帰ろう、現世へ
悪魔セーレもなんかオーディンが引き取っていったし、アレクサンドラは気絶してるし瀬川も倒れたしで完全に一段落ついた。
急に現れてすぐに去っていった北欧大神のインパクトに一同、呆気にとられる中を神奈川さんが……《星明りの聖剣》を解除した、新生した精霊知能・神奈川千尋/ステラが歩いてくる。
羽織ったコートをたなびかせた耽美ビジュアル系の兄ちゃん、完全に少女漫画か厨二病みたいなやつだこれ!
とまあ、彼の見た目のスタイリッシュさはともかくとして。結果的に今回の事件、始まりと終わりを受け持ってくれた形になるこの人こそがMVP筆頭だろう。
ステラと出会い、聖剣の担い手としてサークルと単独で戦い抜いてきた彼の功績は計り知れない。
しまいにはステラと融合し、システム領域側に移行したことまで含めて……俺は彼と向かい合い、深く頭を下げて感謝を示した。
「神奈川千尋さん。あなたのこれまでの活躍と貢献、そして今しがたの行動とそこに至る決断に対して、心から敬意を払い、そして感謝します。本当にありがとうございました」
「山形さん……それはこちらのセリフです。ステラと一つになって、記憶や知識さえ共有する中で実感として理解しました」
神奈川さんもまた、俺の両手を握り祈るように頭を下げる。ステラとの融合はやはりというべきか、彼に対して知識面や記憶面でも影響しているんだな。
今の彼は神奈川千尋でありステラでもある。人格や個人としてはそれぞれもちろん別個なんだけど、存在としてはまったく同じだからね。
なんていうか、そう……古いゲームの喩えになるんだけど。
序盤にしか出てこないキャラクターデータを、それ以降に出てくるキャラに流用させて容量のスマート化を図る、みたいな話がある。
まさしく二人の状態はそれに近しい状態なんだ。
表面上のデータとしては精霊知能ステラなんだけど、そこに込められている内容は神奈川さんとステラの二人で共有している状態なわけだね。
ゆえにステラの記憶や知識も当然のごとく神奈川さんに流れてきているんだ。過去400年の孤独や、システム領域についてのアレコレもみんな。
そして知ったんだろう、俺、いや私についてのことも。
邪悪なる思念との戦い、アドミニストレータ計画、そして最終スキル《攻略! 大ダンジョン時代》を発動させての今があることまで。
彼は、人聞きでなく実感として理解したんだ。
「あなたのこれまでの戦いと、その末に今この時があること。途方もないスケールで、それでもあなた達はただひたすらに生命を護るため戦ってくれていたんだ。俺のほうこそ、心の底から尊敬します」
「神奈川さん……」
「そんなあなたに、ステラと一緒になることを許してもらえた。これ以上なく誇らしいことです。あなたに寄せてもらえた期待、信頼を、絶対に裏切らないよう精進します。俺はステラと、幸せに生きていきます」
『私も誓います、山形様。これからは二人で一つの精霊知能として、世界のために行動し力を尽くします』
強く、明確に誓う二人。神奈川さんとその後ろ、精神体として寄り添うステラの姿が、俺にはとてもまぶしいものに見える。
まさに紆余曲折を経てこの形に落ち着いた二人だけれど、まだまだ道は始まったばかりだ。
神奈川さんは人間としてでなく精霊知能として活動することになるし、ステラも受肉すればそんな彼とともに暫くの間、現世に留まることになるだろう。
俺達とも永い縁になる。新しい友人であり仲間の握ってくれた手を、俺もしっかりと握り返して笑みを返す。
さあ、凱旋と行こうか!
爽やかな心地さえ抱きながら、俺はみんなに呼びかけた。
「帰りましょう! ここにいるみなさんと、迷宮内に残っているセーデルグレンさん達。そして倒れている構成員まで含め全員、採石場まで転移します」
「助かる。しかしこの迷宮、概念領域にあるということは権能で組まれているのかと思ったがそうでもないのか? 概念存在が周囲にいない今、たちまち消え果ててもおかしくないものを」
今、この迷宮内にいるすべての人間や生命は把握済みだ。
概念領域たるこの場所に本来、いるべきでないすべての者を対象にワームホールを開けば、たちまち全員揃っての帰還が叶うだろう。
俺の提案にうなずくヴァールだけれど、迷宮の床や壁を見回して不思議に思ったのか首を傾げた。
たしかにここ、誰か概念存在なりプレーローマ・アンドヴァリなりの権能で造ってるんじゃないかと思ったんだけど……にしてはそうした権能持ちの影響が一切なくなった今も、崩落なり消滅なりといった変化は起きていないんだよね。
おそらくは、ここが概念領域だけど現世の者も現世にいるまま訪れられる場所にあることが関係しているんだろう。同じ考えに至ったリーベが、彼女に応える。
「現世との狭間部分、ギリギリ物質世界の法則も適用できるところにありますからねー。もしかしたら現世から物質を引き入れて、みんなでえっちらおっちら作ったのかもしれませんよー、ここー」
「それだけ聞くと楽しそうですねえ。秘密基地を作る男の子のロマンのような感じで」
「テロ屋の秘密基地でなければロマンも感じられたんでしょうけれどねー、はっはっはー!」
概念領域と現世領域の狭間。うっかり現世から迷い込む人もいなくもないようなほどに境目の部分。
であるからこそサークル構成員なりダンジョン聖教過激派の者達は現世から資材を持ち込み、こうした迷宮を手ずから作り上げたのかもしれない。
ベナウィさんが呆れ混じりにジョークを飛ばせば、葵さんがきっぱり言い切って笑い声をあげた。
本当にそうだね……犯罪行為に使うわけでもなけりゃ、場所はともかく行動自体は遊び心の発露だと言えたのかもしれないのに。
つくづく、やって良いことと悪いことの区別がつけられなくなっていた連中だったんだな。
そんな哀れみをも覚えながら、俺はワームホールを開いた。全員での帰還、後に残される迷宮については後日、ヴァール主導での捜査が行われるだろう。
悪の秘密基地を、外観のみをそのままに俺達は現世へと去っていった。
次回、第三部最終話!
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「大ダンジョン時代クロニクル」第一次モンスターハザード編完結!
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第二次モンスターハザード編はお盆頃にスタート予定です!
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攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
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一巻
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二巻
amzn.asia/d/aL6qh6P
コミック
一巻
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二巻
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