サークルという組織─その最後の一人。誰より哀れな瀬川聡太─
一本道を通り抜け、広がる異界空間。
土塊だった床や壁はその空間に出るなり大きく様相を変え、ひどく無機質な、光沢のある灰色の金属めいた素材になっている。
広い……相当広い空間だ。採石場の敷地なんて余裕で超えているし、天井だってめちゃくちゃ高い。
それでいて殺風景で何も無い、虚無を思わせる空間でもあった。どこか寒々しさすら覚えるほどに。
そして、そんな空間の奥にやつはいた。当たり前のようにさらに巨大化し、パワーアップした姿で。
ノイエヴァルキリーを携えた瀬川と、あと数人の悪魔憑きを従えた状態で。傲岸不遜に微笑み、宙に浮いてこちらを睥睨していたのだ。
「プレーローマ・アンドヴァリ!!」
「とうとう最後の決戦、というわけですかぁ。大所帯でゾロゾロとまあ、よくも雁首並べて出向いたものですねえ」
プレーローマ・アンドヴァリ。あるいは火野アレクサンドラ。今回の事件の発端にして、元凶の一人。
以前戦った時よりもさらに一段、人間から離れた姿になってやつはそこにいた。基本的なフォルムはそのままだけど、2m少しだった体格がさらに大きくなり、今や3mほどにまでなっているのだ。
取り込んだウーロゴスが馴染んでいるのか、それとも……
判別しづらいが、ことによってはますます緊急性が高くなる状況だ。やはり、やつも言っているようにこれが最後の決戦になるな。いや、そうしなければならないんだ。
こちらを見下す、ヒトを辞めた女をまっすぐに睨み返す。やつの足下にて、そんな俺に叫ぶ声があった。
「シャイニング山形ァッ!! セーレさんに続いて功さんまでよくもッ!! よくもやってくれたなァァァッ!!」
その男もまた、以前とはかなり様相が異なっている。
全身が包帯に塗れ、なおもその下の皮膚から血が滲んでいる満身創痍の姿。
けれど放つ圧、殺意と憎悪はこれまでに見たことがないほどに純度が高い。
ボロボロの黒いロングコートに赤いマフラーを首に巻いた、純白の剣を持つその男の名を、俺は静かにつぶやく。
やつが取った選択に対して、心からの哀悼を示しながらだ。
「瀬川聡太……お前、そんなことまでしてしまったのか」
『千尋。アイツ、セーレ以外とも契約してる。いくつもの権能が、悪魔が、瀬川に取り憑いては強化し続けてるよ』
「な、んだと!?」
『もうボロボロだよ、あの男。対価とは別に強化そのものの代償で内側から崩壊しだしてる。アイツ、もう、半分死んでるよ、千尋……!』
もはや目すら見えていないだろう、黒く濁った瞳。間違いなく失明しているそれが俺に向けられる中。ステラが小声で神奈川さんに、瀬川の状態を正しく伝えた。
その声もまた、悼みに震えながらだ……そう。瀬川はおそらく力を求めるあまり、セーレの他に追加で複数の悪魔と契約を結んでいるんだ。
悪魔の気配がいくつも、やつの中にある。憑依する形で無理矢理、力を増幅させている。
見る影もない姿に成り果てていても、以前より数倍は強くなっているのはそのためか。そしてその反動で、やつはもはやほぼ、死を迎えつつあった。
複数の悪魔との契約。不可能な話ではないが、それをもって肉体を強化するのはあまりにリスキーだったな。セーレは瀬川のことを慮ってバリアを与えるに留めたが、他の悪魔は関係ないとばかりに無造作な強化だけを施したのか。
「…………5体。セーレに続けて4体もの悪魔と同時契約をしたな。その姿、その目は人では到底背負いきれない対価と悪魔に憑依されたがゆえのものか。なんてことをする」
「覚悟しろ、アンドヴァリさんが手ずから動くまでもなくこの僕がッ!! お前を殺し八つ裂きにしてやるっ!! そのために僕は、すべてを懸けてここにいるんだ!!」
「ふふ……素敵でしょう、瀬川聡太は。彼の執念は私にとっても心地良い。すべてを捨てて望む地点にたどり着かんとする信念は、まさしくヒトの枠を捨て神へと至ったこのプレーローマ・アンドヴァリに────」
「黙れ、火野アレクサンドラ。お前の話はもうどうでもいい」
「────────」
瀬川についてまで、下らない能書きを垂れようとしたプレーローマ・アンドヴァリ……いや、もういいか。アレクサンドラを切って捨てる。
まさかここまで冷淡な反応が返ってくるとは思っていなかったのか、奴が一瞬、呆然となるのが見えた。それすらどうでも良い。
もう、やつについては概ね分かった。両親の呪い、そして自らの野心。それらに飲み込まれて自ら道を踏み外した悲しい外道。
そこまで把握したのなら、後はもうやつを倒してヒトに戻すだけだ。いつまでも神様ごっこをしているような女に、まともに取り合うつもりはもうない。
これ以上くだらない戯言に付き合った挙句、また逃げられるなんて今度こそ冗談にもならないからな。
そして、それは瀬川に対しても同様だ。こいつのことも既にネタは割れているんだ。
結局、委員会の飼い犬に堕した藤近という男の私兵に過ぎない輩。悪魔セーレの色香に惑い、ここまで来てしまった哀れなヒト。
こいつも救う、絶対に救う。それだけだから……もう、まともに話を聞く気にはなれなかった。
「ああ、でも契約だもんな──姿を見せていいぞ、セーレ。ずっと控えさせていたが、最後だ。あいつの何が良いのか分からんが、存分に見届けるがいい」
『────ふふっ。ええ、ありがとうございます我が契約主山形公平。ふふ、ふふふふっ。ええ、ええ。契約ですものね。姿を隠したままでは野暮というもの。ここはやはり、かぶりつきで聡太を見届けるにはやはり。うふっ! 姿は晒させていただきませんと、ねえ? くひひひっ!!』
「えぇ……?」
最後だから、契約の履行だって果たさないといけない……ゆえにここまでずっと俺の近くで透明になってもらっていた悪魔、セーレに顕現を許す。
…………のだが、様子がおかしいな。ひどく笑いを噛み殺した姿で、というか満面の笑みでやつは姿を現していた。
怖ぁ……ここに来てとうとう本性を剥き出しにしたか。
ますます哀れな気持ちを抱きつつ、瀬川とセーレの最後のやり取りを、俺は看取ることとした。
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