよ」
「はい! よろしくお願いします!!」
くり返し言うけど防御面については相当ガチなこの人だ、今さっきの俺の技もすぐに体得できるだろう。
であればそれを伝えることもやぶさかではない。俺が、出しゃばりすぎない程度にできることと言えばこのくらいかな? と思いつつも……俺は宥さんとともに、ダンジョン探査を進めていくのだった。
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