敵アジトの長い落とし穴を抜けると概念領域であった。
少なくともバリアは惨いことにされちゃいそうな瀬川についてはもはや、自業自得だからちょっとくらい我慢してくれと思いつつも10分が経過した。
先に突入したリスティ・セーデルグレンさん……こと、ダンジョン探査RTAトップランナーであるリアリスティー・トップスピードさんの言ではそろそろ降りれば、それなりに先行してくださっているとのことだけれど、さて。
ヴァールを見る。ここにいる以上、総指揮はやはりWSO統括理事であるこの子が務めるべきだからね。
彼女もそれに応えて一つうなずいた。迷宮への穴を一瞥して、俺たちへと号令を発する。
「頃合いだ、出発する! 当初の予定とは大きく異なるが、形の上ではどうにか整えられた。後は先行した攻略チームと言うかRTAチームに先導されつつプレーローマ・アンドヴァリの下を目指す!」
「地上は我々に任せてくれ! たとえ再びウーロゴスが来ようとも、必ずや無力化させてみせよう!」
「S級探査者達にフェイリンさんまでもがいるのですから、地上はまったく問題ありませんね。心置きなく私達は先へと進めます」
「うむ! それでは行くぞ、ワタシと山形公平が先頭になるので後に続いてくれ!」
「えっ俺? ……分かった!」
サウダーデさんの力強い後押しや、香苗さんのコメントさえ受けて俺達もいよいよ動き出す。
先頭に俺が指名されたのは、プレーローマ・アンドヴァリの権能発動を警戒してのことだろう。スキル封印の力が仮に迷宮全域にまで及ぶのならば、俺の因果操作で無力化しないといけないからね。
……まあ、先行したセーデルグレンさん達が特に異変を感じて戻ってきた様子もないし、おそらくは大丈夫か。
出入口も、入ったら最後二度と出られないとかってギミックが仕込まれている様子でもないし。
そもそもあの人達のフル装備ぶりからして、もはやスキル封印とかされても多少はモンスターとか人間相手にも戦えちゃうと思うんだよね。
銃火器は通常ならモンスターに効きが悪いものの、モンスターの素材でできた銃弾ならその限りではないし。そしてセーデルグレンさん達の身につけていた弾丸のベルト、めっちゃお高い対モンスター用のやつだし。
ダンジョンRTAにそこまでするのか、という思いもないではないけれど今この時はとても頼もしい。
というわけで俺達はなんら心配もなく、ここから先の戦いへと邁進できそうだった。
俺とヴァールで、同時に穴へと飛び降りる。ヴァールに飛行能力はないが構わない、俺が飛べるからな。彼女の腰に腕を回して抱え、ゆっくりと降下する。
他のみなさんは大体、梯子を下りる形になるかな。リーベやミュトスに抱えられる人もいるかもだけど、それにしたって限度はあるしね。
「助かります、コマンドプロンプト」
「気にするな、ヴァール。それより迷宮に降りたらすぐ戦闘の可能性もある。お互い、用心していこう」
「はい」
暫しの二人きりということで、俺にも精霊知能として接してくるヴァールはすでに臨戦態勢だ。《鎖法》を発動し、腕に発現させたスキルの鎖をいつでも放てる状態だね。
もちろん俺もすでに、《誰もが安らげる世界のために》の出力を開放している。
手始めに1000倍……絶対に負けてはならない戦いであるのは明白なため、出力調整も容易だよ。
翻ってプレーローマ・アンドヴァリが、それだけの脅威だということでもあるけどね。
やはり嘆かわしく思っていると、降り始めてから割合すぐ、ワームホールを抜けたようで世界の空気が変わったのを察知する。
命あふれる現世から、静謐なる魂の世界、概念領域へ。どこか背筋が泡立つ感覚を覚えるのは、未だ死なず生きている状態でここに来たからか。
案の定だな。抱きかかえるヴァールにも、もう理解しているだろうけど一応アナウンスする。
「ん……次元が変わったな。概念領域に突入した、やっぱりか」
「予想していたが、なかなかやってくれる……これとて手引したのは悪魔でしょう。コマンドプロンプト、プレーローマ・アンドヴァリや悪魔の権能、気配についてはどうですか?」
「今のところは何も感じない。気配については遮断しているかもだから何とも言えないけど、権能はマジで誰のも使われてないよ。少なくとも俺達の付近1kmほどに、やつらの力はない」
「助かります……そろそろだな。一旦底まで降りよう、山形公平」
ワームホールを抜け、明らかに変化した世界の空気を感じつつも見えてきた地上へと降着する。
ここまで来ればいつもの、山形公平相手の態度に戻ったヴァールがすぐさま俺から軽く離れ、周囲を警戒する。
ダンジョンにも似た土塊の床、壁に、木材で枠組みがされている。炭鉱とか、まさしく採石場って感じの光景だ。
であるにも関わらず埃っぽさや粉塵はなく、なんなら清浄な美味しい空気さえ流れている。このへんは人間が利用するためにも悪魔側が用意している感じかな。
今のところ目に見える範囲に敵の気配はない。
だが、微かに聞こえる銃声……セーデルグレンさん達のものだろう。つまりは戦闘中だということに、俺とヴァールは顔を見合わせた。
「少なくとも配置されている敵はやはりいるみたいだ。モンスターやオペレータの気配も結構してるし」
「スレイブモンスターとダンジョン聖教過激派構成員だな。そちらはセーデルグレンに任せて、ワタシ達は降りてくるメンバーと合流後、迷宮を駆け抜けプレーローマ・アンドヴァリの下へと向かう。その前にベナウィによるショートカットも試みるが、これについては望み薄としておいたほうが良いだろう」
「それはまあ、さすがにね」
言っちゃうと末端連中はやはり攻略チームに任せ、俺達はただひたすらに敵首魁を目指す。そのためにもベナウィさんのショートカットが成功すれば儲けものなんだけど、さすがにそう上手くはいかないだろう。
まあ、やってみるだけやってみるべきではある。俺達はそう結論付けて、後続の仲間達がやって来るのを待つのだった。
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