これが探査者・望月宥
戦闘前の話し込みもひとまず置いて、シーソーを使って遊んでいたモンスター達がこちらに気づいたようで、状況は変化を見せ始めた。
邪悪なる思念の影響が解けようが、敵意まで消えたわけじゃないからね。縄張りだろうこの公園に入り込んできた敵の存在に、彼らはすっかり臨戦態勢で近づいてきたのだ。
「さて……どうします? 相手はB級モンスターですし、一応宥さんの現在の階級からすると格上にあたります。ここは俺に任せてもらって、後方からの支援なり応援なりいただくのも手ですけど」
「いえ、ぜひ私も前線にて戦わせてください、公平様。たしかに私はC級になって間もありませんが、こと防御方面に関してはB級モンスター相手にも引けを取らない自信があります!」
「分かりました。俺としても宥さんのガードテクニックに不安なんて覚えたことはありませんし、心強いです。一緒に頑張りましょう」
「はい……! 救世主様の戦いに参列できること、至極光栄に思います!!」
救世主云々のノリのおかしさはいつものことだからさておき、宥さんも格上相手にやる気満々だ。
もちろん俺がいるから万一の事故も怪我もさせないけれど、そもそもこの人は普通に実力ある探査者だ、心配するのも失礼だろう。
俺の知る限り、望月宥という探査者は総合力で言えばC級どころでなくすでにB級探査者と肩を並べられる域に達している。
なんなら自認されているようにガード面に関してはそれ以上だし、以前一緒に探査した時は同行していた香苗さんやエリスさん、葵さんも認めていたほどだからね。
その分、攻撃面が不足しているという弱点はあるものの……一芸特化だって立派な武器だ。
そういう意味で彼女もまた、世間一般にも将来有望な探査者の一人として知られるに足る才媛なのである。
「────!!」
「ぐるるるるる! ぐるるるるるるるる!!」
「来ましたね……連携を意識してやってみましょうか。以前にも試みた通りに」
「私が前に出て攻撃を受け流し、バランスを崩させたところを公平様が討つ……ですね! お任せください! 望月宥、行きます!!」
そんな彼女は手にした大盾を前に構え、走り始めた。こちらに向かってくる敵に、あえて先んじる形での先行。続く俺も彼女と打ち合わせた通りの動きができるよう、視野を広く取りつつ駆け足だ。
俺と宥さんが組んで戦う場合、ひとまずこの陣形がお互いの持ち味を活かせるだろう。というのが以前の探査で編み出したこの形だね。
すなわち宥さんにディフェンス面を全面的におまかせし、代わりにオフェンスは俺がすべて受け持つスタイル。香苗さん曰く一芸特化型探査者を活かす戦法はそう珍しいものでもないらしい。
探査者パーティも構成次第でそれぞれだもんな。こうした陣形とか戦法は、やり方次第で互いの力を何倍にも活かしたり何分の一にだって削いだりしてしまう重要な要素というわけだった。
ノシノシ歩くアイアンベアより先に、ゴールデンアーマーが鋭く踏み込み斬撃を放つ。差し向けられるのは当然、前を行く宥さんだ。
しかして冷静沈着に、彼女は構えた盾を微調整した──よく見えてるな、敵の攻撃。そしてそこから自分の位置取り、盾のどの部分で受けるかを咄嗟に判断できている。
次の行動、受け流しにつなげるために!
「《盾術》、受け流しっ!!」
「────!?」
「っ、新しいスキルか。《盾術》とは!」
まさかのスキル名、そして技名に俺は目を見開き驚きを隠さない。《盾術》。なるほど会得したのか、あのスキルを!
武器関係のスキルと同系統の効果だ……たしかこんな感じだったかな?
スキル
名称 盾術
効果 盾を用いた技術の習熟速度に補正
とまあ、なんで今まで宥さんは持っていなかったんだって感じの、お誂え向きなスキルなんだけど。
これの習熟条件がね、"一定種類のモンスターの攻撃を防具で受け止める"という、地味に面倒臭いものなんだよ。
これが武器術系なら一定回数、武器を振っていれば自ずと手に入るんだけど……
盾の場合はいろんな種類のモンスターと戦い、その攻撃を実際に受け止める必要がある。避けるのも駄目ならスキルを用いての遮断もノーカンなわけだ。
おそらく宥さんの場合、戦闘中の防御技術に《防御結界》を組み込んでいたため、習得条件達成のための内部カウントが溜まりにくかったんじゃないかな。
範囲攻撃とか味方を狙っての攻撃とかの場合、割って入るよりスキルを使ったほうが確実で安全だからね。初期の頃から極めて強力な防御スキルを得ていたことが、逆に《盾術》習得を遅らせていたんだろう。
だけど今、宥さんはたしかに《盾術》を得た。その証拠として放ったのが新しい技、受け流しだ。
そのまんまなのが宥さんらしいのかな? つまりは攻撃を受け止めて、受け流す──それを技と呼べるだけの完成度まで高めたんだろう。
裂帛の叫びが続けて聞こえた。
「受けて、逸らして! そこから体勢を、入れ替えて崩す!!」
「────!?」
「公平様! よろしくお願いいたしますっ!!」
「任されました! 《あまねく命の明日のために》──山形くんソードビーム!!」
ゴールデンアーマーからしてみれば意味不明だろう。斬り掛かったはずが次の瞬間、なぜか体勢を崩して立ち位置をずらされ、かつ宥さんより後ろにいる俺のところまで流されたんだから。
実にスムーズでスマートな体捌きだ……ここまでお膳立てされた以上、こちらもきっちり仕事しないとな。
俺もスキルを発動し、手刀から山形くんビームを剣状にして放つ。袈裟懸けにチョップを受けたゴールデンアーマーは、紙を引き裂くよりもあっけなく、鎧も中の暗黒気体も吹き飛ばされ、光の粒子となって浄化される。
素晴らしく噛み合った感覚。これは宥さん、すごい技術を手にしたなあ!
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