スキルと超能力は違う。違うのだ……!
マンションの壁を引き裂く、なんて地上では決してやらないことをやって見せて、その下にあるデータ領域をお見せする俺ちゃん。
さしもの宥さんもこれには心底驚愕した様子で近づいてきて、まじまじと暗黒領域を見ている。もしもお触りしそうだったらさすがに危ないので止めるけど、聡明な人だから警戒心を持って眺めるに留まってくれてるね。
「それでは、この壁の向こう、今見える暗黒がデータ領域というわけなのですか? 公平様」
「そうなります。俺の目、システム・コマンドプロンプトとしての認識から見ると無数のデータが格納されているのが見えますけど、そうと認識していない宥さんからだとひたすらに暗闇が続いているだけだと思います──危ないので閉じますね、っと」
「!?」
最低限の説明だけしたのでもう良いだろう。俺は引き剥がした壁を、無造作に貼り付けて戻すようにして暗黒を閉じた。空間の裂け目はすぐにピタリと閉じられ、元の、ガワだけマンションな風景になる。
一連の俺の動きもまた、宥さんにとっては驚きの連続みたいだ。まあ、こればっかりは彼女に限らず誰もが同じ反応になると思う。
おっかなびっくり、マンションの壁をさっきみたく引き剥がそうとペタペタ触る。よほど気になったんだろうけど、けれど宥さんのそうした動きは一切ダンジョンの壁に干渉できないでいる。
欠片一つ崩れないのだ。これもダンジョンの仕様というか、特殊な事情が絡む部分だね。壁を軽くコンコンと叩きつつ話す。
「今みたいな芸当は、現世存在でも概念存在でもできる者は現状いません。知識としてだけでなく実感として理解したものでなければ、あそこまでの干渉は不可能です」
「実感としての理解、ですか……?」
「言語化は難しいんですけどね。何と言うやら……ええと、宥さんにとっては知ったとて当然じゃないことなんですけど、今のは俺にとっては当たり前なんです。そういう認識を、心底から常識として備えられているかって感じですかね」
ちょっと俺自身、言葉として語るのは難しいところだけれどつまりはこういう言い方になる。
ダンジョンとデータ領域の関係。仕様。それらは俺にとっては知識であるがそれ以上に至極当然に受け入れている法則だ。
手に持った林檎を手放せば地に落ちる、みたいな。普段から影響を受けているけど、意識しないとそんなところにまで考えがいかないくらいに馴染んでいる概念なわけだね。
できて当然とすら思わない。そりゃそうだろって考えすらないくらいの実感として常識になって初めて、今みたいなこともできるようになるのだ。
「真に理解しないと、入力は同じでも出力は異なる。まずそこを把握してないと、現世存在が魂とか概念の部分に干渉するのは難しいです。いわば入門編的なやつですねー」
「……なるほど。なんとなく分かります、理解することと実感することの違い。知識と経験が異なるように、こればかりは感覚的なものなのですね」
「そうです。ちなみに現世の探査者でもごく一握り、マリーさんやアンジェさんはこのあたりの感覚を朧気ですが掴んでますよ。スキルやステータスに依らない概念存在への干渉──攻撃を成し遂げたんですから」
──そしてこれってのが実のところ、一部の現世存在が成し遂げた偉業の正体というか。
ぶっちゃけ魔天を殺しきったマリーさんやウーロゴスにダメージを与えたアンジェさんのような、概念存在にまで干渉するための第一歩だったりするんだよね。
はっきり言ってこのへん、オペレータのステータスやらスキルやら称号やら、レベルだって無関係だ。完全にその人の特性というか、考え方や物事の捉え方に依ってくる才能的な部分になる。
現世存在による、概念存在への干渉法。本来でいうなら超能力者とか仙人とか、あるいは解脱者とかも含まれるかもしれない。
"この世ならざるもの"を真に理解して受け入れて初めて、人は人ならざるモノへの対抗策を得られるのだ、本来ならば。
現状はオペレータという形で、割と別口に拮抗手段があるわけだけど……自然の形で言うならばそっちが正規ルートと言えるのはたしかだった。
「つ……つまりマリアベールさんやアンジェリーナさんなら、今しがたの公平様のようなことを引き起こせるのですか!?」
「今後、理解が進めばですね。才能というかそっち方面の素質にも依りますから、断言はできませんけど。俺の見立てだとリンちゃんも素質ありですね。時々出してる蒼炎、アレ普通に超能力の類ですし」
「ステータスとまったく無関係のところにある力。モンスターでなく概念存在を視野に入れている、まさしく超能力なのですね。私達には、人類には……ステータスと超能力、二種類の力の可能性が示唆されている……!」
「まあ本来は超能力だけだったんですけど。不可抗力でステータスがこう、ヌルっと世界に入りこんじゃいましたからねえ……」
主に今、俺の頭にいる大バカ野郎のせいでな。
おかげで地味にこの世界のパワーバランスは破茶滅茶だよ。現段階で現世がここまで概念領域に対して同等以上になってるはずじゃなかったんだからな、本当は。
『うっさいよ! 文句があるなら黙って食われとけば良かったんだろ、僕から得たモノをそのまま対抗策に流用しといて文句言うなバーカバーカ!』
そもそもお前がやらかさなけりゃ何も起こらなかったんだぞバーカ!
三界機構もだろうけどお前への文句なんてそれこそ死ぬほどあるんだからなバーカバーカ!
宥さんへの説明の裏で脳内、アルマと罵り合う。人間としてはステータスは得難い宝かもだけど、システム側としてはスケジュールを大幅に狂わされた要因であるのもたしかだし。
大ダンジョン時代そのものと併せ、改めてアルマのやらかしの影響というか被害の甚大さにため息をつきたくなるよ……
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