実録!ダンジョンのヒミツ
「ダンジョンの周辺地形情報を読み取る機能。実のところ、これそのものは本来から想定されているものではあります」
「つまりエラーダンジョンの類ではない、と? たしかに全探組もWSOも、地形情報読み取り済みのダンジョンについては特にエラー指定はしていませんね」
「システム領域の見解としても同様です。私達から見てもエラーだなと判断できる基準を満たしているわけでもありませんから」
マンションを挟んだ道路の上、地形情報を読み取り団地の風景を映し出したダンジョン内を歩きながら宥さんに説明する。
ダンジョン探査において、稀ではあるが遭遇する事象。入口が存在する地点の、周辺を模した内部構造となっている現象について、製作者側からのある種の裏話を今、明かしている最中だ。
メモ帳にさらりさらりとペンを走らせる彼女は、どちらかというと探査者として耳を傾けてくれている。
香苗さんもそうだけど、ことが探査業に絡む話ならばすぐに狂信者から探査者に戻ってくるのがすごいというか、敬意に値するよね。
でもこれ、いわゆる正気に戻った的なアレなのではと思うとやっぱりちょっと怖い。
何につけ信者と探査者をシームレスに行き来する救世の光のやべー人達に改めて想いを馳せつつも、俺はさらに続けて説明した。
「システム領域から見た、意図しない不具合が起きているダンジョン。それはひとえに、オペレータが探査不可能および帰還困難な状況に陥っている状態を指すものと思っておいてください」
「ええと、それは……モンスターが大量発生して飽和状態となり、進入不可能ですとか。あるいは、ダンジョンの入口の階段がなくなっていて、一度入ってしまったら脱出するのに特定の道具か外部からの救助が必要な場合だったりのパターンということですか?」
「その通り。つまり踏破不可能な、探査者にとって詰みの状態を生み出してしまう地形や状態になっているソレらが本来の定義でのエラーと言えます」
「なるほど……!」
さすがは宥さん、察しが良い。探査者として真面目に場数を踏んでいるのとそもそも頭が良い方だから、こちらの言いたいことを即座に理解してくださった。
要はシステム領域としては、踏破してほしいから生成させているダンジョンなのに詰み要素があったりするなんて言語道断なわけだ。
オペレータに嫌がらせしたいどころか、むしろ無事に帰ってきてより強く、よりレベルアップしてどんどん次のダンジョンに向かってほしいのがこちらの本音なのよ。
だってのに探査不可能な状況なんて意図して作るわけがないだろう。ダンジョン生成プログラムが不具合を引き起こして作られる、探査者への配慮を欠いたダンジョン。
それこそがエラーダンジョンってわけだね。
翻って地形情報を読み取ったダンジョンは、別に状況的に探査不可能な状態でないのがほとんどだ。
水辺に発生して浸水しちゃってるタイプのダンジョンであっても、探査者達は普通にダイビングの準備を整えてじっくり時間をかけて探査してるしね。
著しく探査難易度が跳ね上がりはしても、まったく不可能になるわけでもない以上、エラー扱いするには基準を満たしていないのだ。
これについては全探組やらWSOも同じ見解のようで何よりだよ。
「で、その地形情報なんですけど……豆知識なんですが、情報の読み取り方にも段階がありまして。このダンジョンなんかは一番浅い読み方をしていますね」
「浅い、読み方……」
「さっき俺がビームで崩したマンション。中身は黒い靄だったでしょう? つまりこのダンジョンはガワだけ読み取って壁と床の部分に見かけを貼り付けただけの、テクスチャだけ読み取った段階なんです。ほら」
「…………!?」
言いながらまた、マンションに擬態した壁に手をかけ強引に引きちぎるように剥がす。やはり見えるのはダンジョンの壁の向こう側、何もない漆黒の靄がかった暗黒部分。
息を呑む宥さん。きっと、この人が世界で最初に"ダンジョンの向こう側"を見た人だろうさ。現世の存在ではダンジョン内の壁や床を崩壊させられても、ダンジョンと外を隔てるそれらを壊すことはできないからね。
そう、今見えているこの暗黒こそはダンジョンの向こう側、つまりは外側だ。
現世からだと一見、地下にできているように思えるダンジョンだが実のところ、内部そのものは別の次元領域に展開されている。
「現世領域、概念領域、システム領域──このうち概念領域とシステム領域の間には、途方もない天文学的な数の次元層が挟まれています。ありとあらゆるデータが格納されている、データ領域が」
「データ、領域……!? まさか、ダンジョンの本当の位置とはそこにあるというのですか!? 我々は今、データ領域の中にいると!?」
「そうなります。まあ、一々本当に現世の地下に穴ぼこ作ってたら毎秒崩落が起きてますから。ダンジョンの出入り口は言い換えると、現世とデータ領域とを繋げているワームホールなんですよー」
あっけらかんと言えば、宥さんは今度こそ絶句してしまった。メモを取る手も止まり、ぽかんと愛らしい目と口を丸くして俺を見ている。
まあ、つまりはそういうことだ。ダンジョンの本体はデータ領域の特定の次元層の中で生成されており、探査者はそこに脚を踏み入れる度に知らずしてデータ領域内に進入しているわけだね。
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