顔が真っ赤な人達
アンジェさんとランレイさんの指摘に、瀬川は一瞬硬直を見せた後、烈火のごとく勢いを増して神奈川さんに猛攻をはじめた。
図星を突かれた、と。やつには悪いが、誰がどう見てもそうとしか思えない狼狽の猛撃だった。
「ひとりぼっちだと!? そんなわけが、そんなことがあるものか!!」
「ぐうっ! へ、へへ。どうした大将、耳が痛かったか? 自棄っぱちみたいに勢い増してるぜ、それに顔も真っ赤だ」
「黙れぇぇぇっ!!」
ひとりぼっち。孤独、孤立。それでいて自分ではそれを分からず、いつでもいつまでも誰かに縋っている憐れな男。
瀬川聡太というのは、短くまとめてしまうとそういう輩なんだろう。藤近ほどの信念もなく、ただやつに阿り。セーレからの好意に執着し、ただそれだけにこだわる。
そこに藤近やセーレ本人達の意向や思惑なんて関係ない。瀬川の理想をある種、投影させているというのかな……
特にセーレについては、実態から遠くかけ離れた願望でものを言っているのは前から気づいていたが、それもつまりはそういうことなんだろう。
────当のセーレからして、それを煽っていたっぽいけどね。
『ああ〜! 聡太、聡太ァ! 素敵ですよ最高です、あなたのその歪みきった心と身体! 妄想の中の私に溺れ、欲に塗れたその姿は私の理想としているヒトそのものです! うひ、うひひひ……! 愛しています、愛していますよ聡太……そんなあなたが滅び去るところまで含めて、ぐひっ! ……あなたのすべてが好みですッ!! うぅっふひひひィ!!』
「怖ぁ……」
「この戦いを終えた後、あの悪魔を討ち滅ぼすべきではないでしょうか。瀬川の醜態が見るに堪えないのは自業自得ですが、アレをそうなるよう差し向けたあの悪魔も、私としては不愉快です」
笑顔と言えば笑顔なんだろう。けれど俺にはどうにも、笑っていると言うよりはもっとおぞましい何かを表しているように見える。
まさしく邪悪な顔つきをして叫んでいるセーレを、戦闘を終えて再び集結した仲間達の誰もがドン引きして見ている。俺の傍にいるシャルロットさんですらそうだ、嫌悪感を隠さず露わにしているね。
もちろん俺も本音のところではなんだコイツって感じにはなる。とはいえ、これも悪魔としての存在意義の発露である以上はいたずらに否定する気にもならない。
人間達の抱く嫌悪や拒否感を、間違っているとも思わないけどね。立場、役割、在り方の違い。これはそれだけの話でしかないんだろう。
「殺してやるッ!! 神奈川もステラもフランソワもシェンもっ!! 山形公平もっ!! みんな殺してセーレさんを、僕の最愛を護るんだァァァッ!!」
『千尋ッ! 耐えて、凌いで! もうすぐまた、チャンスは訪れるから!!』
「ステラが言うならいくらでも! 今のこいつはたしかに強いが、そんでも押し切られる気はしねえ!!」
そして、そんなセーレをやはり誤認したまま瀬川は剣を振るう。もはや出鱈目なまでの斬撃、悪魔による強化でもって得た身体能力任せの、強いだけの攻撃が神奈川さんへと向けられる。
これを耐えられないわけがない。ましてやステラという愛する者とともに戦う神奈川さんは、ノリにノッてるテンションだ。
それこそ孤独に暴れるだけの瀬川など、強くはあるが怖くないんだろうな。
ステラの言うチャンスってのは、おそらくアレのことなんだろうけど……今しばらくは拮抗状態、神奈川さんが防いでやり過ごす展開になるのは目に見えていた。
一方その頃。
ミュトスとアレクサンドラの決戦も、さらなる佳境へと至りつつあった。
「────おのれ、おのれおのれッ!! 死になさいアバズレがッ、聖女殺法・滅魔鉄槌!!」
「《イミタティオ・トリニタス・コスモス》──換装、ミュトス・魔天ッ!!」
ミュトス・災海と触手合戦を繰り広げていたアレクサンドラだが、どうにかそれを掻い潜っての肉薄に成功。接近戦を仕掛けるべくその鉄拳を握り振るっていた。
寸勁に近い打法を、眉間めがけて振り下ろし気味に打つ……人間相手に放って良いはずもない、殺人打法だ!
しかしそれをみすみす喰らうミュトスでもなく、即座にスキルを発動させてフォームチェンジ。
胴体の鎧が消え、代わりに頭部に兜を纏い翼をも生やす。魔天の力を借り受けた、ミュトス・魔天となって拳を受け止めたのだ。
何度となく攻めを防がれ、いい加減苛ついたのかアレクサンドラが声を荒げた。
「また姿を変えた……!! どれだけこのプレーローマ・アンドヴァリを、馬鹿にすれば気が済むのです!!」
「人の力を借りパクしてドヤ顔しちゃうような人、馬鹿にされて当然でしょう! さあさ、ここからは空中戦でござーい!!」
「もはや私の力です、うっ、ぐあああっ!?」
対するミュトスも言い返しつつ、額で受けた拳を掴み、もろともに天高くへと飛翔する。
魔天の力を得たミュトスはいわば空戦形態。自在に空を飛び敵を翻弄するスピード特化のフォームでもある。その力をもって、天井へとアレクサンドラを叩きつける!
「ぐぁ、ぐはっ────!?」
「堕ちよ、流星の如く!」
「がっ、ぐあぁぁぁぁぁっ!?」
背中を思い切り痛打しては、さしものアレクサンドラも息ができずに呻くしかないようだ。一瞬の、そして致命的な隙。
見逃すミュトスであるはずもない……そのままやつを掴み、今度は床へと投げつける!
あまりの加速に空気の壁をも何枚も破る速度で、アレクサンドラが地面に墜落する。
まさしく流星のように、だ。これは……勝負あった、かな?
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