コマンドプロンプトのパーフェクトダンジョン教室
電車に乗って10分足らずで目的地の駅に到着。
土曜の午前ってんでそれなりに電車内にも駅構内にも人はいたものの、混雑ってほどでもない塩梅の賑やかさを俺と宥さんは移動した。
その間にもすれ違う人や周囲の人からは"あっ、救世主の人! "的な感じでアレコレ噂されたりしたんだけれど、いやはやなんか知らんが変な方向で有名になったもんだね俺も。
変な感慨があるというか、半年前までこんなことになるとは思ってなかったので、人生について多少は考えちゃうよね、どうしても。
「──とはいえ。ダンジョンにたどり着いたからにはここから先はお仕事お仕事。宥さん、ここで間違いないですよね?」
「はい! たしかに住宅団地の前の車道、その真中にあるダンジョンです。本当に道を一本、封鎖する勢いですね」
「迷惑な話ですね……」
考えていても仕方ないことよりは目の前の使命だ。ってなわけで到着した目的地、団地前の道路、真ん中。
ポッカリと、マンホールよりいくらか大きい穴が空いていて、周辺にはいつも通りカラーコーンとカラーバーが囲み人の立ち入りを防ぐ措置がされている。
これが本来ならば車の通る、車道の中央部にデカデカと置かれてるんだから堪らない。事実上道を一本、まるまる封鎖してるようなもんだよこれ。
迂回路は当然あるものの、そもそも道を塞ぐしかない時点で迷惑極まりないよね。そこまで交通量の多そうな道でないからと、放置して置くわけにはいかない。
加えてやはり、このダンジョンの中にいるモンスター達……つまり異世界の魂達を浄化するためにも。
俺は今日、このタイミングでこのダンジョンを探査し、彼らもここの土地に住まう方々の暮らしも救わなければならないのだ。
そう思えば自然と力が漲ってきた。改めて宥さんとうなずき、俺達はダンジョンへと入っていった。
「中は……地形情報を読み込んでるな。思いっきり外と光景が変わらない」
俺から先に入る。全身がすっぽり収まる程度のところに足場があり、そこからさらに地下へと階段がある。
その時点で行く先に光源があることから、俺はこのダンジョンが周辺の情報を読み取っていることに気付いた。
普通はランタンやら電灯やらを常備しておかないといけないくらいには薄暗いからね。
それが必要ないくらいに視界を確保できている時点で、このダンジョンは常とは違う状態なのだという判断は容易にできた。
後に続いてきた宥さんも、そこはもちろん分かっていて警戒を強めた。
周辺情報を読み取っているダンジョンは、変なギミックを備えているパターンもあるからね。たとえば遊園地だったらメリーゴーランドにモンスターが乗って襲いかかってくるとか、そういうユニークな光景も目撃されたことがあるとか。
そのへんをしっかり押さえつつ慎重に階段を降りれば、いよいよ俺達は身構えた。
俺にとっては思っていた通りの、宥さんにとってはそうでもなかった光景が広がっていたからだ。
「こ、これは。ダンジョンの中なのに、マンションが左右に……!」
「左右の壁をマンションに見立て、床を道路に見立てて構成されてますね。天井は空色で閉塞感がない……通路でこれならさて、部屋はどんなもんだか」
先ほど、地上で見た風景とそう変わらない光景。車が通れるくらいの道路を挟んだ左右には、マンションが聳え立ちはるか通路の向こうまで連なっている。
ご丁寧に上を見れば果てない蒼穹、のような天井でなんだかダンジョンにいる気がしない。
ずいぶん解放感に溢れているけど、とはいえやはりダンジョンだ。人気もない町並みなんて、どこか薄寒い違和感が強い。
ためしにマンション……っぽい壁に山形くんビームを放つ。一点というより一面、一区画丸ごと削るようなごんぶとビームだ。
「公平様!? モンスターでしょうか!」
「あ、いえ。いきなりごめんなさい」
いきなりのことに即座に盾を構える宥さん。良い反応だ、前の探査より格段に強くなってるな。
ビームを放った跡、削れたマンションを見る。結構破壊されていて中身、マンションの部屋の中身とかが覗けてもおかしくないものを、崩れた壁からは異様な黒い靄が見えている。
なるほど、なるほど。
俺は宥さんに向き直り、微笑みとともに答えた。
「せっかくですからちょっと、宥さんにダンジョンの仕様をいくつか教えとこうかなと思います。地形情報読み取りの原則、ルール……知っといて損はないはずですよ」
「えっ……!?」
でも今回はバトルじゃないんです誤解させて申しわけないと謝罪しつつも告げるのは、そもそもダンジョンというものそのもののルールについてだ。
宥さんもすっかりC級探査者だけど、この人の実力と潜在的な才能や素質からすると間違いなくA級にまでいけるだろう。
S級になれるかと問われると正直その、極端な一芸でも身に着けないとキツいかな? というのが忌憚ない意見ではあるものの。それでも探査者界隈のメインストリームである層に到達し、かつある程度上位に食い込んでいけるだろうポテンシャルはあると俺は見ている。
そんな彼女だから、今のうちにこのくらいは伝えておきたいと思ったのだ。どんな形であれ知識はあるに越したことはない、ましてや毎度毎回状況の変わるダンジョン探査という仕事であるならば。
地形情報読み取りというある種のルールを、その仕様を把握しておくのは今後必ず活きてくるだろう。
「っ!? き、救世主様御自らによる世界の真実の一端の告示!! まさしく天啓ですこれは、メモらねばなりません!!」
「えぇ……?」
なんだけど、そんな想いはそこそこに使徒ムーヴキメだした宥さんに困惑。
いやまあ、何かしらの形でこのくらいの情報は世間一般も周知していいとは思うんだけど。救世の光の神輿が一次ソースってのはちょっと、胡散臭がられませんかねそれ!?
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