扱いづらきは歳の離れたOBOG
そして翌日、朝。
俺と香苗さんは、わざわざホテルにまで迎えに来たリムジンに乗って、WSO日本支部に到着していた。
いかにも大使館って感じの、モダンな感じの建物だ。国会議事堂とかにも近しく感じるのは、ここもいわゆるお役所だから、だろうか。
「山形公平様、御堂香苗様。お待ちしておりました」
「烏丸さん」
「昨日ぶり、です」
「フェイリンさんも」
施設前、車に降りてすぐに、WSO日本支部局長補の烏丸さんと、昨日に打ち合わせをして、それから帰っていったリンちゃんが迎え入れてくれた。
見知った顔に出迎えられるのって、結構安心するな……あるいはそれすら見越しての人選なんだろうな。さすがは国際組織、伊達ではない。
案内されて、件の会談を行う大会議室へ向かう。廊下一つとっても広々した通路。何だか場違い感がすごくて、どことなく緊張する。
「大丈夫です、公平くん。どんな時でも私がいます」
「香苗さん」
「あなたは一人ではありません。あなたの味方は、あなたが思う以上に多いんですよ」
香苗さんが、そんな俺を気遣って言ってくれた。いやまあ、着々と増え始めている信者を加味すれば、そりゃあね……
だけど、たしかに勇気を分けてもらえた気がする。この人の言うことなら、いつだって信じられる。
俺は、強く頷いて前に進んだ。
「こちらになります」
烏丸さんが促した先、閉められたドア。大会議室だ。
ここで、これから。すべてを知らされるのだろう。
胸の鼓動が一つ、大きく高鳴った。
なぜ俺だったのか、何があったのか。倒すべきは──守るべきは、何なのか。
成すべきことは何なのか。
それが今から、判明するのだ。
「……行きましょう。香苗さん」
「はい……!」
ドアが開かれる。意を決して、俺たちは中へと入った。
清潔感ある部屋、大きなテーブルとソファ。誰か座っている。
若い女性が一人、それに、スーツ服の黒人男性?
「ようこそおいで下さいました、新たな時代のアドミニストレータ」
『……………………うそ』
金に輝く、波がかった髪の美しい女。顔立ちも麗しく、楚々として笑いかけてくる。
それに、リーベが反応した。呆然とした声音で、現実を受け入れられない感じている。
ど、どうしたんだリーベ。この人、何かあるのか?
『ソ、フィア……!? 馬鹿な、何で、そんな』
「急な申し出にも関わらずお越しいただき、感謝に堪えません。私はソフィア。ソフィア・チェーホワ。WSOの統括理事を務めさせていただいております」
『ぁ、あ……間違いない、あの、あのソフィアだ。150年前と、変わってない……っ!? なんで、これは、こんなことが』
脳内にて、混乱しきったリーベの声が響き巡る。その間にも、統括理事さん──ソフィアさんの自己紹介は行われる。
いや、リーベ落ち着け! それができないなら悪いけど黙っててくれ! 錯乱して俺の脳内でまで暴れ倒すな!
『あ、く……っ、すい、ません。我を、忘れました』
……何があったか知らんが、頼むから落ち着いてくれ。
『はい、ごめんなさい……っ、システムさんっ、いいやワールドプロセッサ! これはどういうことですかっ!!』
俺の言葉で少しは、我を取り戻してくれたみたいなリーベちゃん。
だがどうしたことか、今度はシステムさんにマジギレして脳内からフェードアウトしてしまった。ワールドプロセッサ……やはりシステムさんのことだったか。
それが意味するところはさておいて、ようやく静かになった。落ち着いて、ソフィアさんに向き直る。
「はじめまして。山形公平です……現在のアドミニストレータでもあります」
「ふふ、精霊知能様は落ち着いたみたいですね? それとも、激怒してワールドプロセッサ様に抗議しに行かれたのかしら? どちらにせよ、お疲れさまです」
「……ご存知、なんですね」
「聞こえはしませんけど、何となく想像は付きます。うふふ、可愛らしいですよね、あの子たち」
ニコニコと、たおやかな笑みを浮かべて。軽々とこちらの事情を見抜いてくるソフィアさん。
俺とリーベのやり取りは聞こえていないとのことだが、それはそれで、あまりに精霊知能に詳しすぎる。平然とワールドプロセッサの単語も出してきたあたり、明らかにこの人は、俺より事態に精通している。
それでいて微笑むばかりなんだから、侮るわけにはいかないぞ、この人。そもそも異様に若すぎる。
150年前とかリーベが言ってたのもあり、必然的におかしな話になってきているな。
自然と警戒する俺を見て、怪訝な顔つきの香苗さん。烏丸さんもリンちゃんも、何ならソフィアさんの隣の男性も、所在なさげにキョロキョロしている。
空気を悪くして申し訳なさはあるが、それを差し引いてもソフィアさんの言動の怪しさは極まっている。俺は、単刀直入に問うた。
「……あなたは何者です」
「不快な思いをさせてしまったならすみません。あなたという、素晴らしい方が私の後継かと思うと、もう夢みたいで。ああ、報われたなあ、と。150年もの間、さまよい続けた甲斐はあったなあ、と。そう思うんですよね」
「……後、継? まさか、あなたは」
決して聞き逃がせない言葉。私の後継──つまりは俺の、前任。
意味するところは一つ。ソフィア・チェーホワは、ニコリと笑って告げた。
「はい。私こそかつて、150年もの昔に邪悪なる思念と戦った者──あなたの一つ前の、アドミニストレータです」
この話を投稿した時点で
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総合月間17位、四半期14位
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