S級探査者は伊達じゃない!!
腰を据えての殴り合いでは勝てないと判断して、即座にサブミッションによる部位破壊に切り替えてきたアレクサンドラ。
そういう、相手に合わせて即応できる体系らしい聖女殺法とやらも大概怖いんだけど。何よりも恐ろしいのは意思疎通可能な相手の腕を一切の躊躇なくへし折ろうとする、やつ本人の残虐性や攻撃性だろう。
シャルロットさんを永らく苦しめてきたのが、こいつのこういうところなんだな。苦悶するミュトスに恍惚とした、サディスティックな笑みさえ浮かべる女の顔を観察する。
こういうところは父親そっくりだ……青樹さんを追い詰め、終いには無理矢理ヒトならざるモノへと変異させた外道の中の外道を想起させる顔してるよ、ほんと。
「うっふふふふ! いかなる力であろうが所詮は人体、壊し方など熟知していますよ! シャルロットという体の良い実験体も、いてくれましたからねえ!!」
「うぎぎぎぎ、いたたたたっ! ……と、年端もいかない少女に、なんでこんな、酷いことを……!!」
「エリス・モリガナの末裔だからですっ! 他に何か理由が必要とでも!? 今でも覚えていますよあの感触っ! あの娘の手足はね、実に折りやすくて良いストレス発散になりましたよぉっ!!」
「っ────ふざ、けるなぁッ!!」
その娘たるアレクサンドラもまた、どうしようもなく惨い行いに手を染め、あまつさえそこに愉悦など感じているようだった。
シャルロットさんの傷には、もちろん骨折の後もあった。腕だけしか見てなかったし見たくもないけど、きっと全身隈なくそんなものがあったんだろう。やつに折られた、骨折の痕跡が。
怒りを抱く俺。直接相対しているミュトスもまた、激しい怒りを口にした。
いつになく厳しい口調で叫び、無理矢理極められた腕ごとアレクサンドラを持ち上げる……折れても構わないと言わんばかりだ!
「っ!? 何を」
「こんな痛みを、これ以上の苦しみをっ! 年端もいかない子供に与えてきたなんて──! 赦せませんっ断じてっ!!」
「だったらどうしますかぁっ? 怒りに任せて無理矢理持ち上げたのは結構です、折りがいがありますよ!」
「折らせはしません! この腕も、この心も決してあなたに折ることはできない! 《イミタティオ・トリニタス・コスモス》ッ!! 災海さん、私に力をッ!!」
踏み躙られたモノを想っての怒り。燃え盛る信念を胸にミュトスは今一度を発動した。
同時に断獄の手足が失われ、腕を極めていたアレクサンドラの技が空振りに終わる。その隙に距離を取ったミュトスは三界機構が一つである災海の力をスキルを介して引き出していく。
胴体に白銀の装甲を纏う──ミュトス・災海。彼女の三つ目の姿であり、空中戦特化の魔天や肉弾戦特化の断獄に比べて遠距離戦を得意とするフォームだ。
そう、まさしくプレーローマ・アンドヴァリの触手によく似た形でワームホールを生成し、そこから八本の触手を射出して敵を攻撃するのだ!
「な、形態を変えた!? スキルですか、得体のしれない女が!!」
「ミュトス・災海! さあ行きなさい、当の災海さんにもよく分かってない触手達!」
「えぇ……?」
「何をわけの分からないことを、くぅッ!?」
予想していなかったのか形態変化に慄きつつも、すぐに態勢を整えるアレクサンドラにミュトスが触手を放った。
いや災海自身にもよく分かってないのかよ、あの触手。元々の姿の時もあんなのあったろ、たしか。
いやまあそりゃね、三界機構のデザインや性能は結局のところアルマによるものだろうし、そもそも彼らはほとんど意識もなかったんだから分からなくて当然なんだろうけども。
なんだか気の抜ける話だよ、差し向けられたアレクサンドラはそれどころじゃないたみたいだけどね。
軽いノリでミュトスが繰り出すソレは、しかしながら三界機構の力の一部を具現化したものだ。まともに受ければ創造神レベルでもひとたまりもないだろう。
ましてや頼りない権能しか持たず、オペレータとしても出力を半分落とされている今のやつでは対応しきれるはずもない。
そう、思っていたんだけれど。
「な、なっ、舐めるなァーッ!! 《土魔導》ジオロジカルボイジャー・フェイナーッ! 神のみならずこの私は、S級探査者でもあるんですよっ!!」
「えっ……つ、土の触手!? あわわわ、応対応対!」
「二つの魔導スキルを同時に、しかもそれぞれのスキルで複数の技を同時並行に使いこなすのか……! 信じられないほどに天才的だな、よくやるよ!」
なんとアレクサンドラは《土魔導》を放ち、床から土の触手を無数に飛び出させてミュトスの触手を受け止めたのだ。
さすがに受けきれる出力差じゃなく、一瞬だけ動きを止める程度しか時間稼ぎはできないようだけど……そこよりも俺は、やつの神がかった芸当に正直、意識が向いていた。
通常、魔導系や魔法系のスキルは複数所持していたとしても、同時使用は制御難易度が極めて高い仕様になっている。
なんなら一つのスキルでも複数の技を同時に放つのだって、大概な精神力と制御力が必要で、およそ実戦での使用はシステム領域側としても現実的じゃないという見方が一般的だ。
それをアレクサンドラは、《風魔導》による自身のパワーとスピードを同時に増幅しつつ、さらに《土魔導》で自身の分身を作りつつ触手まで生み出し操っている。
天才的、なんて言葉では足りないくらい異常な技術だ。テクニックの難易度で言えば、下手するとマリーさんの概念存在特効斬撃さえ凌ぎかねない。ほとんどバグめいた領域だぞ。
ウーロゴスの権能を得たことで可能になったところもあるのかも知れないが……
敵ながらこれは見事だと、俺は険しい顔になりながらも認めずにはいられなかった。
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