宿命の血族
リーベとシステムさんのあれやこれやはともかくとして、リンちゃんの決戦スキル継承予定ってのは気になるところだ。
なので率直に聞いてみた。
「リンちゃん、決戦スキル継承って言うと……ええと、誰から? 今持ってる人、知ってるの?」
「うん。でも、答えられない」
きっぱりと、しかし明確な意志を持ってリンちゃんは返答を拒否した。別に敵意とかじゃないのはもちろんだが、断固たるものを表情に浮かべている。
しかし答えられないってのはどういうことなんだろう? わざわざ決戦スキルを継承するって子を案内役として遣わしたんだから、何の関係もないってことはないだろう。
疑問に思ったんだろう、香苗さんが質問する。
「答えられない、ですか。その理由ですらも?」
「……その質問にも、答えてはいけない、とだけ聞いています」
「あなた自身、答えてはいけない理由を知らないのではないですか?」
「いえ、一応聞いてます。でも、決戦スキルを継承することだけを教えなさい、って」
ますます変な話だ。まるで知られたくないみたいじゃないか、その決戦スキル保持者は。そのくせリンちゃんがいずれ、決戦スキルを引き継ぐってことは知ってほしいと。
香苗さんもどこか、呆れた風に言った。
「フェイリンさんに思うところなどありませんが、彼女をここに遣わせた何者かは少し、姑息に思いますね」
「何者か……って、WSOの?」
「おそらく統括理事その人でしょう。当人が保持者なのか、はたまた別にいるのかは置いておくにしても……やり方が迂遠すぎます。意図が見えません」
「ごめんなさい……」
リンちゃんが顔を曇らせて頭を下げた。慌てる俺と香苗さん。
別に、彼女に対して何かを思ってなどいない。むしろ、これでは体のいい小間使い同然なのだから、気の毒というか、大変だなあと思ってしまうくらいだ。
「あなたは悪くありませんよ。誤解されたのなら謝ります」
「いえ……統括理事、ソフィア様は、隠し事、ばかりです、から」
「ソフィアっていうんだ、統括理事さん」
名前からして女性の方かな。マリーさんくらいのお年を召されたおばあさんを連想する。
あの人の印象が強いもんだから、なんとなくだけどその、ソフィアって人もキレると怖そうな印象になる。おっかないおっかない、もう既に観光だけして帰りたくなってきた。
『さすがに色々話を聞くまでは帰らないでくださいよー……というか、ソフィアですか。ソフィア……とは、また』
と、リーベ。
何やらソフィアって名前に反応してるけど、まさか知ってる人だったりするんだろうか。
『いえ……昔々に、同じ名前の人がいたのを知っているだけですねー。もうこの世にはいない方なので、同名という奴ですよ。リーベちゃん、ちょっと感傷ー』
若干、落ち込んだトーン。もういない誰かを悼んでいるんだろうか。
ちょっとデリケートな部分に触れちゃったなあ。申し訳ないことをした。
『とんでもない! 懐かしい方を思い出せて、嬉しいくらいですよー。きっかけをくださってありがとうございます、公平さん』
慰めてくれるリーベの、声がいつもより優しい。
なんとなく、大切な誰かだったんだろうなと思った。
さておいてフェイリンちゃんだ。香苗さんと二人で色々質問していくと、彼女の事情も見えてきた。
なんと彼女、というか彼女の一族は、決戦スキルを引き継ぐべく星界拳を修練してきたらしいのだ。大ダンジョン時代の始まりからずっと、今日まで。
決戦スキル保持者として相応しい者を輩出すべく、ひたすらに鍛え抜いてきたという。
「WSO創設の、直前……一族の始祖シェン・カーン様、大いなる使命を授かったと、伝承、あります」
「大いなる使命、とは……決戦スキルのことでしょうか」
「はい。一族内では弐式・救世技法、と、呼びます。それを、継承するに足る戦士を、育てろと。世界を救う、一助となるために、と。始祖様の教えの下、一族は興され、里、できました」
「決戦スキルの、ための一族……!」
なんてことだと、率直に怖さを感じる。人間一人の人生どころか、それ以降の血族すべて、たった一つのスキルに影響されてしまっている。
そこまでやるのか。100年も一つの一族を縛りつける、ことさえしなきゃならないのか。邪悪なる思念と戦うためには。
「一族の誇り。世界を救うため、神に遣わされたシェンの血筋は天使の血筋。えへん、えへん!」
だけど……フェイリンちゃんは、むしろ誇らしげだ。
この子にとって、いや、シェン一族にとって。決戦スキルの継承のために費やされた一族の修練とは、世界を救うために神から与えられた使命にほかならないのだろう。
俺の育った環境の常識とはかけ離れているけど、シェン一族の在り方も一つ、誇りある在り方なのだろう。
それを考えると、軽々な同情はむしろ軽蔑と変わらなく、失礼なのかもしれない。俺は内心で、己を戒めた。
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