シャルロットなりの復讐
なんだかすごくほっこりするタイプの良い人なロナルドさんが、うちの伝道師さんに理解を示そうとする中、最後に残ったウーロゴスのほうにもきっちりとトドメが刺された。
ミュトス・魔天の必殺奥義が放たれ、ヴァールの《鎖法》にて拘束されたやつの脳天をまっすぐに撃ち抜いたのだ。
「ディヴァイン・ラグナロクッ!! ────よーっし大漁大漁! これにて地上のウーロゴス、5体とも完全撃破でございまさー!」
「ミュトス……倒した分だけ己の権能を一気に取り戻してるな。初期状態では一撃こっきりだった奥義を今は、この短期間であれだけ放ってなお健在とは」
『ふん。最初から権能をすべて取り戻した時を想定して改造してるんだから当然だろうさ。むしろあの改造羽虫、腐っていてもワールドプロセッサの力を三つも借り受けておいてなんてザマなんだかね』
三界機構の力を用いた攻撃を、本日すでに5回発動しているが未だミュトスに疲れは見えない。相当、本来の力を取り戻しているのが俺の目から見ても分かるよ。
そうだな、ざっと8割方は戻ったか? 認定式の日に3割、今の5体で5割ってところか。一体につき一割ずつ、ウーロゴスを分割していたみたいだしね。
残る2割のうち、どれだけがプレーローマ・アンドヴァリの体内に収められているか……こないだ相対した時の感じのままなら、1割程度のものだけど。
やつの目的から考えると残り最後の1割だって取り込んでる可能性は高い。
っていうか、そういう話でいくと初っ端繰り出してきた5体のウーロゴス。アイツラだってあの女が取り込んでいてもおかしくはなかったんだよなあ。
決戦用の戦力として残しておくにはあまりに多い割合……これはおそらく、やつにとってそれが不要だったからこちらに割いたのだろう。
「プレーローマ・アンドヴァリの限界……結局元は人間なんですから当然と言えば当然なんですけどね。やつには、ウーロゴスすべてを取り込むだけのキャパシティがない。全体の1割程度までが己の力とできるギリギリの権能、それ以上取り込むのは暴走してしまうと判断したから……」
「暴走、というと……どうなるのですか公平くん? 何かこう、膨らんで破裂とかするイメージもありますが」
「似たようなものですよ、実際。力を抑え込められずに暴発すれば、肉体はもちろん精神的にも崩壊してしまうことになります。バグモンスターになるよりもおぞましい、変化が訪れるものと思ってもらって良いかもですね」
香苗さんに答えながらも、思い出すのは倶楽部幹部だった青樹佐知さんと火野源一だ。
いずれもスレイブコアを体内に取り込みバグモンスターへと変貌した、ある意味ではプレーローマ・アンドヴァリの先駆けめいた存在だったと思う。
アレクサンドラもスレイブコアらしきものを呑み込んで今のあのザマに成り果てたと聞くし、技術的に似たようなやり方で精製したんだろうな。
力を取り込んだ後の変生ぶりも青樹さん同様、肉が裂け膨らみ異形へと変わっていくというスプラッタなものだったと、その場に居合わせたヴァール達が証言しているしね。
俺の見たところ、取り込んだ力を半ば暴走させているのがバグモンスター、曲がりなりにも制御しているのがプレーローマ・アンドヴァリといったところかな。
であれば、力を取り込みすぎた際のリスク……すなわち暴走というのは、制御できる範囲を超えていよいよ異形へと成り果てていくことと言えるだろう。
それは、それだけはなんとしても止めたい。
香苗さんのみならず周囲の仲間達にアレクサンドラの置かれた立場を説明して、告げる。
「いくらなんでも、自滅の果てにモンスターですらないバケモノに変わるなんてあんまりです。何より火野アレクサンドラは、人間として罪を償い人間として悔い改めないといけないと俺は思いますから……やつは、絶対に人に戻します」
「そうですね。青樹さんのことを思えば、私も同意見です。どんな罪を犯したとしても、人が、あんな肉塊のようなモノに変貌して良いわけがない」
「バグモンスター……サウダーデさんから話は聞いてるけど、そんなにも異形の怪生物なんだな。人間の身で、わざわざそんなのになりたがるなんて」
「どうあれそのようなことになる前に、我々が力を尽くしてミス・アレクサンドラを止めねばならないのでしょう……っていうかあの方、火野の娘だったのですね。日本に来る途中に聞かされて驚きましたよ」
自身の体内にもモンスターの因子があることを踏まえてのものだろう、ひどく複雑そうな表情でロナルドさんが腕を組み天を見上げた。
一方で同年代のベナウィさんも俺に賛同してくださいつつも、そもそもアレクサンドラが火野の娘だということに驚いていた。
ですよねー……俺も初めて聞いた時は耳を疑ったし、頭も真っ白になりかけたよ。あのエリスさんにしかまるで興味のなさそうな老人が、まさかねえ。
一夜だけとは言え、いやはや大人の世界だよ。
「アレクサンドラ…………アレを殺したいというのは今でも嘘偽りなき本音の思いですが。それでも人間の姿を捨ててモンスターのようになる、などというのはかつて聖女だった女の末路にはあまりに相応しくありませんね」
「シャルロットくん……」
「……アレを人として助けることに否やはありません。元より私一人ではどうにもならない相手です。命でなく夢を奪うことで、せめて決着といたしましょう」
そして、シャルロットさんもエリスさんの視線を受けながらも、俺の意思に賛同してくれる。
恨み骨髄にも達した相手を、それでも人のままでいさせたいという彼女のそれは、慈悲でもあり同時に復讐でもあるのかもしれない。
人として生かす。けれど人としての夢は殺す。
そうすることできっと、区切りをつけたかったりするのかもな。
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