サークルという組織─ひとりぼっちの瀬川聡太─
「神奈川ッ、千尋ォォォッ!!」
「瀬川ァ! 聡太ァァァッ!!」
互いに一歩も譲らぬ剣捌き、そして雄叫び、気迫。神奈川さんと瀬川、聖剣とノイエヴァルキリーが、一切の躊躇も余裕もなく火花を散らしてぶつかり合っていた。
ステラの援護も得て万全の神奈川さんに対して、満身創痍で視覚まで失っている瀬川は本来の理屈で言えば圧倒的不利のはずだ。
だが今、戦うその姿はまったく淀みなく弱みなし。認定式の時と同じかそれ以上の動きで、やつはその力を存分に発揮していた。
「っ、この野郎! 目ぇ見えてねえクセに、なんで、こんなに……!!」
「視える! 目に見えなくてもたしかに分かる! お前の動きも、お前の力も! お前の後ろにあるモノ、ステラの存在さえもはっきりと視えるぞぉッ!!」
『この男……天才、ううん異能だよ千尋! 次、右30度から来る! しゃがんで!』
視覚がないにも関わらず神奈川さんの剣をいなし、躱し、あるいは受けつつも反撃さえ敢行する瀬川。何やら視える視えると叫んでいるが、あながちホラでもなさそうだな。
ステラの端的な指摘通りだ……天才的な素質の為せる異能。視覚以外のすべての感覚、第六感さえ含めたあらゆるセンサーでもって、やつは神奈川さんばかりかステラの存在まで正しく把握しているのだ。
ファンタジーっぽく言えば心眼ってやつか。はっきり言って超能力の類だ、リンちゃんの蒼炎と分類的には一緒かな。つまりスキルに依らない特殊能力ってことになる。
複数の悪魔から力を得たことで手にしたのか、はたまた元よりそうした素質を持っていたのが、視力を失ったことで一気に開花したのか。それは定かではないけれど、いずれにせよ神奈川さんにとってはかなり不利な状況だろうな。
「ちいいっ!! 才能のある奴ァこれだから、クソッタレ!!」
『焦らないで千尋っ! 大丈夫、私が付いてる!』
「応援しか送れない背後霊ッ!! お前なんかがいくら取り憑こうが、神奈川は僕には勝てないんだよッ!」
悪態を吐きながらも応戦する神奈川さんの斬撃は、決して弱々しいものではない。ステラのステータスを借り受けている今の彼は探査者としてはD級からC級程度。そろそろビギナーではなくなった、駆け出しだけど一人前って扱いを受けるくらいの実力だろう。
聖剣の強度やステラのサポートによる後押しもあれば、多少格上相手でも十分勝ちを拾える範疇と言えるね。
だが瀬川はさらに上を行く実力者だ。認定式の時点で神奈川さん相手に優位を保っていたのが、悪魔による強化を受けてもはや力だけならA級にさえ届く勢いだ。
そこに加えて心眼なんてインチキまで手にしては、さすがにこれは分が悪い戦いだと言わざるを得なかった。
「千尋! 踏ん張んなさいよ、アンタなら勝てるわそんなデタラメ野郎なんて!!」
「やっとの思いでバリアを突破したと思えばこんどは斯様な技術を見せ付けるとは! 瀬川聡太、見事というべきだがしゃらくさい! 落ち着いて対処するのだ千尋、ステラがお前の後ろにいる! 彼女を信じろ!!」
苦戦を強いられる神奈川さんへ、近くで決着を見届ける構えのアンジェさんとランレイさんが激励の声を放つ。
瀬川のバリアを破り、やつ本人との決戦は神奈川さんに譲った二人だが……この期に及んで心眼などと言い出した瀬川にはさすがに苛立ちを見せている。
こいつ、どんだけインチキすれば気が済むんだと。そう言いたげな眼差しだな、これは。
それでいて瀬川には視線を向けつつも、ただ神奈川さんとステラを励まし後押しする。それは間違いなく、仲間としての所作だ。
能力者犯罪捜査官のお二人にとって、神奈川さんとステラは本当の本気で友達であり、そして苦楽をともにした仲間なんだ。だからこそ自力で敵を討つのを任せ、それを応援だってするんだな。
「アンジェリーナ・フランソワッ! シェン・ランレイッ!! お前達の存在だって今なら分かる、超えられる!! 神奈川を殺せば次はお前達だ、覚悟しろッ!!」
「……ハァ? 次ィ? あるわけねーでしょそんなもん。ね、ランレイ!」
「うむ! そんなものはない! 少なくとも貴様には絶対にな、瀬川聡太!!」
「何を……!?」
力強い断言。神奈川さんなど眼中にないと言わんばかりの瀬川に、けれど矛先を向けられたアンジェさんとランレイさんは力強い笑みを浮かべて反論した。
俺も同じ意見だよ、瀬川。お前に次なんてない。ここでお前は負けるんだ、他ならぬ神奈川さんの手でその過ちを糺される。
その理由から目を逸らしているんだろう。けれどアンジェさんチームを、神奈川さんを見ていればすぐに気がつくよ。
繋いで、離れない──決して消えない絆がそこにあることをな。
「アンタが今戦ってんのはね、私達の大事な、大切な、そして素敵な友達なのよ! アンタみたいなしょーもないのに負けるわけあるかってーの!!」
「尊敬すべき友、神奈川千尋とステラ! 彼と彼女が二人でいるのだ、どんな悪だろうが敵いはしない! 覚えておけ、瀬川聡太!!」
「何を、貴様らっ!?」
「一人より二人、二人よりいっぱいのほうが強いっ!! だから千尋とステラは勝つんだし、ひとりぼっちのアンタなんかは負けるしかないのよ!!」
「────────っ」
その身に背負う絆の数だけ、その心を支える絆の分だけ、人は必ず強くなれる。だからこそ翻って顧みろ、瀬川聡太。
お前に断言できるだけのソレは、あるか?
藤近や海方、それにセーレは今。お前の心のなかに、お前の傍にいてくれているか?
ついていくだけだったお前に、追いかけるだけだったお前に、求めるばかりだったお前に寄り添ってくれているのか?
……いないんだろう。
憐れなまでに図星を突かれた、ひとりぼっちの男がそこにいた。
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