山形は許そう。だが大神が赦すかな!?
勝負は決した。新生神奈川さんが、ステラの力をも束ねて放った聖剣による新必殺……その名もステラ・オブ・ヘヴンでもって、瀬川にトドメの一撃を見舞ったんだ。
愛する人の名を冠した技。そこに込められた想いごと、今の神奈川さんに出せるすべてをやつに叩きつけた感じがあるね。
「サークル幹部、瀬川聡太……! てめぇを逮捕する!!」
「ば、馬鹿っ……な……!! ぼ、僕が……僕のバリアが、愛が……!」
『初めから、どこにもそんなものはなかったよ瀬川聡太。あなたにあったのは借り物の理想と、現象としての権能だけ。悪魔はあなたを、群体たる人間としては愛していても個体としては愛してなかった』
「…………せー、れ、さ」
自分でももう、分かっているんだろうに。
それでもありもしないセーレとの愛にすがりながら死なない程度にでも血を流して意識を失う、瀬川を哀れに思う。
すべての決着を見届けた今、迷宮そのものにかけていた権能封印の因果操作を解除しながらも俺は、倒れ伏す彼を見た。
サークル幹部として、藤近の理想を借りて暴れ倒しただけの男。悪魔憑きとして、セーレの愛にかこつけて好き放題しただけの輩……
その末路としては妥当と言って良いんだけれど、どうにもな。
『敗れましたか、瀬川聡太。最後の最後に失望させられはしましたが、そこまではいい線いってましたね。終わり良ければすべて良し、ならば終わり悪ければすべて悪いとすべきなのかもしれませんが……いえ。まあ、過程は素晴らしいものだったと評価しましょう。契約者に優しい悪魔ですので、私は』
「…………用は済んだろ、セーレ。もう還っていいぞ、本体の元へ」
俺の背後に佇むセーレが、なんとも呆気ないとでも言いたげな声色でつぶやいた。瀬川を、自分基準で採点する姿はまさしく悪魔だな。
正直、あそこまで瀬川を焚き付けておいて気に入らなくなったら即座に梯子を外す、その姿は不快だった。
とはいえこれが敵ならともかく、ここに至るまで敵対行動は遭遇時にしか取っていなかったからなあ、こいつ。
なんなら諸々情報提供までしてくれたから、総合的に見るとこちら側に利益をもたらしたほどでもある。腹立たしい気持ちはあれど、筋合いを通すならば決して危害を加えるべきじゃない相手ではある。
ゆえに、端的に本体への帰還を促す。
こいつがこの場にいて、他の仲間達も不愉快がってるからね。特にシャルロットさんやエリスさんは、ここまで人を玩具にした存在に対して憤りを隠せていない。
ここまで来てこれ以上の揉めごとは、せめて後日にしてほしいところだ。だからこその、これは警告だった。
それを受けてセーレは素直にうなずく。
瀬川へと見せた悪魔の顔とは裏腹の、契約者に対して誠実な側面をこちらには浮かべているのだ。
『そうですね、そうしますとも。ですが我が契約者、山形公平。ここに至っての私の言動にずいぶん苛つかされた御様子ですし、最後にこのアバター、壊していきますか? 多少溜飲を下げる機会も用意してから逝くのが、私と契約してくれた者への気遣いというものですから』
「そういうのいいから還れよもう……苛ついたくらいでするわけないだろ、そんな暴力」
なんなら下らないアフターケアまで提案してくる始末。腹立ち紛れに八つ当たりするような俺だと思ってんのかこいつ、怖ぁ……
理性的な山形くんを標榜する俺ちゃんとしては、心底からの善意でふざけたことを提案するセーレにもはや辟易するよ。
人の心とか、ないよなーこいつ。悪魔だもんなーコイツ。
それが悪魔としてのロールであり本質であることを加味して理屈の上では理解するけど、気持ちの上ではどうもモヤッとするものは禁じ得ないんだよなあ。
とにかくこの場からさっさと消えてくれ、頼むから。そう願った矢先だ。
「────それではその悪魔、我々北欧神話圏のほうで受け持たせてもらおうか。我が盟友、山形公平よ」
不意に、概念存在の気配を察知して俺は振り向いた。
転移か。因果操作が解除された途端なあたり、ずいぶん長いこと外側から様子見していたようだな。それにこの気配は、覚えがある。
現れるモノ。途端にソレを中心にすさまじい圧が放たれ、俺と精霊知能達はともかく仲間達はみんな後ずさり、即座に警戒した。
なるほど。そりゃみんなも驚くよな、まさかの最高神が本体でのお出ましだもの。
同時にセーレのアバターの周囲に空間転移の権能が発動し、その姿が掻き消える。確保したか、動きの速い。
現れたそのモノを見る。白髪の生えた老人、片目には眼帯をつけており、いかにも最高神らしい威厳を備えているな。
その老人は、ニヤリと笑って名乗りをあげた。
「北欧大神、オーディンである────かの悪魔セーレは我が預かりにて取り調べを行おう。我が盟友を不快にさせた罪も併せ、聞きたいことは山ほどあるのでな」
「…………まさか、ここに来て直接出張ってくるとは思わなかった。アバターですらないんだな、あなたは」
「概念領域であるがゆえに。現世ならばいざ知らず、ここでならばこちらのほうが自然であるからな。時と場合に応じての措置だよ、くくくく」
彼、すなわち北欧神話圏は大神オーディン。
現世においては織田としてアバターで過ごす最高神が、ここでまさかの介入を果たしていた。
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