時よ凍れ。汝は若干バグ手前
拮抗、膠着、鍔迫り合い。互いに互いの同じスキルを相殺し合う戦いになるのではないかと思われたロナルドさんと海方の《氷魔法》バトルはしかし、あっけないまでに一瞬で決着がついた。
ロナルドさんのスキル発動が圧倒的に早く……信じがたいほどに一瞬でやつの手足と武装を凍てつかせたのだ。
「っ……あ、ぅおああああああっ!?」
「う、海方さんっ!」
「ふ、副幹が負けたっ!? 《氷魔法》同士なのに、撃ち負けたってのか!?」
「そんな……馬鹿な! まったく同じタイミングだった! なのになんで、こんな一方的な結果に」
スキルを発動した瞬間、なぜか自分だけが氷漬けにされていた。そのことを一拍置いてから気づいた海方が、先ほどまでのキザな振る舞いや言動をもすべてかなぐり捨てて顔面蒼白になって叫ぶ。
地金が出たな。藤近であればこの状況下でも余裕を失わなかったかもしれないが、これが幹事長と副幹事長の差ということだろうかね。
取り巻きの構成員達の目からも、眼前の一方的な結果は受け入れがたいものらしく叫びをあげ、ひたすら疑問を投げかけている。
しかしてそれだけじゃない。その構成員達さえも手足が震え出し、次々その場に蹲っていく。全身の体温を奪われたかのような、真っ青な顔色になっているぞ!
「って、いうか俺達も……こ、凍りつく、凍てついていくぅぅぅっ!?」
「う、動きも遅く……! あ、あれ? なんか、せかいが、ゆっくりに、みえて────」
「これは……この《氷魔法》は……!」
「公平くん?」
恐怖に叫ぶ構成員じゃないけど、俺も驚愕に目を剥く。今のスキル、《氷魔法》の域を半分超えている。
ここら一帯の因果が歪められてるのが見えてしまった。おそらくロナルドさんが特定の空間における、因果を極めて僅かながらに歪めている。そしてその部分の時間の流れが、通常と異なるものになっているんだ。
紛れもない、これはバグ寸前の挙動だ。本来想定している《氷魔法》にこんなことは決してできない。
物を凍らせるって事象の果てに時間に干渉し得ることはあるだろうけど、ぶっちゃけそこまで行くと因果操作一歩手前だからね……裏を返せば今現在、それを引き起こしているロナルドさんはつまりこう言えるのだ。
権能もないのに人間の身で、世界の理に干渉しかけているってね。
これで完全に時間停止まで行ってたら間違いなくバグスキルとしてフィックス班の精霊知能が動いているだろう。
そこまではまだいってないあたり、本当にギリギリのラインっぽいんだな、今のロナルドさんは。
そんな、オペレータの限界を超えかけているS級探査者は余裕の面構えで海方以下、構成員達を見ている。
一瞬の、けれど完膚なきまでの封殺だ。そしてその勢いのまま、サークルへと告げる。
「なかなかの練度だったぜ、海方とやら。それこそ25年前の俺よりは強いかもな。おっと、もちろんマキシムとミレニアム抜きでの俺と比べてだけど」
「き、きさ、ま」
「言ったろ? 俺も成長してんだって。曲がりなりにもS級、曲がりなりにも太平洋ダンジョン攻略クラン"レッツゴー太平洋"のリーダーだ。こと《氷魔法》の練度で負けてやるわけにはいかないのさ」
「れ、レッツゴー太平洋……?」
レッツゴー太平洋って何? 探査者パーティがさらに寄り集まって構築されるのがクランってのは知ってるんだけど、太平洋客船都市にはそういう名前のクランがあって彼がそこのリーダーなのか。
唐突に出てきた楽しそうなワードに首を傾げていると、同じく太平洋在住のサウダーデさんが気づいて説明してくれた。
どうやら太平洋ダンジョン探査周辺もいろいろ、複雑な構図になっているみたいだ。
「太平洋ダンジョン探査においては現在8つのクランがあるのだ、公平殿。そのうちの一つが彼が率いるレッツゴー太平洋で、もう15年以上も運営されている太平洋での老舗クランだよ」
「そ、そうなんですね……」
「ちなみにだけどサウダーデさんが率いている"太平洋攻略隊"ってクランがあっちじゃ最大最古の大手クランさ。お互い、日夜切磋琢磨しつつ果てもなければ底しれない太平洋ダンジョンの最奥目指して探査を続けてるよ」
「神谷様の先代である四代目聖女、フローラ・ヴィルタネン様もかつては太平洋でダンジョン聖教クランを運営されていたと聞きますね……今では引退されて直弟子に引き継いだそうですが」
うーむ、ロナルドさんにまさかのシャルロットさんまで加わっていろいろ聞かせてもらったぞ。太平洋ダンジョン、その攻略のために人類もいろいろと手を打っているんだな。
っていうかサウダーデさんもクランリーダーだってのが一番の驚きだ。あまりに武闘派の極みすぎて、常に単独で叫びながら太平洋を掘削するかの如く突き進んでいるものかと思っていた。そりゃそんなわけないよね。
なんならダンジョン聖教まで進出しているみたいだし、なんだか探査者達のお祭り騒ぎみたいな印象になってきたぞ、見果てぬ海のど真ん中。
直近で、ってのはさすがに難しいけどいつかは観光程度にでも、太平洋客船都市に行ってみたいもんだなあ。などと場違いにもそんな呑気なことをつい、考えてしまうよ。
「とりあえずは目の前のサークルを終わらせなきゃですけどね。残りは俺がサクッと……開けワームホール、海方以下構成員達をおまわりさんのところまで連れて行け」
まあ、今はそんな思いに耽っている場合でもなし、さっさと先に進まなければならない。
幸いにもこの場で一番厄介な、海方の封殺をロナルドさんが行ってくれたので俺も安心してワームホールを開けられるよ。下手な抵抗があるうちは、おまわりさんの下に送り込むのも難しいからね。
というわけで空間転移でまとめて連中を異なる場所に送り込む。先のロナルドさんのグレイシャルエイジ・ワールドで動きを封じられたサークル構成員達は全員、即座に近くのおまわりさん行きだ。
……これで良し。すっかりバリケードの周囲から人がいなくなったのを確認して、俺はワームホールを閉じた。
「────えっ、今のってスキル!? な、なんの穴だ!? ワームホール!? SFか何か!?」
「ハッハッハー。さっきのロナルドくんのスキルも大概だったけど、公平さんはちょっとこう、次元が違うもんねーいろいろ」
「ロナルドくん、これが山形公平殿なのだ。我々の培ってきた常識や知識、はたまた力量や実力の概念の枠組みの外にいる。間違いなくこれから先の100年、いいや1000年を象徴する大探査者として世界に名を刻む存在だよ、彼は」
「えぇ……?」
俺の行動、発動したワームホールを想定していなかったのか、面食らっているロナルドさんが盛大に驚きを示した。
そこにすかさずエリスさんとサウダーデさんが言及する。俺のことを評価してくださるのは光栄やら嬉しいやらプレッシャーなんだけど、さすがに1000年先を象徴するとかは言いすぎである。
そしてそんな評を聞きつけて、当然俺の隣の伝道師さんが目をキュピーン! と光らせるのが見えた。
怖ぁ……この後の展開がわかっちゃったよ。そうだね、句読点がガンダーラだね。
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