後を継ぐこと。次代に託すということ
大ダンジョン時代をソフィア・チェーホワ統括理事による、支配の時代と定義した藤近功という男。
彼が掲げた理想とはつまるところ、その支配からの解放……ソフィアさんの打倒と大ダンジョン時代の否定だった。
それでいて藤近個人はソフィアさんに向け、敵意と裏腹の敬意をも抱いているようで、なるほど人間らしい複雑さのある男だと思わされる。
彼女を、人類が乗り越えるべき壁だと思ったんだろう。どれだけ時間を掛けても、いつか否定しなければならないとでも考えていたみたいだ。
正直なところ、その思想は否定しない。人類がいつか概念存在をも超えていくならば、その過程で現世に干渉しているシステム領域ともどこかで訣別する時は来るべきだからね。
……だけど。その訣別は今ここで行うようなものではないし、藤近やサークル、ましてやその意志を受け継ぐような連中によって為されるものでもないというのが俺の思いだ。
こちらを睨みつける海方に、いやサークルの連中全員に告げる。
今しがた言った通りだ、こいつらに後継者なんて現れない。現れるわけがない。
「突然力を得ただけなのはお前達こそそうだろう。悪魔の権能、委員会というバックボーン、AMWという切り札──身の丈に合わない力を次々と与えられた、藤近がそれに染まり。海方、お前以下構成員達はそれに都合よく追従しただけだ」
「…………!」
「テロ組織としてのサークルの正体は結局、それだけのことなんだ。"リーダー藤近功の言うことに従い、背中についていくだけの集団"。藤近が言うから大ダンジョン時代に怒りを持って、藤近がそうだからソフィアさんに敵意を抱いているだけでしかないのがお前達だ」
淡々と、特に熱も篭もることなく指摘する。サークルについて粗方把握している今、彼らに対して必要以上に思うところはない。
要は藤近の私兵集団だ。プレーローマ・アンドヴァリの私兵たるダンジョン聖教過激派同様、大将である藤近の意志をただ全肯定して、それに忠実に従うだけの者達。
よほど藤近のカリスマに惹かれたか、与えられた力が魅力的すぎたか。いずれにせよ海方すら含めて構成員全員、たった一人のリーダーに染められきっただけの連中だということだ。
図星を突かれたのか、海方の目つきがキツくなり、殺意が込められていくのを感じ取る。
なるほど大した威圧だ。藤近もだけど海方も、思想はともかく能力や素質的には一廉の人物なのは疑いようもない。
だけど……結局、委員会に良いように利用されたのが運の尽きだったな。藤近は委員会に染まり、海方はそれに従い、サークルは盲目的に変貌した。
始まりからして受動的な、そんな連中に後継者などいるはずもない。空っぽな彼らに、そのことを突きつける。
「海方陸、お前も気づいているんじゃないのか。お前達のどこを、どう受け継ぐ連中が今後現れるんだ? 委員会に良いように操られて変貌した、藤近に便乗しているだけなのに」
「シャイニング山形、テメェは……!」
「後継者……自分達の後を継ぎ、託せる者。残して託せるだけの何かを示した者でなければ、未来に希望をつなぐことなんてできやしない。繋いでくれる者もまた、現れはしない」
当たり前の事だ。何かを残したからこそそれを受け継いでくれる人が現れる。それはどんなものであれ変わらない。何も残せないなら、誰かに託すも何もないからな。
本来、それはそんなに難しいことじゃない。形に残るものでも残らないものでも、要は誰か一人にでも感銘を与えられたのならそれだって立派な継承だ。
俺達すべての命は大抵、何らかの形で自然と継承を果たしていけるんだよ。
だけど、ことサークルという組織そのものについては話が別だ。構成員達個人はともかく、集団としてはどうあがいてもここから先には続かない。後に残せるものはないのだ。
海方もとっくに気づいていて、それでも気づかないふりをしてきたようだ。険しい表情をさらに濃くさせて、殺意を乗せて俺に銃口を向けてくる。
「お前達サークルは今じゃ結局、ただの委員会の劣化コピー。矢面に立ちたくない連中が身代わりに立てただけのスケープゴートに過ぎない。そんなお前達に残せるものなんて……全部まとめて"委員会が残すもの"に内包されて終わりだよ、海方」
「ペラペラと口の回る……! どうやら舌から喉から凍てつかされたいようだな、ガキがァッ!!」
「公平くん、危ないっ!!」
──委員会に事実上、洗脳される形で傘下に加わったサークル。であるがゆえに、その本質はそのものイコール委員会だ。
そんなサークルの後を継ぐ者が現れたとて、はっきり言うけど委員会のデッドコピーでしかない。理念も思想もほぼ委員会と同じなんだから、そりゃ当然そうなるわな。
藤近がそのへん、自覚的だったかはともかく海方は多少、分かっていたようだな。さすがにサークルの参謀役なだけはあるか。
それでも、認められずにいよいよ銃弾を放とうとしているあたりが限界なのかもしれないけど、な。引き金が引かれんとする間際、香苗さんの叫びが響く。
問題ない、AMWとて十分に対処してみせよう。
そう意気込む俺だったが、その瞬間──遥か天空から迫る気配と、声に気づき空を見上げた!
「────割って入れよ、スレイプニルッ!!」
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