星明りの聖剣
『────我が存在。我が魂を懸けて今、大いなる存在に申し奉る。特例的権限譲渡措置申請および特級存在同一化措置申請に対する承認、たしかに賜りました』
精霊知能ステラが、静かに温かく光を放つ。瀬川のノイエヴァルキリーに防戦一方の神奈川さんを前に、明らかに何か特別な決意を秘めた瞳と面持ちで、彼女が輝いている。
やるんだな、ついに……間違いなくシステム領域において、いいや世界においてまったく初めての試みを。
そう、これは私やワールドプロセッサにとっても未知なる試みだ。先日ホテルで、ステラから打ち明けられた内容を思い返す。
神奈川さんを愛し、それゆえに彼のために聖剣の力をより強く引き出させてあげたいと望んだ彼女は、驚くよりほかない提案をしてきていたのだ。
『────単刀直入に言います。私は、近いうちに"千尋に聖剣の所有権を完全譲渡したい"と思っています』
「…………なに?」
『その上で精霊知能として"存在そのものとそれに付随する権限すべてを彼と共有"します。そうすれば、千尋は"精霊知能として新生し、正当な聖剣所有者となれる"はずです』
「ちょ、ちょっと待って! ステラ、自分で何を言ってるのか分かってるのか!?」
『もちろんです。ジョークでこんなこと、あなた様にお伺いを立てたりはしません────』
あの時、あの子はこんなことを言った。アルマをして絶句させ、どうかしているとまで言わしめた決意だ。
神奈川さんは現状、ステラの代わりに聖剣を使用しているだけの代行者に過ぎない。それを厭うた彼女は、正式に彼を聖剣の担い手に、スキル《聖剣》の正当保持者にしたいと思ったんだね。
────そのために、自らの存在をそっくりそのまま神奈川さんの存在と混じり合わせることで、だ。
精霊知能としてのすべての権能に、世界維持機構ワールドプロセッサの承認と権限があってなお実現するかも怪しい、前例のない方法をステラは主張したんだ。
『精霊知能ステラが承認されし権限を行使し、我が存在、我が権能を対象:神奈川千尋に捧げます。我が生命、我が心、我が意志と我が魂はこれより先、いついかなる時も彼のソレとともに』
「ステラ……! お前が、そう望むなら。俺もまた、ソレを望むだけだ……!!」
「何を、ブツブツ言っているッ!! お前から殺してやろうか、背後霊ィッ!!」
祈るように手を組み、厳粛なる宣言を成す。ステラの献身、それに応える神奈川さんの覚悟。どちらも並大抵のものじゃない。
まさしく愛、そして絆。ともに過ごした1年間が、ステラの400年と神奈川さんの20年を凌駕した。それだけ価値のある時を、二人はともに寄り添いながら過ごしたんだね。
そんな二人に、もはや邪念しかなく歪んだ剣を差し向ける瀬川など眼中にあるはずもない。
ノイエヴァルキリーを向け、半ば錯乱状態でステラにも振り回さんとするボロボロの男。精神体に物理攻撃が届くわけもないのにそうするあたり、もう正気など失ってしまっているのだろう。
それを、許す神奈川さんなはずもない。
即座に聖剣でもってステラの前に立ちふさがって、彼は瀬川を食い止めた。
「ッ! ステラのやることに、横槍挟むなよ瀬川ッ!」
『ありがとう千尋、愛してるよ──そして神奈川千尋。彼を私と同一化することで領域内の精霊知能個体データにアクセス、コンバートします。この作業をもって私と千尋は、まったく一つの新たな精霊知能へと転生する』
「……俺もだ。愛してる、ステラ。たとえ死んでも、ずっと一緒だ」
食い止めながら。あるいは、手続きを行いながらも交わし合う、愛。聞いていてむず痒くなるけど、けれどきっと、これは素敵なものなんだろう。
こんなふうにお互い想い合える二人が、きっとこれからはずっと一緒なんだ。決して悪いことだとは思わない。
それはこういう形を取らなくてもできたんだろうけど、それでも神奈川さんに力を与えるべく、ステラはあえてこの道を選んだ。そして彼はそれに応えた。
きっと、これも一つの愛の形なんだ。輪郭さえ失い、一つの輝く光となって神奈川さんを覆っていくステラは、囁くようにつぶやいた。
『死ななくても一緒だよ。生も死も越えて、私達は一つになる。この戦いが終わっても、私達の旅は続いていくの』
「そうだな。その通りだ。誰にとっても続くように、俺達の道も、どこまでも続いていくんだ────!」
「な、なんだ? この光は、この、力は!?」
「千尋の身体に、ステラが……」
「す、すす、吸い込まれて……!?」
神奈川さんの身体に、魂にステラが入り込んでいく。比喩表現でなく本当に、二つの存在が一つになるんだ。
ソフィアさんとヴァールとは似て非なるもの。あの二人は一つの肉体を共有している二つの存在だけれど、神奈川さんとステラは一つの存在を二つの心で共有することになる。
人間の規格を超えるモノへ。まったく新しい精霊知能として、神奈川千尋とステラが新生していく。
そして同時にステラが保持していたステータス、スキル、称号もすべて神奈川さんと真の意味で共有されるものへと生まれ変わる。俺は、スキルを用いて光り輝く神奈川さんを見た。
「《よみがえる風と大地の上で》」
名前 神奈川千尋/ステラ レベル1
称号 聖剣の担い手
スキル
名称 星明りの聖剣
称号 聖剣の担い手
効果 スキル《星明りの聖剣》使用時、全ステータス3倍
スキル
名称 星明りの聖剣
効果 聖剣を顕現して使用する
「────発動、《星明りの聖剣》」
表示されるステータスを確認して、俺はひとつ、ゆっくりとうなずく。
それと同時に光を収めた神奈川さん──今この場所で生まれた、最新の精霊知能がスキルを発動した。
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攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
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コミック
一巻
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