師匠と弟子と─期待した者された者─
アンジェさんチームとのお話もそこそこのところで、俺は次、近くにいたエリスさんと葵さん、神谷さん、そしてシャルロットさんの下に向かうことにした。
今回の件がダンジョン聖教関係ってこともあり、葵さんを除けば歴代聖女である御三方もまた、紛れもないキーパーソンだったのだ。挨拶くらいはしたいよね。
「公平! また今度探査行くわよ、ニュー千尋の力も改めて確認したいしね!」
「わ、わわ私とアンジェちゃん、しばらくはバカンスで日本に滞在し、してるから……! な、なんならいつでも遊ぼ、ね……なんてあわわ誘っちゃった! 人間を遊びに誘っちゃった!!」
「普段は人間じゃない何かを遊びに誘ってたりするのか、ランレイ? ……俺からも頼むよ、山形さん。ステラとの新しい力について、他ならぬあなたからいろいろ教えてほしいんだ」
『私の千尋にぜひともご指導ご鞭撻お願いします、山形様!』
……などと、アンジェさん達とダンジョン探査の予定なんかを取り付けながらもその場を離れる。
能力者犯罪捜査官として一仕事を終えた今、しばらく休息期間を取るのため日本に居続けるんだね。神奈川さんとステラについては今回限りの協力者扱いだろうからまた、別に進路があるんだろうけど、もう少しの間はアンジェさんチームという括りで動くみたいだ。
そこはかとなくみなさんとの探査を楽しみにしつつ、俺はエリスさん達のところへと向かう。
いつも通りに明るい葵さんがちょうど、無表情でクールなシャルロットさんを目一杯抱きしめてかわいがっているところに出くわすタイミングだった。
「お疲れ様です、みなさんー。ええと、仲がよろしいようで何より?」
「!! ……お疲れ様です、山形さん。これは、早瀬さんがいきなり抱きついてきただけです。特に親しい仲になったわけではありませんので悪しからず」
「はっはっはー! 古今東西仲良くなるにはこれが一番! どんな国でもボディランゲージは最強なんですよーはっはっはー!」
「ハッハッハー、葵はハグ大好きなんだよねー。もちろん相手は選んでいるけど、いけそうなら割とカジュアルにいくから距離感バグりそうだよねー」
「えぇ……?」
そう言えばこの人、初対面に近い俺にも抱きついてきたりするくらいにスキンシップが多い人だったな……と、葵さんを見て思い返す。
折に触れてエリスさんを抱きしめてたりするのも見かけるしね。陽キャ特有の距離感というか、陰キャ特効みたいな性格だよなあとしみじみ思う。
エリスさんもそんな弟子に苦笑いしつつも、シャルロットさんともども見る目は優しい。妹の曾孫と愛弟子が仲睦まじいんだから、そりゃ温かい眼差しにもなるよね。
同様に柔らかく見守っているのが神谷さんなんだけど、彼女はしかし、俺に向けては申しわけなさげに、ひどく沈んだ表情を見せてきた。
「山形さん。この度は、あなたを始め多くの方に対して弟子のアレクサンドラが大変なことをしでかしてしまいました。改めて、申しわけありませんでした」
「神谷さん……あなたが謝ることじゃないですよ。アレクサンドラはあなたの弟子かもしれませんけど、もうとっくに独立した一人の人間、聖女だったんです。どうか気に病まないでください」
「……先程、初代様にも葵さんにも、果てはシャルロット様にまで同じことを言っていただきました。ですが、だからこそ余計に心苦しいのです」
苦しげに心情を吐露する神谷さんは、年齢相応に弱々しく見えてその姿が俺には辛い。
アレクサンドラの捕縛の際、師匠として彼女とともに罪を償うことで彼女に寄り添おうと決意したこの人の優しさ、誠実さは偉大だ。
でも、そのことでこの人が消耗するようなことは、それはそれであってならないことだと思う。
エリスさんや葵さん、シャルロットさんもそれが心配で不安なんだろう。静かに俺とのやり取り見守る中、神谷さんは続けて、内心に抱く忸怩たる思いを打ち明けた。
「アレクサンドラの本性に気づけず、道を糺すこともできずにただ、みなさまに止めていただくしかなかった我が身の不明を恥じるばかりです……あの子の闇に気づいてあげていれば。そしてその心を、正しい方向に導いてあげていれば。こんなことにはならなかったのに」
「それは……なんとも、言いかねます。アレクサンドラをああさせたのは、本人の意志はもちろん、亡くなった親御さんの意思も強かったようですし。きっと神谷さんと出会う前からもうすでに呪われていただろう彼女は、誰にも止められなかった可能性だってあります」
「それでもです。あの子の優秀さや才能と、表向きのひたむきさや健気さに騙されて抱えたものを知ろうともしなかった。寄り添うことを怠った。私も結局、アレクサンドラに勝手な希望を託した者と同類なのです」
師匠をはじめ、周囲のありとあらゆる人達を騙し続けた。そしてシャルロットさんに凄惨な仕打ちをし、己の野望と夢のためにヒトであることさえやめようとした。
アレクサンドラの所業は徹頭徹尾、許されることではない。法の裁きを受け、その結果受ける罰がどれだけ重いものだとしても必ず償わなければならないだろう。
だけど……寂しい、さみしいと。死にたくない、生き続けたいと崩壊する自我の中で叫んだあの姿。
あれもまた、アレクサンドラの本当の姿だったんじゃないかと思うと俺は、赦せない思いと同じくらい、哀しい人だと想いを馳せずにはいられない。たとえその行為が、彼女にとって無礼で失礼なものだとしてもだ。
誰も、何も、どこも、彼女にはなかったんだ。そして神谷さんは、師匠として自分こそがそうなるべきだったと悔いている。
聖女として育てるだけでなく、人として寄り添うべきだったんだと。そう、後悔しているんだね。
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