星が導く旅路の果てに、聖剣は真の担い手を得た
「ええと……詳しくは省くのですが、ご覧の通りに神奈川さんとステラは融合しました。存在そのものを合一化させて、神奈川さんをステラの立ち位置に据えさせたんです」
俺の言葉に、精霊知能以外の仲間達が分かってるような分かってないような曖昧な表情を浮かべた。無理もない。
ただでさえこのへんはシステム領域のこと、つまりはこの世界そのものの仕組み、仕様の話が関わってくる。突っ込んだことを説明するにもあまりにややこしいから、端的に説明するしかないのだ。
ましてや今ここには真実についてまったく知識のない愛知さんとシャルロットさんがいる。
個人的にはもう、彼女達にも説明すべきなのかなーと思わなくもないんだけれど……結局それにしたって詳しいところを話すには、今はまったく時間が足りない。
精々がこの戦いが終わり、すべてに決着がついたあと。ゆっくりと話をする段階で打ち明けるかなってタイミングなんだよね。
ゆえにざっくりとした説明に留める。まあ詳しいところはそれこそ後ほど、神奈川さんやステラから直接聞けばいいのもあるしね。
「今の彼は神奈川千尋であり、同時にステラでもある状態でこの世界に認識されています。ステラの存在そのものに組み込まれて、彼もまた同一の存在になったんですよ」
「それは、つまり……人間ではなくなった、と? ステラ曰くの"精霊知能"とやらに成り果てた、と。なるほど」
「概念存在、なのか? 精霊の一種だろうか……しかしそれでは、状態としてはアレクサンドラがウーロゴスを取り込んだのと同じなのではないのか山形さん。それは、あまりにリスキーなように思うけど」
案外素直に理解を示したシャルロットさん。対して愛知さんのほうは、いかにも怪しげなものを見る目で神奈川さん/ステラを見ている。敵意はもちろんないけどね、どうにも信じられないって顔だ。
この人の場合は概念存在についての知識と理解が深いからなー、誤解や誤認するのも当然か。
彼女の疑問と不安に、端的に答えを出すことにする。
プレーローマ・アンドヴァリと今の神奈川さん、至った状態としては似通うけれど決定的に異なるところがいくつかある。
それはすなわちアレクサンドラが蔑ろにし、無視したもの。そして神奈川さんとステラが互いに大事にし、決して目を逸らさなかったものだ。
「あの二人に関しては問題ありません。いくつか理由はありますが、一番大きいところを言えばアレクサンドラと違い、彼と彼女は決定的な条件を満たしていますからね」
「と、言うと?」
「"互いに、同意の元での行いであること"。元来自分のものでないモノを相互にやり取りする以上、無理矢理奪ったり押し付けたり勝手なことをしたら、どうあれそんなものは絶対に上手くいきませんよ」
「…………ああ!」
至極当たり前の話だ。なんであれ他者の持つ何かに干渉する以上、無許可で勝手になんて通るはずがない。
アレクサンドラは、ひいては委員会はそれを無視した。ミュトスのことを知らないにしても切り離されていた神の権能を、本来の持ち主がいることを一つも気にせず勝手に私物化して己のもののようにして取り込んだんだ。
現世存在相手なら踏み倒すなり梯子を外されるなり、いろいろあるだろう──言ってそれは決してよくないことだ──けども、概念存在相手にそれは通じない。
存在の根幹部分から"相互契約"によって権能が成り立っている連中の持つような力だからな。一方的な思惑だけで手を出したら必ず痛い目を見る、それが概念領域なんだよ。
そんなものを勝手に利用して挙げ句取り込んだら、そりゃ好き勝手されたほうがキレて抵抗するに決まってる。
今回の例で言えばまさしくウーロゴスの暴走がそれだね。アレそのものに意思なんてないから拒絶反応ってところだろうけど、アレクサンドラは見事に因果応報を受けたというわけだった。
「愛知さん自身の召喚スキルだってそうですし、概念存在にとっての契約や誓いもそう。他のいろんなこと、自分と誰かの間に交わす何もかもについて同じことが言えます」
「自分の意志だけで、他者に対して身勝手に振る舞うことはできない……ということだな。それでは、今しがた合体? したあの二人は、間違いなく自分達の意思でそれをしたから……」
「少なくともどちらかが反発してバランスが崩れるようなことにはならない、と。そういうことですね山形さん」
「はい。神奈川さんとステラはそれぞれ、お互いのことを想いあって今、ああいう形になったんです」
自身の経験も踏まえて納得する愛知さんやシャルロットさんにうなずきながら、俺は目を細めて神奈川さんを見た。
聖剣を手に、ゆっくりと構える彼に瀬川は圧倒されている。心眼で悟ったのか? 真に二人が一つになっていることを。
それでだろう、顔を真赤にして悔しそうに彼を睨むのは。本当はセーレとそうなりたかったのに、自分がそうなりたかったのに、とでも言いたげだ。
なれるものかよ。悪魔に魅入られた、藤近に追従しただけのお前でしかないのに。自分の趣味に合う人間に面白半分に力を与え、その行く末を観察するだけのセーレなのに。
「聖剣の担い手と、その行く末を照らす星明り──ゆえに《星明りの聖剣》。あれこそは、真の意味で正しく聖剣を扱うに足る存在です。そうなりたいと二人が望み、まさしくそうなった姿なんですよ」
────何も見えない闇の底からでも。煌めく星を頼りに歩き続けて今、ここまで辿り着いた彼と彼女と同じになんてなれるわけがないだろう。
どこまでも対照的な、独りぼっちの瀬川と二人きりの神奈川さんの、最後の一合が行われようとしていた。
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