どこまでいっても人間でしかいられないモノ
仲間達が敵の群れを相手するなか、ついに相対する時が来た。プレーローマ・アンドヴァリとの、これで最後にしたい正面衝突である。
ステータスの半減という、致命的なまでの異常事態にすっかり取り乱していた目の前の女はけれど、どうにか落ち着きを取り戻したのか憎らしそうにこちらを睨みつつ臨戦態勢を取っていた。
「シャイニング山形……ッ!! それに、シャルロットォッ!!」
「ようやくここまで持ち込めたな、火野アレクサンドラ。散々周囲を盾にして逃げてきたお前の、ここがまさしく袋小路だぞ」
「覚悟の時です、アレクサンドラ。あなたの夢も野望もここですべてが潰えます」
「小生意気なことを言わないでもらいましょうか、ガキどもがッ!! ここまでなのはあなた方です、偉大なるこのプレーローマ・アンドヴァリの力でもって、この場にいる不届者はすべて八つ裂きにしてくれましょう!!」
俺とシャルロットさんに対して、歯も剥き出しにして殺意を顕にする姿は醜悪だ。聖女のイメージとはまったくかけ離れた、異様なデカさもあってほとんどモンスターみたいな印象さえ受ける。
まだ、勝つつもりでいるんだな。この状況で、その状態で。
ステータスが半減されてもまだウーロゴスの力があるんだし、総合的に言えば依然としてこの女の戦闘力は上位概念存在クラスに匹敵しているだろう。脅威と言えば脅威ではある。
だが、それだけだ。あの織田……北欧大神オーディンですらS級探査者には及ばない程度な以上、高が知れてしまっている。
ましてやこの場にはもう一人、全力であれば創造神さえ超える出力の精霊知能、ミュトスすらいるんだ。
ちらりと彼女を見る。なんかもんにょりした複雑そうな表情で、おずおずと挙手をしてプレーローマ・アンドヴァリに話しかけていた。
なんだ?
「あ、あのー。み、ミュトスちゃんは? ミュトスちゃんに言及しなくていいんでせうか? 一応その力の本来の持ち主なのでごぜーますが、あのう? ……無視されちってる、ひぃん!」
「えぇ……?」
そう言えば一人だけあからさまに言及されてないな、この子。アレクサンドラとは直接的な因縁がないし、向こうからしても戦闘員くらいの認識でいるかも知れないからだろうけど、不憫な。
実質的に徹頭徹尾、今回の件における被害者なんだけどね……一応、さっきウーロゴスの本来の持ち主だってのは主張したからやつもそこは理解しているだろうけど、それでもノーコメントっすか。
独特のノリに巻き込まれるのを厭うたか?
野暮な憶測までしていると、シャルロットさんのほうがむしろ反応してきた。ミュトスに向けて、訝しげな顔と言葉を向ける。
「呑気ですね……と言いますか先ほども言っていましたね、その力の本来の持ち主、と。よもやウーロゴスの? どこぞかの概念存在なのですか、ミュトスさんは」
「え。あ、あー……まあその、そんなところでごぜーやす聖女様、うぇっへっへっへ! いやあちょっと道端歩いてたらポロッと権能を落っことしちゃいまして、そしたらそれを拾われたのが運の尽きでございましてよにょほほほほ!」
「…………? 山形さん、彼女は一体何を」
「い、いやあ。ははは、はは」
雑い! カバーストーリーが雑い! ちょっと道端歩いていたって落とすか普通、そんなもん!
あまりにいい加減な誤魔化しに、さしもの無表情気味なシャルロットさんも目を丸くしている。俺に聞かないでよ、俺だって意味不明だったよ今の話は。
ただ、プレーローマ・アンドヴァリはそこでようやくミュトスに目を向けたようだった。
ふん、と鼻を鳴らして冷たく見下ろし、傲然とした態度で彼女に言葉を投げかける。
「下らない戯言をペラペラと……ウーロゴスをその身に宿していることから本来の持ち主というのは本当のようですが、であればなおのこと、この力は私のものであるべきでしょう」
「にゃ、にゃにをう!?」
「愚か者が持つべきものにあらず、この権能は正しく力を振るえる私こそが備えているべきなのです。シャイニング山形もそうですがね、一々相応しくないのですよ。言動から態度から形貌から何から何まで!」
「…………その物言いこそ、お前が人間でしかないことの証明なんだぞ、アレクサンドラ」
「神の怒りを買った愚者どもの、遺言がそれかァッ!!」
身勝手に拾い物の所有権を主張して自己正当化を図った挙げ句、俺とミュトスの誹謗中傷までしてくる厚かましさ。
相変わらず傲岸不遜も甚だしい女が、いきなり声高に激昂した。これまでの流れでいい加減、俺はじめシステム領域側について何やら現世のものではないと分かり始めているようだが。
半減した力でも放つ、すさまじい威圧。怒りや憎しみといった感情の持つ力が上乗せされているそれこそが、やはり概念存在では在れないことの証左にほかならないんだけどな。
そんなことにも思い至らない憐れなプレーローマ・アンドヴァリは、いよいよ戦闘行動に移った──ワームホールを俺達の周囲に展開し、そこから鋭い切っ先の触手を解き放ったのだ!
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