どんなに暗い闇の底でも、聞こえてくるのは"星"の声
もはや悪意しか発露しなくなった瀬川に対して、露骨なまでに興味を失い梯子を外した悪魔セーレ。
こいつのことはもう、今は放っておこう……性格というか性質というか、悪魔である以上この梯子外しはどうしようもないものであると、俺は分かっているから。
つまりは何をしようと言おうと無駄なのだ。コイツに限らず悪魔って割とこういうものだもの。
ただ、そのへんの事情を知るはずもない仲間達はさすがにドン引きしており、中には敵対心すら抱く人もいるにはいた。
ダンジョン聖教聖女として悪魔とは対立する立場にある、シャルロットさんが特にそのへん剥き出しだった。
「ずいぶんと好き勝手なことを……悪魔と言えどこちらに協力していたようなので見逃してきましたがもはや見過ごせません、やはりこのモノも粛清すべきではないでしょうか、初代様」
「正直、エリスさんとしても痛い目の一つ二つは見せてやりたい気もするけどね、ハッハッハー。でもほら、結局今のセーレは精神体だし、何より公平さん預かりだし。私達が手出しできる領分じゃないよ、シャルくん」
「瀬川同様、山形さんとも契約しているのが今のセーレですからね……シャルロット、不快なら無理に近くにいる必要はない。少し離れていよう。私が傍にいる、君を護る」
「結構です。ありがとうございますとは言っておきますが、あなたの私に対する態度もどうにも解せませんね……悪い心地でもありませんが」
エリスさんや愛知さんの言葉を受けてひとまず落ち着くも、やはりセーレには不快さを覚えているみたいで極力、視界に入れないようにして神奈川さんと瀬川のラストバトルを注視している。
正直、気持ちは分かる。俺だって山形公平としての部分は率直に不愉快さを覚えているからね、ここに来て何だお前その態度は! みたいな。
一度見初めたなら、最後まで見届けると決めたならちゃんと寄り添ってやれよと思わなくはない。
俺と交わした誓いがあるから一応最後まで見届けるようだけど、それがなかったらさっさと概念領域の本体の下に還ってるだろうな、こいつ。
やれやれ。これだから悪魔なんかと関わるべきじゃないんだよ瀬川聡太、それにサークル。
委員会に何を吹き込まれたか知らんけど、目先の欲に駆られて手を出すべきでないモノに手を出したツケだな、これは。自業自得ながらどうも、憐憫を禁じ得ないよ。
「は、はははっ! はははは!! セーレさんすら僕を見捨てた! もう本当に何もない!! 友も仲間も夢も理想も、愛さえもォォッ!」
「ハナっからそんなもん、一つだってお前にあったかよ! 藤近に上手いことノせられて、セーレに玩具にされただけのテメェなんぞに! 一から十まで全部、何もかも偽物じゃねえかよ!」
「黙れェッ! お前の何もかもを壊してやる!! どうせ地獄に堕ちるなら、お前も一緒だ神奈川千尋ォォッ!!」
「テメェ一人で堕ちてろ馬鹿野郎! 知ったこっちゃねぇんだよ!!」
激しい剣戟。お互いがお互いに全力で怒声を浴びせ合いながら切り合う姿はまさしく決戦だ。
とはいえ状況は相変わらず瀬川有利で、神奈川さんの身体はノイエヴァルキリーによって至る所を斬られている。致命傷こそないものの、かなりダメージが蓄積しているな。
一方の瀬川も、さすがに息切れしだしていて動きが大分、鈍くなっている。
悪魔の強化がなくなったことで、思うように力を振るえなくなった精神的な疲労もあるだろう。けれどすべてを失い自暴自棄になったことで、形振り構わない攻撃をがむしゃらに仕掛けるその気迫は、間違いなく神奈川さんを圧倒しかけていた。
「死ね! 死ね、死ね、死んでしまえっ!! そして僕も死ぬんだ、お前もろともーッ!」
「ふざけんな、なんでテメェと心中なんぞ……ッ!!」
猛攻の前に、神奈川さんが徐々に押されていく。
そろそろまずいな。アンジェさんやランレイさんの意を汲んで決着は彼の手でつけてもらいたかったけれど、負けて殺されては元も子もない。
出るべきか……?
香苗さんはじめ、周囲の仲間達と顔を見合わせる。瞬間。
『────特例申請、執行承認』
神奈川さんから少し離れたところで見守っていた、ステラが急にそんなことをつぶやいた。
ちょっと前からはアドバイスもなく、静かに佇んでいたんだけれど……そうか。今が"その時"だと言うんだな、ステラ。
神奈川さんが瀬川から距離を取るべく後ろに下がる、のを見越して一気に踏み込み斬撃を放つ瀬川。心眼が機能しているな、完全に動きを読まれている。
一度距離を開けて仕切り直すことさえ許さない。聖剣でどうにか持ちこたえながらも歯を食いしばる神奈川さんに、ステラは次いで、語りかけた。
『千尋……ごめんね、待たせて。土壇場でだけど許可が降りたから、今からぶっつけ本番になるけど始めるよ』
「ッ、ステラ……良いんだな? 俺で」
『あなただから、良いの。あなたになら、私はなんの迷いもなくすべてを託せる。ともに歩いていける。それこそ、永遠にも似た時間でさえも』
「何をべらべら喋ってる! 殺すぞッ!!」
半ば無視される形となり、なおのこと激昂して剣を振るう瀬川にも構わず神奈川さんとステラの意志、視線が交錯する。
以前、ステラが俺と彼に語った一つの決意。これからの未来をともに歩み、ともに道を切り拓くための選択。それが今から行われるのだ、この最終確認をもって。
短くも長い目と目でのやり取りが終わった。ともにうなずく二人。
さあ、始まるぞ……ステラはそして、静かに目を瞑り、謳い始めた。
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